王者・帝京大の進撃が止まらない。難敵の明治大を蹴散らし、関東大学・対抗戦の連覇を「6」に伸ばした。試合後、赤いジャージの帝京フィフティーンがスタンド前であいさつする。最後はメインスタンド上段に陣取る百人以上のノン・メンバーに向かって手を振った。

 チームをリードしたスタンドオフ(SO)、松田力也副将は顔をくしゃくしゃにした。

「ぼくらはチームの代表として戦っているので、応援してくれた部員たちの笑顔が一番、うれしいんです。その瞬間が、すごくいい時間だと感じています」

 帝京大の強さの理由のひとつは、学生の人間的な成長がある。松田も最上級生となり、落ち着きが備わってきた。ゲームを見る目も広がり、状況判断も的確になってきた。プレーヤーとして成長した部分を聞けば、岩出雅之監督は「トータルコントロール」を挙げた。

 相手との駆け引き、味方とのコミュニケーション、戦術・戦略を状況に合わせて組み立てていく力である。SO松田のリードはこの日も冴えた。

 開始5分。帝京大は自陣の22mライン内のPKから速攻をしかけた。赤いジャージが瞬時に反応する。右に回し、こぼれ球を松田が拾って、小刻みなステップで一気に敵陣のゴール前に迫る。左に大きく2度振って、ラックから右に展開した。

 一番外の相手ウイングが前に出てくるのを見るや、松田はディフェンスラインの裏に右足でボールを転がした。微妙にボールに変化をつけるキックだった。ゴールライン直前でバウンドが変わり、これをフルバック尾晟也が取ってインゴールに飛び込んだ。

 鮮やかな先制トライだった。松田が淡々と振り返る。

「(相手)ウイングが上がってきたので、裏にスペースがあるのがわかっていました。(尾とは)ずっとコミュニケーションとっていますから、いっしょの絵が見られているのが大きいと思います。しっかりと思いがつながったというか、あれで勢いに乗れました」

 この試合の帝京大のテーマは『挑戦』だった。『厳しく、激しく、やり続ける』だった。松田が説明する。

「チームでやろうとしていたのは、挑戦という言葉があるように、挑み続けて、戦い続けることでした。厳しく、激しく、力強く前に出る。アタックでもディフェンスでもそれをやり続けることでした」

 特にディフェンス。連係の密さ、判断のはやさ、結束の強さがある。チームの成長を聞けば、松田はこう短く言った。

「ディフェンスのとき、みんながすごく体を張っているところです」

 さらにいえば、基本プレーの忠実さであろう。帝京大と明大の一番の差は「ミスボールに対してのリアクションのスピード」だった。例えば、セービング。松田のそれも抜群にはやい。なぜか。

「一人ひとりの意識だと思います」

 それはそうだ。帝京大はふだんの練習から意識を高めている。実はセービングに関し、こんなエピソードがある。今年の夏合宿(長野・菅平高原)。早大との練習試合の後、岩出監督はインゴールで雑なプレーからトライを取られたことを叱ったそうだ。セービングをしなかったことを注意したそうで、岩出監督は「セービングは頭から行くんだ!」と言って、自ら数本、セービングのお手本を見せたのだ。58歳の名監督が、である。

 監督にとっては、10何年ぶりのセービングだった。岩出監督にその時のことを聞けば、「わざと熱くインプットしていくのも大事ですから」と照れた。

 松田もまた、夏合宿の監督の"魂のセービング"をよく覚えている。

「熱いものをすごく感じました。それだけ、セービングが大事だということがわかりました。いつも意識しています」

 この日、松田は6つのトライ後のゴールキックをすべて蹴り込んだ。難しいライン際からのキックがうち4本もあった。結局、42−15の快勝に貢献した。

 キックの成長は研究熱心さのたまものだろう。松田は2年生の頃から自身のラグビーノートにすべての試合のキックの成功率を記している。試合ごと、レビューする。ゴールキックを蹴る際の状況を松田が説明する。

「いつもいいリズムで蹴るように心掛けています。入るタイミングが大事です。自分のポイントを押さえて、入るイメージが頭にできたら、蹴るようにしています」

 松田はもちろんチーム同様、成長途上である。今年6月、日本代表入りし、スコットランド代表と戦った。代表メンバーでは唯一の大学生だった。ただ、慣れぬFBとあって、内容は反省の多いものだった。故意のノックオンで人生初のシンビン(10分間の一時的退場)までとられた。


「(代表を)経験したことで、まだ自分が力不足だったり、余裕がないことだったりに気づきました。シンビンももらいましたし、それは教訓になっています。大学の試合でも自分にプレッシャーをかけてやっています」

 松田の長所のひとつが向上心である。誠実さである。こういった選手は伸びる。試合前日、英国カーディフであった日本代表×ウェールズ戦はもちろん意識していた。日本時間深夜とあって、「見てしまうと寝られなくなると思って」生中継は見ることなく、録画ビデオを見ることにしたそうだ。

 松田は卒業後、パナソニックに進む予定。日本代表入りし、2019年ワールドカップ(W杯)での活躍を目標に置く。

 志が高いからだろう、ハングリーな松田はこの日の自身のプレーには満足していない。

「大事なことは、ひとつひとつのプレーの精度もそうですし、それを高めていく中での判断力もそうです。まだ、すべての面で満足できるレベルじゃありません。もっともっと上げていきたい」

 帝京大としての目標は『日本一』である。全国大学選手権では前人未到の8連覇、さらには日本選手権初制覇。そのカギは?

「自分たちが、慢心せず、満足せず、ひとつひとつ丁寧にプレーしていくことです。一日一日を大事にして、練習を積み重ねていくことが一番のカギだと思います」

 魂のセービングに象徴される、基本プレーの徹底。慢心せず、と言い切る学生の謙虚さ。さらにはチームワーク。もう帝京大の進撃は止まりそうにない。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu