ハンモックを使って空中に浮いた状態でヨガを行う「エアリアルヨガ(空中ヨガ)」を、まだ日本では誰もやっていない時代に単身アメリカに渡って学び、日本に帰ってからはイエローページで探した建築会社にハンモックをぶらさげるための設備を特注で作ってもらったという、行動力と情熱がみなぎる日本人初のエアリアルヨガ・インストラクターが谷口美里さんです。「エアリアルヨガとは何なのか?床でやるヨガとどう違うのか?」ということで実際に空中でヨガをする様子を見せてもらいつつ、ヨガスタジオ「エアリアルヨガ・ジャパン」設立の裏話などたっぷりと聞いてきました。

『エアリアルヨガ・ジャパン』オフィシャルサイト

http://www.aerialyoga.jp/

ここが谷口さんのスタジオ。レッスンは一度に3人までで、ハンモックをぶらさげている柱は特注で作ってもらったそうです。



ハンモックをぶらさげている女性が、エアリアルヨガ・ジャパン代表の谷口さん。



空中に浮かびながら行うエアリアルヨガは一体どういうものか?ということは、とにかくムービーを見ると一発でわかります。

空中で浮かびながら行う「ウーナタ エアリアルヨガ」はこんな感じ - YouTube

ということで、谷口さんが行っている「ウーナタ エアリアルヨガ」とは通常のヨガと何が違うのか?ということや、日本でウーナタ エアリアルヨガを始めた第一人者である谷口さんがどのような経緯でインストラクターになったのかなど、根掘り葉掘り聞いてみました。

GIGAZINE(以下、G):

実演を見せていただいたところ、スピードが速かったこともあり、とてもアクロバティックに見えました。

谷口美里(以下、谷口):

今回は「ハンモックを使って浮かぶ」という動きのみを行っていますが、実際は、いきなりハンモックで逆さまになるわけではなくて、準備運動のようなものから始めます。最初からハンモックに全体重を預けることはありません。あと、床でやる動きも組み合わせます。逆さまになってはいけない人もいるので、生徒さんが快適だと思うことをします。

例えば背中を伸ばす「犬のポーズ」は身体が硬い人にとっては手首や肩にすごく負担かかるポーズです。なので、人によっては「背中が伸びて気持ち良い」と感じられない場合もあるんですけど、ハンモックを使うことで、体の硬さに関わらず「そのポーズで本来伸びるべき部分」を伸ばすことができるんです。

これが犬のポーズ。



ハンモックを使って犬のポーズを行うと以下のような感じ。



G:

それが犬のポーズの代わりなんですか?

谷口:

背骨の伸びや内臓の位置にフォーカスした場合、この形になります。

また、手首をハンモックにかける感じでもできます。この形だと、背骨が伸びにくくなる人もいますが、体の裏側のストレッチ、下半身にも働きかけます。



「ウーナ タエアリアルヨガ」は、「楽しい!」というのはもちろんですが、ハンモックを使う目的がはっきりとしています。人間は常に重力に影響され、姿勢が悪くなりがちです。それはヨガをやっているときも同じです。でも、ハンモックを使うと重力という「下から引っ張られる力」だけではなくて、「上に引っ張られる力」も加わります。ハンモックによって姿勢を整えながら、重力を味方につけることで、床で行う通常のヨガもさらに深まるという感じです。

G:

先程、ウーナタ エアリアルヨガは目的がはっきりとしていると仰られたのですが、その目的が「ヨガを深める」ということなのでしょうか。

谷口:

そうですね。ハンモックを使ってヨガをすると、より「ヨガマスターが体感しているであろう」感覚を得ることができます。「このポーズが『できている』というのはこういう感覚か!」と、体の硬い私は何度も感動しました。床でやるヨガの練習に戻ったときに、「あの感覚になるためにはこういう風に筋肉を使っていけば良いんだ!」と、わかるようになりました。それによって「これ以上頑張ると違うところが緊張してしまうな」とか、間違った形で無理に頑張るということをしなくなりましたね。

G:

初心者だと上手くポーズができないけれども、ハンモックを使うことによって、伸びるべきところが伸びたりすると。

谷口:

床でやるのとは見た目が違うかもしれませんが、ポーズの目的を達成できるようになっています。あと、サポートされるがゆえにリラックスせざるを得ない、ということもあります。

G:

リラックスせざるを得ないとは?

谷口:

緊張できない部分が出てくるんです。

G:

要らない部分の力が入らないということですか?

谷口:

例えば、このポーズは肩甲骨を使ってぶら下がっています。足がついている分腰に力が入りがちですが、重力に逆らわず、力を抜いていくと腰が落ちて腰椎が伸びます。そうすることで胸が開きます。ぶら下がっている時に重力に逆らって縮こまるのは難しいので、リラックスせざるを得ない部分が出てくるんです。



あと逆に、ハンモックというサポートがあるがゆえにコア(体幹)を使わざるを得なくなりますね。コアが使えていないとハンモックがフラフラしてしまうんです。だけど、しっかり体幹が使えているとハンモックが安定するので、「私は今正しく身体を使えていないんだな」というのがハンモックの揺れで分かります。

内股を伸ばすポーズも……



体幹が使えない人は「あっ……」とよろめいたりするので。



G:

ということは、非常にアクロバティックに見えるウーナタ エアリアルヨガですが、初心者でもいけるという感じですか?

谷口:

そうですね。

あとハンモックを使ったヨガの場合、リラックスしていると同時に、使っている部分はアクティブな状態なんです。そして、ポーズを開放したときに布の圧迫が外されて、よりリラックスできます。こういう「布の圧迫」という部分は普通のヨガにはないところですね。



さっきのポーズだったら、例えば年齢と共にちょうどブラジャーの上に肉が乗りがちな場所だったりとか、リンパの流れなど滞りがちな場所も刺激していましたし、マッサージ効果もあります。



G:

ほかに、通常のヨガとは違う効果のようなものはありますか?

谷口:

ハンモックを手で引き寄せる動作は、通常のヨガにはないですが、コアコンディショニングに役立ちますし、ヨガでやりがちな肩関節の怪我の予防をします。肩関節に限らず、床で行うヨガには、体が硬く縮こまったままやると関節や筋肉に負担がかかり危険なポーズもあります。ハンモックを使うことで、まずは背骨を伸ばしたり、リラックスしてニュートラルな状態に戻してから正しく動くことで、怪我の予防や体を鍛えていくことができます。

アクロバティックに見えるポーズも、床でやるより負担が少なくできます。ハンモックを使って行う逆さのポーズは脊椎の骨と骨の間にスペースができますが、床だと圧迫する力が働くんです。

もちろん、床のヨガを否定しているわけではありません。正しい姿勢でしっかり筋肉を使っていければ素晴らしい効果があります。でも、修行僧じゃないし、ずっとパソコンの前で長時間労働していた体では、簡単そうなヨガの動きでも、正しく行うのがとても難しいんです。先ほどのアクロバティックに見えるポーズも、床でやるより軽減されている部分がたくさんあります。

例えばこのポーズは、身体が硬い人だと膝がこのぐらいの位置になるかもしれませんし……



私はこのぐらいです。



もっと柔らかい人は足が頭の方までくるかもしれません。この場合、背骨はより反れますが、重力があるので骨と骨のスペースは保たれます。床だと挑戦すら難しいポーズも、ハンモックを使って効果が得られる状態になります。

ハンモックがあるがゆえに隣と比べられないということもあります。床だと「開脚をして前屈しましょう」という時に、身体の硬い人が一番見渡せるし、先生が「体側を伸ばそう」と言った時に、先生の手が限りなく床の近くにあったとしたら、手の位置ばかり気になる人は前方に体を曲げてしまうかもしれません。でもそれでは体側が全然伸びないんです。



本当は形というのはそれぞれで、ある人にとっては手が床につく位置がベストなのかもしれないし、腕さえ上げなくても良い人もいるかもしれない。ハンモックという軸が入ることによって、見た目に左右されず、人がそれぞれの形を正しく保つことができるので、そういう意味で通常のヨガよりも「人と比べないでいい」という部分があると思います。

G:

では生徒さんは、いろいろなレベルの方がいらっしゃるのでしょうか。

谷口:

そうですね。このスタジオでは、3人の生徒さんのみなのでレベル分けはしていないんですけど。ハンモックに乗ること自体が最初は難しかったりするので、多少はレベル分けがあった方が良いのかもしれません。

G:

エアリアルヨガのインストラクターになる前は、床で行うヨガのインストラクターだったんですよね?

谷口:

はい。でも勤めていたヨガスタジオが潰れて、それからは紹介を受けて出張ヨガで社長さんやセレブな方へのプライベートレッスンを行ったり、その繋がりで、企業やマンションの住人専用のグループレッスンをしたりしていました。エアリアルヨガを始めててからも、妊娠8ヶ月まではこのような形で床のヨガの出張インストラクターを続けていました。

G:

谷口さんが行っているのは空中で行う「エアリアルヨガ」のうち、「ウーナタ」という流派のものですが、ウーナタ エアリアルヨガの「ウーナタ」というのはどういう意味なんですか?

谷口:

サンスクリット語で、「進化、発展」という意味です。

G:

その「ウーナタ エアリアルヨガ」を始めたのが、谷口さんが師事されているミシェル・ドーティニャック先生ということですね。

谷口:

「エアリアル」というのは英語で「空中の」という意味なんですけど、ドーティニャック先生がウーナタ エアリアルヨガを始めた時、アメリカでは「空中の」や「ヨガ」という一般的な単語では商標を取ることができず、「ウーナタ」の方で商標を取られたそうです。

G:

ドーティニャック先生とは別に、エアリアルヨガには他の流派の先生もいらっしゃるのでしょうか。

谷口:

他のことは詳しくないのですが、ヨガには国家資格がないので、たとえ「ヨガ」という名前がついていても、実際にはヨガの指導者以外がエアリアルヨガの講座を教えている場合もあると聞きました。ただ、エアリアルヨガは、ベースとなるヨガの知識がなければ、ハンモックが「ヨガを深めるもの」ではなく、単なるパフォーマンスの道具になる可能性があります。

G:

ドーティニャック先生に師事していて良かったと思われる時はどんな時でしょうか。

谷口:

例えば、私はヨガの勉強を続けていて、ハンモックではなく床でのヨガや、ヨガと関係のないボディワークなどいろいろと学んでいるのですが、その時に「これは私の体では今はやりづらいけど、ハンモックを使って練習していけば上手くできそうだな」という風に考えることができます。先生からただポーズを習ったというより、ハンモックを使う意味を習ったので応用ができます。

G:

「ヨガを深めるためのハンモック」という捉え方ができるということですね。ウーナタ エアリアルヨガと他のエアリアルヨガとの違いはありますか?

谷口:

他のものはよく分からないので、違いという感じでは言えないですけど……。ハンモックという補助具はすごくパワフルなので、立ち位置1つで身体の姿勢を大きく崩しかねません。



YouTubeの動画やネットで公開されている写真を見ると、あまり「姿勢」や「立ち位置」について考えていないのかな、と思うことがあります。1枚の写真や動画だけでは判断はできないのですけど……。

ドーティニャック先生のもとで学んでいくうちに、「これでは全然身体を整えたことにはならずに、逆に積み重ねていくとケガの原因になったり骨と骨の間を変に圧迫することになる」と分かるようになったことも、先生のもとで学んでよかったな、と思えることの1つです。

G:

なるほど。谷口さんはウーナタ エアリアルヨガを始められてからは長いのでしょうか?

谷口:

先生がニューヨークでウーナタ エアリアルヨガを始めたのが2006年で、ティーチャートレーニングをしてくれるようになったのが2009年です。私は2009年の最初のトレーニングを受けて、それが切っ掛けで日本でも自分でオーガナイズするようになりました。

G:

なぜドーティニャック先生のトレーニングを受けると決められたんですか?

谷口:

私がヨガの先生の資格を取ったのが2006年で、最初にインドにある「シヴァナンダ・アシュラム」という施設でシヴァナンダ・ヨガを学んだんです。その施設では「毎日3時間倒立をすることが長寿の源である」と言われていたんですが、絶対にそんなことはできないじゃないですか。今だと、「そんなことをしたら頸椎が圧迫されて余計にケガしてしまうんじゃないか?」と思うんですけど、当時は純粋に「できたら良いな」と思っていました。そんなタイミングで、日本に帰ってから、街を歩いていたら「逆立ち健康法」というふれこみで、逆さまになれるベッドが紹介されているのを見かけたんです。

「これは私向きだ!」と思ってインターネットで調べてみたんですが、なかなか検索結果が出てこなくて。「もしかしたら輸入のものなのかもしれない」と思って英語で調べているうちに、エアリアルヨガに出会いました。

G:

偶然の出会いだったんですね。

谷口:

エアリアルヨガのウェブサイトを見てハッとなって。腰や足首を一カ所だけ固定して逆さまになるのではなくて、ハンモックを使っていろいろな場所を支えることで、体全体が開放されると思いました。私は子どもの頃から腰や肩が痛く、病院で手術をするレベルではないけど、側湾症だと言われていたので、その背骨や姿勢の改善にもよいのではないかと思って。それが2007年のことです。

2008年になるとハンモックを使ったヨガも海外では増えてきたので、ニューヨークへ行って習ったところ、絶対に私には合っていると思いました。それで、2009年にドーティニャック先生のトレーニングが始まったので受講しました。当時はエアリアルヨガのティーチャートレーニング自体がほとんどなかったので、特に「この先生が良い!」という理由で受けたわけではありません。



G:

そうだったんですか。

谷口:

だけど、やってみたら本当に「ヨガを深める」というトレーニングだったので、他のところじゃなくて良かったなと思っています。

G:

2009年に単身でニューヨークに行かれた時は、どのようにしてトレーニングに申し込まれたのでしょうか。現地に行って飛び入りで申し込む感じですか?

谷口:

いえ、ドーティニャック先生の活動をずっとチェックしていて、「この先生がティーチャートレーニングをやりだしたら絶対に受けよう」と思っていたので、あらかじめメールを送っていて……。

G:

トレーニングが始まる前から既に連絡を取っていたんですね。

谷口:

はい。今後トレーニングをやる予定はあるかなどを聞いていて、「あるよ」ということだったので、いち早く教えてもらって行きました。その時は先生の自宅で生徒5人のみのトレーニングでした。

G:

日本でエアリアルヨガを行っているインストラクターの方には「ドーティニャック先生のところに習いに行きたかったけれど、英語ができなくて断られた」という方もいると聞きました。もともと英語での会話は問題なくできたのでしょうか?

谷口:

海外旅行が好きで、バックパッカーのようなこともやっていたのと、ヨガのインストラクターをする前は外国人がたくさん来る場所でコンシェルジュをしていたので、日常会話程度の英語はできました。「すごく英語ができる」というわけではありませんが。

G:

言語的な問題はなかったんですね。

谷口:

あと、「ヨガ」という、自分が知っていることを習うので、理解はしやすかったです。

G:

ウェブサイトで公開されているプロフィールを拝見すると、いろいろなトレーニングを海外でフットワーク軽く受けられているようでした。

谷口:

ヨガには国家資格がなくて、民間の資格だけなんですけど、今では日本でも有名な「全米ヨガアライアンス」という協会でさえも当時はまだポピュラーではなかったんです。「日本人は資格に弱いだろう」と考えて資格を取ろうと決めたんですが、当時は国内よりも海外に先生が多かったのと、カリキュラムも充実していたので、海外で学びましたね。あとは、海外で習ったら、英語でもできて、日本語でも教えられる先生になるかな……とも考えていました。なんかこう言うと、腹黒い感じなんですけど(笑) 当時は習いたいトレーニングや先生が、日本より海外に多いと感じたんです。

G:

外国の方に先生が多かったんですか?

