「オーストラリア戦は守備と攻撃にオートマチズムが見られていただけに、サウジアラビア戦も期待していた。ところが前半20分頃までは、ほとんどコンビネーションでの攻撃がない。目を疑うほどに、プレーがスローで偶発的だった」

 W杯アジア最終予選サウジアラビア戦。ミケル・エチャリは日本代表の入りの悪さを鋭く考察している。"スペインの慧眼(けいがん)"エチャリ(現バスク代表監督)による「ハリルジャパン分析リポート」も5回目となった。フットボールを透視するような眼は、細かいところまで見逃さない。

「山口(蛍)は活動量が多く、2列目に入っていく攻撃力がある。しかしアグレッシブな性格で、ときに周りが見えず、不必要に相手に寄せてかわされたり、長谷部(誠)との距離感を測れずに近づきすぎ、パラレルになったりしてしまう」

 慧眼エチャリは、サウジ戦でなにを見たのか?

「オーストラリア戦と比べ、5人の選手を入れ替えたことが影響していたのだろうか? 攻撃的志向が強くなったのかもしれないが、テンポが悪く、テクニックも冴えず、なによりコンビネーションが見られない。相手に打撃を与えるには、選手の流動性が必要になるが、斜めの動きや入れ替わる動き、サイドバックの攻め上がりもほぼ皆無だった。前半20分頃まで、プレー判断が悪く、とりわけ左サイドの幅を使えない。

 17分には、右サイドのラインを破られ、失点のピンチを招いたほどだった。

 サウジは基本4−2−3−1という布陣だったが、攻めるときは4−4−2になる。長谷部がトップ下の選手に引っ張られ、清武(弘嗣)が右ボランチ、山口が左ボランチを見ると、守備にズレが起こった。オーストラリア戦の守備組織と比べ、前後のラインが間延びし、結果的にプレスははまらず、ボールを奪えず、波状攻撃も仕掛けられない。挽回するのは、19分に原口(元気)から大迫(勇也)にパスが渡り、反転シュートした辺りからか。

 トップ下の清武がインサイドの原口と連係し、攻撃を生み出すようになる。大迫が下がってボールを受け、久保(裕也)が右から中央へダイアゴナル(斜め)に走り、右サイドの酒井(宏樹)が上がる。日本らしい流動性が出てくると、サウジにダメージを与え始めた。30分を過ぎてからは完全に日本ペースだった。前半終了間際には、清武のシュートがハンドの判定でPKになって先制した。ただし、ハンドそのものは怪しい」

 後半、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は久保に代わって本田圭佑を投入。この交代によって、「選手の動きの質が向上。ラインを破るパスが増え、危険なプレーが多くなった」とエチャリは解説する。

「日本は本田の投入によって、斜めの動きが増え、幅を作り、深みを作れるようになった。前半は攻め上がりが少なかった長友(佑都)が、左サイドを支配するようになる。清武のパスを受け、長友が中央の本田に折り返したプレーは特筆に値する。コンビネーションでの崩しが活溌になった。そして80分には本田が左サイドでタメを作り、長友にパスし、長友は左サイドからマイナス方向へ折り返し、香川がこれをスルーし、中央の原口が右足で左隅に叩き込んだ。

 見事な連係で、これはゴラッソ(スーパーゴール)と言えるだろう。

 この試合、というより予選全体を通じ、チームの舵を取っていたのはMF長谷部だった。彼の試合を読む目は、他に代わりがいないのではないか? どこにどんなタイミングや速さでボールを配球すべきか、長谷部は心得ている。久保や原口に出したロングパスには、喝采を送りたい。守備でも山口をカバーしていた。

 もっとも、試合の主役としては原口の名前を挙げるべきだろう。

 原口はExtremo Falso(偽のウィング)のようなポジションでプレー。布陣図では左サイドアタッカーだが、プレーエリアは左インサイドハーフに近い。攻守にわたって広大な領域をカバー。高いスキルとビジョンでプレーを広げていた。ボールを奪い、こぼれ球を拾い、一気にドリブルで敵陣に持ち込み、逆サイドも使い、4試合連続得点とゴールゲッターの役目も果たした。エクセレントだった」

 そしてリポートの最後に、エチャリは現時点でのベストな日本代表の攻撃陣容についても触れている。

「オーストラリア戦の本田の"偽9番"(本来はFWではないが、MFがFWのように振る舞う)という起用は的中していた。本田と香川、もしくは清武が連係することで、日本は効果的連係が生まれる。FWは、もし岡崎(慎司)が不調なら、私の知る限り、本田の偽9番が適役だろう。そこに原口が守備の献身とダイナミズムを与える形か。日本が強豪相手にカウンター主体で戦うなら、このスタイルが一番適切に思える」

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki