人気ビジネス書評家が推薦する「6冊の人心掌握本」

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数ある「他者の心をつかむ」テーマの本から、人気ビジネス書評家の土井英司氏が名著6冊を厳選。その内容を徹底解説します。

人の心を操る「記号」に注意を向けよ
『思考と行動における言語』
S・I・ハヤカワ/岩波書店

「『人を動かす』と『影響力の武器』に比肩する、隠れた名著」。出版マーケティングコンサルタントの土井英司さんがそう高く評価するのは、一般意味論について記された学術書だ。一般意味論とは、記号(特に言語)がいかにわれわれの思考や行動に影響しているか、そして人間がいかに記号に反応するかを研究する理論である。

「人間は言語という記号を使うことで進歩してきました。だから言語が有用であることは間違いないのですが、記号を発していれば、中身がどうであろうと人は自動的に反応してしまう危険性がある。たとえば警官の制服を着てる人を見たら『警官だ』と判断する認識を利用して、制服を着て詐欺を働く者がいる。つまり記号を巧みに使い分けることで、人々の感情を操ることができるんです」(土井さん)

いつの時代も、記号が持つ影響力を悪用する者が現れる。本書の原書が世に出たのは1941年。アメリカの言語学者であり上院議員を務めた著者は、「何百万人の人々をその狂的・破滅的な見解に巻きこんだアドルフ・ヒトラーの実例に見る、宣伝の危険に対応する」という目的で筆を執った。

「情報を発信する人であれば、記号に心が動かされるという人間の特性を理解することで、ビジネスやマーケティングで成果をあげることができます。一方、一生活者としては、言葉で物事の本質をつかもうとするとき、注意する態度を習慣づけていく。知的好奇心がくすぐられるだけでなく、非常に学びの多い一冊です」(土井さん)

コミュニケーションとは何かを知る
『[エッセンシャル版] マネジメント』
P・F・ドラッカー/ダイヤモンド社

組織を動かすうえで欠かせない書籍『マネジメント』。その中には人を動かすうえで読んでおきたい箇所がある。

「ドラッカーはマネジャーに必要なスキルを、第6章『マネジメントの技能』でまとめている。その4つは『意思決定』『コミュニケーション』『管理』『経営科学』で、『コミュニケーション』が参考になります」(土井さん)

ドラッカーはコミュニケーションには4つの基本があると説明する。1つが「知覚」。コミュニケーションが成立するのに重要な存在は、発信者ではなく受け手。受け手の理解できる言葉を使わなければコミュニケーションは成立しないので、相手のわからない言葉や専門用語は使わないようにする。2つ目が「期待」。人は自分が期待しているものだけを見たり、聞いたりする。期待していないものは受けつけないので、受け手が何を期待しているのかを知る必要がある。3つ目が「要求」。受け手が何かになること、何かをすることを求めて、コミュニケーションは生まれる。そしてコミュニケーションが力を発揮すれば、受け手の信念や価値観も変わるという。最後の原理が「コミュニケーションは情報ではない」だ。

組織内のコミュニケーションは上から下へ伝達する印象があるが、重要なのは受け手の理解や期待。さらに話を傾聴することはただの始まりであること、情報が多いほどコミュニケーション・ギャップは拡大しやすいなど、覚えたい指摘が多い。

心をつかむには伝え方も大事
『話し方入門』
D・カーネギー/創元社

人前で話すのが苦手だったというウォーレン・バフェットが通った、D・カーネギーの話し方講座。そのエッセンスを凝縮させた本であり、前述の『人を動かす』で原理を学んだら、実践編として手にとりたい。

「よい話し手になろうという一途な執念を持つことから始まる」「一にも練習、二にも練習」という基本的な姿勢の指導に始まり、スピーチの構成法、記憶力のつけ方など、準備の大切さを力説。そして態度、服装、スピーチの始め方、終わり方など、本番で役立つ知識も豊富だ。演説上手だった著名人の例もたくさん盛り込まれている。

第11章は「聴衆に興味を起こさせる方法」。相手の関心のある話を熱心に聞けば、自分で話をしなくても話し上手と見なされる、というアドバイスは『人を動かす』に通じている。

自分の心を掌握するために
『道をひらく』
松下幸之助/PHP研究所

500万部以上売れ、長年読み続けられている人生の教科書。121編の短文で構成され、人生やビジネスの心構えが説かれる。

「人の心を動かすことばかり考えていると、自分の心が疎かになりがち。そこで時々、自分の心を律するために読みたい一冊です」(土井さん)

「素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚を生む」「その境涯に素直に生きるがよい」など、人生においては素直さ、謙虚さを大切にすることが重要と提唱。

仕事面では、「些細と思われること、平凡と思われることも、おろそかにしない心がけ」「命を下す前に、まず人の言うことに耳をかたむけること」と、小さな心配りの必要性が語られる。

「『頑張れば報われる』という訓話が基本。読みやすく、シンプルな内容ゆえ、ヒントも多い気がします」(土井さん)

経済学から人間を学ぶ
『経済は感情で動く』
マッテオ・モッテルリーニ/紀伊國屋書店

行動経済学とは、「経済の主体であるところの人間の行動、その判断と選択に心理学から光を当てる」学問で、その面白い部分を紹介。土井さんいわく「経済活動や交渉など、あらゆる場面で役立つ人間心理がたくさん書かれていて、『影響力の武器』に通じる一冊」。

Q&A形式で読みやすく、先行投資額が巨大だとそれまでの投資がムダになるのを恐れて、未来予測を誤る「コンコルドの誤謬」、最初に印象に残った数字やものがその後の判断に影響を及ぼす「アンカリング効果」、経験を評価するとき、苦痛のピークと最後の時間によって判断される「ピーク・エンドの法則」など、行動経済学の理論が学べる。読んで気づくのは、人は必ずしも合理性のある行動を取らないということ。「経済学」であるが「人間学」としても読めるだろう。

インセンティブによる誘導術
『ヤバい経済学』
スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー/東洋経済新報社

保育園で遅刻を繰り返す母親に罰金制度を設けたところ、逆に遅刻が増えたのはなぜか..。「インセンティブは現代の日常の礎である」「人間はインセンティブで動く」の考えのもと、インセンティブ(誘引)をキーワードに、世間の常識や問題を解明していく。

著者によれば、人間を動かすのは、経済的、社会的、道徳的という3つのインセンティブであり、冒頭の問題は遅れて感じる罪の意識(道徳的)を罰金(経済的)に置き換えたことで、罪の意識を失ってしまったと分析する。

そのほかにも、「アメリカの犯罪率が激減した理由は中絶の合法化」「800長報道の後、7勝7敗で千秋楽を迎えた力士の勝率は下がって、平均の5割に戻る」など、世の中のダークサイドの事例を参考に、インセンティブの仕組みや設定の仕方が理解できる。

(ライター 鈴木 工 出版マーケティングコンサルタント 土井英司=監修 文= 鈴木 工 撮影=佐藤新也)