谷口:

そう思います。「生徒としてヨガをする」という形がポピュラーで、今みたいにヨガインストラクターの資格を取るスクールや、海外から先生を招致しているヨガスタジオは、あまりなかったんです。私が習っていた先生は「弟子を取る」というようなスタイルでしたし。いいなと思ったところは1つありましたが、週末のみのトレーニングで、インストラクターになるのに何ヶ月もかかるようでした。

時間にも限りがあるし、やると決めたらすぐにヨガを学びたかったのとで、海外に行くことに決めました。でも、やって良かったなと思います。

G:

「この状況で最大限の得るものを得るためには」という考えだったということですね。

谷口:

今だったらわざわざ海外に行かなくても、有名な先生たちが日本に来ています。もちろん、来らない先生もいるので、「海外に行って習いたいな」と思うこともありますが、日本でも「この先生に習いたいな」という先生はたくさんいます。「海外じゃないと嫌だ!」と思っているわけではないですね。今も日本でトレーニングを受けている最中です。

G:

日本での状況が変わってきたんですね。

谷口:

そうです。昔だったらバックパッカーみたいにバッグを1個持ってサッと行けていて、結婚したてぐらいでも夫に「将来の見通し」みたいな企画書を渡して行っていましたが……。

G:

企画書!「今、海外でトレーニングを受けると、こういうことができるようになる!」ということですか?

谷口:

「これを受けると、将来的にこういう風になる!」……みたいな。今は子どもがいるので、1泊以上子どもと離れるのは難しいのですけど。去年は母と子どもを連れて3人でカナダ行き、トレーニングを受けました。



G:

それでも行かれたんですね。

谷口:

そうなんです。でも、控えないとな、とは思っています(笑)

G:

今は何のトレーニングを受けられているんですか?

谷口:

今は、助産師さんのグループで……「トコちゃんベルト」は知っていますか?

G:

「トコちゃんベルト」?

谷口:

私も妊娠するまで使ったことがなかったんですが、妊娠中に骨盤を支えることで腰痛などの予防をするベルトなんです。妊娠した時に「一応」ということで買ってみたら、臨月の最後の一週間、恥骨が痛い時に、すごく役に立ったんです。

私はヨガをやっているので、「骨盤を支えるのは自分の筋肉でありたい」と思っていて、最初は否定的だったんです。子どもの頃に試した姿勢矯正ゴムベルトやコルセットが良くなかった思い出もありますし。例えばコルセットなどは、している時は良いかもしれないけど、脱いだら支えるものがなくなってしまうし、余計に自分の体幹を弱くしてしまう可能性があります。ですが、実際にトコちゃんベルトを使って助かったし、「使うべき時は使った方が良いな」と思いました。

今はトコちゃんベルトを扱っている助産師さんのグループで、体操を習っています。そこは物販だけで儲けている会社ではなく、助産師さんたちが医療のサポートに加えて、妊婦やママ、赤ちゃんのために体操などを教えていて、すごく感銘を受けたんです。

G:

プロイールには「全米ヨガ アライアンス認定校修了(RYT200)」とありますが、トレーニングを500時間受けるRYT500ではなく200時間のRYT200を選択されたのはなぜでしょうか。

谷口:

全米ヨガ アライアンスは90年代のアメリカで、数人のヨガの先生が設立した協会です。RYT500をとるには、RYT200をとった学校で300をとるか、ヨガアライアンスに加盟している学校で、300時間分のトレーニングを申告する必要があります。2010年からはオンラインでも申請できるようにもなりました。

ヨガアライアンスは素晴らしいと思います。でも、インドのヨガアシュラム、もしくは世界中のヨガスタジオがヨガアライアンスに加盟すべきだとは全く思いません。私もインストラクターになってから最初の数年は更新料を払い「ヨガアライアンス認定指導者」となっていましたが、そこに席を置くことで学びが深まる訳ではなかったし、日本にいる限りはあまりメリットがないような気がして、「RYT」に囚われず、学び、練習を続けています。



