メキシコ土産のマグカップの釉薬に危険な「鉛」が!(shutterstock.com)

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 他人への土産選びはセンスが問われるので、食べものが無難だ。逆に自分用の土産ならば、末永く愛着を感じそうな食器なんかをゆっくりと選びたいもの。

 しかし、その愛用品を通して長年、口から「毒」を摂取していたとしたら......。

食器の釉薬に17%もの鉛が!

 そんな悲劇に見舞われたのは、55歳のカナダ人女性。彼女はメキシコ旅行を満喫した際、お気に入りの伝統的陶磁器を地元で購入して持ち帰った。すっかり愛着を覚えた女性は、そのマグを頻繁に使い、お湯を注いではお茶を愉しんでいたようだ。

 ところが、件のメキシコ製マグを長期間使い続けてきたある日のこと、彼女は筆舌につくしがたいほど重度の腹痛に襲われた。しかも一度ならず何度か入院を繰り返し、腹痛に加えて貧血や関節痛ばかりか、極度の疲労を抱えるにおよんで「ある疑惑」に思い当たった。

 そう、激しい腹痛や数々の不調原因をもたらす<真犯人>は、長年愛用してきた陶磁器なのでは!?

 検査の結果、恐ろしい事実が判明した。なんと、彼女が日々口で触れてきた食器の内側と外側、その両方の釉薬(うわぐすり)に17%もの「鉛」が含まれていたのだ。
お湯を注ぐたび鉛が染み出ていたマグカップ

 「彼女がマグにお湯を注ぐたび、釉薬から鉛が染み出していたわけです」

 カナダ・トロント大学総合内科医で、米ハーバー大学薬剤疫学部リサーチフェローのMichael Fralick氏は、陶磁器の解析結果をそう語る。検査の結果、女性の血中鉛濃度は「正常」とみなされる上限値の「実に約36倍近くになっていた」そうだ。

 メキシコや中国の伝統的な調理器具や食器、陶磁器に用いられる釉薬には、「高濃度の鉛」が含有されている例が少なくないという。

 公衆衛生の専門家筋では、昔から認識されてきた警戒事項だが、「鉛中毒」が一般人の耳目を集めたのはこのカナダ女性の一件が起きてからだ。

 メキシコの土産物が原因と聞くと、なんとなく自分とは縁遠い話と思われる方もいるかもしれない。が、鉛中毒自体は決して遠い異国の疾患ではない。問題の鉛の源を知れば、それがどれだけ身近なものかがお判りいただけるだろう。

 たとえば、「いつか古民家暮らしをしてみたい」という憧れをお持ちのあなた。現在居住中の家も、結構年代ものの建物ではないだろうか? 問題は建材というよりも、家屋用の塗料のほうで、1978年以前の製造だと鉛疑惑が高くなる。

 あるいは、古い玩具や雑貨、家庭用品をコレクションしているあなた。それが1976年以前に塗装されたものである場合も要注意。

 鉛規制の厳しい米国外で製造されたオモチャなども、子どもの口に触れるような置き場所からは撤収させるのが賢明。とりわけ小さな子は、鉛中毒に対して最も脆弱な存在で、時には致命的な疾患に陥る例もあるので侮れない。

画材や蓄電池など、日常に存在する「鉛」

 ほかにも、画材や絵具セット、汚染された埃やパイプの蛇口、ペンキの欠片で汚染された土壌や蓄電池......。鉛含有の源が、いかに日常の環境の中に存在するかが判るだろう。

 「鉛は少量でも毒性を持ちますが、鉛中毒に関しては長期間に渡る日常的な曝露によって引き起こされる例がほとんどです」

 「ただ、今回の患者さんが使っていた陶磁器のように、鉛を用いた陶磁器でもたまに使う程度であれば、深刻な問題はまず起きないだろうと思います」(前出・Fralick氏)

 実際、55歳のカナダ女性の場合も、原因が特定され、本人と子息に件のメキシコ製陶磁器の使用を控えてもらったところ、およそ3カ月で中毒症状は失せたそうだ。

 ただ、この母子例は食器の撤去で一件落着したものの、その原因が家屋の塗料だったり蛇口のパイプであった場合には難儀さが伴う。もし、そんな不安感を覚えたならば、最寄りの保健所に相談し、鉛の撤去法について指導を仰いでみるのも一考だ。

 江戸時代の将軍家では、乳母たちが鉛を含んだ白粉を、顔から首筋、胸から背中にかけて厚く塗っていた。それを通じて、乳幼児の体内が鉛に侵され、知的障害や痙性麻痺が残る例もあったという。

 陶磁器発の鉛中毒は、遠い海の向こうの話ではない。白粉文化が絶えたとはいえ、鉛中毒に対する子どもの脆弱さは今も何ら変わらない。身の回りの意外な盲点を見直してみよう。
(文=編集部)