吉祥寺のハモニカ横丁(「Wikipedia」より)

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 昭和ムードを色濃く漂わせ、駅近くや路地裏に密集する「横丁」は、これまで古くからの常連客である中高年客で賑わってきた。いわばミドル世代やシニア世代の“聖地”となっていたのだが、一方で最近増えているのが、若い女性客なども訪れるニュータイプの横丁だ。

 それにより、若者世代が旧来の横丁にも押し寄せ、従来の中高年客と若者層の交流が活発化。リクルートホールディングスは「2016年のトレンド予測」で、この現象を「横丁ルネサンス」とネーミングし、「横丁の活性化が地域創生にもつながる」としている。

 しかし、新型の横丁や若者客の増加は、本当に中高年客に歓迎されているのか。実は、すでに旧来の横丁では、さまざまな問題が顕在化しているという。

 従来の横丁は、終戦直後の駅周辺に存在したヤミ市を起源とするものや歴史のある繁華街周辺に自然発生的にできた飲食店街。これに対して、最近増えているのが、古い商店街を再開発したり商業施設内にレトロな雰囲気を再現したりするなど、カジュアルな飲食店を集めてつくった「新型横丁」である。

 例えば、2008年にオープンした「恵比寿横丁」は、閉鎖した商店街の跡地につくられた典型的な新型横丁だ。平日の夜もおしゃれな若者客で賑わい、女性同士で訪れる客も多い。

 テーマパークのような装飾によって昭和レトロなムードをつくり上げており、その猥雑な感覚が若者世代には魅力的に映るようだ。隣の客とも気軽に話せ、メニューの価格帯も抑えめとなっている。同時期に、チェーンでない古き良き居酒屋が再評価され、「せんべろ」(1000円でベロベロに酔える酒場)がブームになったこともあり、10年頃から雑誌やテレビで横丁が頻繁に取り上げられるようになった。

●観光気分の若者が流入、常連の横丁離れも

 問題は、こうした新型横丁で横丁文化に触れた若者たちが、旧来の横丁にも流入していることだ。横丁研究家の井上健一郎氏は、若者客の進出によって旧来型横丁に起きた変化について、こう語る。

「葛飾区立石にある『呑んべ横丁』は、横丁ブーム以前はそれほど混み合うことはありませんでした。ところが、最近は観光客のような若者が押し寄せ、常連客が入店できないことが増えているのです」(井上氏)

 ブームに乗って押し寄せる「観光客」は、個々の店や横丁全体の雰囲気を考えず、人気メニューだけをひたすら注文し、それをスマートフォンで撮影して大騒ぎを繰り広げる。こうした行為は、店によっては迷惑となるのも事実だ。

 そもそも、横丁の居酒屋は客同士がコミュニケーションを取りやすいが、見知らぬ間柄にもかかわらず、いきなり隣の客に話しかけるのは時として「マナー違反」になる。そのため、客同士のトラブルも頻発しているという。

 いつもの顔ぶれで、いつものように静かに酒を呑む……。そんな雰囲気を愛する古くからの常連客の足が、観光客のような若者たちが押し寄せるために徐々に遠のき、横丁から離れつつあるのである。

●「ファミレス化」するハモニカ横丁

 また、新型横丁の登場によって、別の問題も起きている。それがよくわかるのが、吉祥寺駅前にある「ハモニカ横丁」のケースだ。

 ハモニカ横丁は、戦後から続く由緒正しい旧型横丁。飲食店だけでなく、さまざまな店が100軒ほど密集しているディープなエリアである。細々と営業する昔ながらの居酒屋がある一方、平成になってからオープンした若いオーナーのおしゃれな飲食店も増えていて、その雑然とした雰囲気が地元の人に愛されてきた。

 ところが、横丁ブームによってメディアに取り上げられ、吉祥寺の観光名所化したことで大きな変化が起きている。

 井上氏によると、「ブームの影響で横丁の家賃が高騰し、各店舗の経営を圧迫していて、新規出店した店の中にはそれなりに客が入っていても経営が成り立たず、閉店するケースが増えている」という。そして、その結果起きたのが、ハモニカ横丁の「均質化」である。

「そうした店が閉店した後、そこに新たに出店するのは、横丁のなかでも成功しているおしゃれな人気店の経営者です。しかも、そうした経営者は、次も似た感じの店をつくる。結果的に、同じような店がチェーン店形式で増えていき、横丁内の店が均質化する……という現象が起きています」(同)

 横丁は、外観や雰囲気、メニューに統一感がなく、個性的かつ雑多な店が集まっているのが魅力だった。しかし、現在のハモニカ横丁は、観光地化と資本力のある経営者の参入によって似たような店が増え、いわば「ファミレス化」が進行しつつあるのだ。

 横丁が脚光を浴び、客層が若返ること自体は悪いことではない。とはいえ、横丁がブーム化したことで失ったものも大きいのである。中高年の憩いの場としての横丁は、この先、どんどん少なくなっていくのかもしれない。
(文=鉾木雄哉/清談社)