G:

「子どものころは背骨が曲がっていた」とのことでしたが、生徒さんの中にも「曲がっている背骨を矯正するため」という目的の方がいるのでしょうか。

谷口:

側弯症のヨガセラピーもしているので、そういう生徒さんもいます。通常のエアリアルヨガのレッスンでは、そういう話は聞いていないですね。エアリアルヨガと側湾症のヨガセラピーは別と考えてください。私の背骨も大分改善しましたが、今も曲がっています。一生のお付き合いですが、不調がなくなったことが大きな収穫です。

G:

通常のエアリアルヨガの生徒さんたちは、楽しみとしてやっている人もいれば、健康のためにやっている人もいるという感じでしょうか。

谷口:

そうですね。

G:

エアリアルヨガ・ジャパンでは体験レッスンをされていないですよね。ヨガ教室としては珍しいなと思ったのですが、何か意味はありますか?

谷口:

エアリアルヨガはここ3年間ぐらい流行していると思うんですけど、ネットで検索すると私のところが最初に出てくるので、テレビで放送されたり雑誌に載ったりするたびに、すごく問い合わせが増えるんです。すると、その都度対応ができなくなって……。

既存の生徒さんたちは定期的に通っていたいのに、「とりあえず一度体験すればいいや」という人の予約がたくさん入って、既存の生徒さんが来られなくなっても困るし……すごく嫌な言い方になってしまうのですけど。30分だけの短いレッスンを設けたり、「初回を安くして一度来てもらって、考えて欲しい」とは考えていなくて、初回は1時間半のレッスンをしっかりとやってもらって、エアリアルヨガとの相性を見てもらいたいんです。

エアリアルヨガ・ジャパンでは入会費・年会費を頂いていないので、一回体験したい人はもちろんできますが、体験レッスンキャンペーンのようなことはできずにいます。

G:

「ヨガの先生であること」と「ヨガスタジオを経営していくこと」ということは別物だと思うのですが、エアリアルヨガ・ジャパンを設立して運営するにあたって難しかった部分はどこでしょうか?

谷口:

苦労、してたのかな……?

G:

(笑)

谷口:

とにかく場所がなかったので、それがすごく難しかったです。

G:

設備が特殊ですもんね。

谷口:

はい、ハンモックを取り付けないといけないので。間借りする場所もないしで悩んでいたんですけど、母に「失敗したらすぐやめればいいし、スタジオ借りるだけなら貯金がなくなるだけでしょ?そのぐらいいいんじゃない?」と言われたことがきっかけで、「思ったらすぐ行動」という、いつもの自分に戻れてサクサク動けました。ただ当時はビジネスのことがわかっていなかったので、もっとうまくできる方法もあったと思います。

G:

ちなみに、ハンモックをぶら下げるための柱はどこで作ってもらったのですか?



谷口:

イエローページで探しました。

G:

作ってくれるところを!?1件1件、電話していったということですか?

谷口:

電話と、ネットですね。大手過ぎると「個人のお客様には対応できない」と言われたり。いろいろ見積もりを作ってもらったり、違う形で設計してくれた人もいましたが、これが一番シンプルでしたね。

「もっとウーナタが広がってほしい」と思っていたので、エアリアルヨガの教えるようになってからしばらくして、ティーチャートレーニングをすることにしたのですが、こっちのスタジオ探し・設備作りはさらに大変でした。より大人数が入る広い場所が必要だったので。

G:

スタジオを作ってすぐに生徒さんはやって来られたんですか?

谷口:

ホームページを作る前にブログで何となく発信していると、ヨガ雑誌の「Yogini」さんが「編集者が体験してみた」みたいなのを扱ってくださって、その後にヨガジャーナルさんも取材してくださいました。あとは、ファッション雑誌とか健康雑誌とかの取材もあったので、その力で。

G:

次々に取材が来るような感じだったんですね。

谷口:

Yoginiさんの取材のあとに「これはもうホームページを公開しないといけないな」と思って、すぐに立ち上げました。そうすると、広告費をかけたわけではないのですが、続けて取材の申し込みが入ってきました。

G:

当時は他にエアリアルヨガをやっている人がいないというか、競合相手もいなかったということなんですね。

谷口:

いなかったんです。

G:

生徒さんがいない状態から、これだけの設備を作るというところで既に覚悟が違うなと思いました。

谷口:

今だともっと素敵なスタジオもあるし、エアリアルヨガ・ジャパンはスタジオとしては狭くてイケてないかもしれませんが、「最初にやった」ということに宣伝効果があって注目されるようになったので、今でもこうやって取材が入るんです。すごくありがたいことに、宣伝に関してはあまり努力をしていません。

G:

何というか、「これだ!」と思ったものに対して、例えばエアリアルヨガに対しても、ドーティニャック先生がトレーニングを始めたら絶対に行こうと決断されていたことに関してもですが、直感と行動力がすごいですね。

谷口:

フィットネスジムの中には、ヨガでもエアロビでも、「首を回す」という動きを禁止しているところがあるんです。人に「日本の大手スタジオはこういうこと(ハンモックを使ったヨガ)をやらないんじゃない?」と言われたこともあり、「自分がやらないといけないのかな」と思ったのもありました。

G:

大手がチャレンジしにくいから、逆にやれそうだと。

谷口:

自分でやらない限りは誰もやらないのかなと思ったんです。でも、いざやってみると、私が最初に「これは絶対私の背骨に良い!」と思ったように、側弯症の人もたくさん来てくれて、「やっぱり私が思ったみたいに、良いと思うんだ」と分かりました。それで、「もっとちゃんとした知識のある人になりたいな」と、側湾症のヨガセラピーのトレーニングを受けました。ハンモックを使うのは私のオリジナルです。

あと短距離選手のウサイン・ボルトは側弯症で転びやすかったんですけど、それを筋トレで克服したと言っているのを見て、「やっぱり自分で改善していけるんだ」と確信したのもあります。

整形外科の先生はレントゲンの結果しか見ないけど、生活してその背骨を背負っているのは自分で、生活のしづらさとか痛みは本人しか分からないから、自分で取り組んで治っていくということが精神的な強みになったりもします。だから、ハンモックを使うことで人の役に立てるのかもしれないと思いました。

G:

そのような考えから「日本に広めていきたい」と思うようになったのですね。今の最終目標というか、将来的にどうなりたいかというのはありますか?

谷口:

今は、ティーチャートレーニングを行うこともすごく楽しいですし、通常のレッスンも楽しいので、それをずっと続けていきたいと思っています。



通常レッスンの生徒さんの中には「これまで20年間、生理痛が酷くて薬を欠かしたことがなかったのに、エアリアルヨガを始めてから薬を飲まなくてもよくなった」と3回目のレッスンで伝えてきた生徒さんもいました。そういう風に身体が変化したというのを、ここでレッスンをしていると聞くことが多くて。

このスタジオで教えられるのは一度に3人までです。少人数という環境であるがゆえに丁寧に教えられることはあると思います。こういう形でのレッスンはこれからも続けていきたいなと思いますし、あとは子どもが大きくなったら、もしかすると自分の大きなスタジオも持てるかもしれません。どこまでリスクを背負いたいのかなど、いろいろと問題がありますが、どちらかだけに絞るというわけではないと思います。どちらにもすごくパッションがある感じですね。

G:

最後に、根本的な質問なのですが、谷口さんにとって、ヨガはどのようなものですか?

谷口:

生活の一部です。子どもの頃から虚弱体質で、いつもどこかが痛いという感じだったので、ヨガをやっていなかったら多分もっと具合の悪い人になっていたと思います。今は子育て中なので、肩こりなどはしているかもしれませんが、こんなに快適に過ごせるのはヨガのおかげですね。特に、子どもが生まれてから「ヨガができない生活」を過ごした時に、ヨガが生活の一部になっていたんだなと感じました。

G:

本日はありがとうございました。