先週15日の夜は、特別な日だった。こんなことになろうとは、夜10時までは全く思ってもいなかったのだ。『逃げ恥』でラストのみくりと平匡のキスに絶叫したわずか20分後、我々は「プリンセスメゾン」(NHK-BSプレミアム、毎週火曜23:15〜)で伊達の一挙一動にやられっぱなしで、声にならないうめきを発していた。第4回は完全なる”伊達回”だった!


原作キャラクターの組み合わせの絶妙さ


まずは、3話と4話の物語を振り返ろう。
先々週放送の3話。まだまだ自分の買いたい家のイメージができていない沼ちゃんに、「家を買えるということと、本当に家を買うこととは違う」と厳しく伝える伊達(高橋一生)。マリエ(舞羽美海)は同棲していた彼氏が出て行ったのをきっかけに、沼ちゃん、要(陽月華)を誘って模様替えをすることに。そのための買い物の帰り、伊達が初めて手がけた物件を観に行き、漫画家の井川(木野花)が庭にパラソルを置いてくつろいでいる姿を観る。
そして4話では、沼ちゃんたちが「先輩持ち家女子のお宅訪問会」へ。訪ねたのは、「独り身の希望の星」と呼ばれるキャリアウーマン、勝木(宮本裕子)が住むマンション。実はその物件は、伊達も住んでいるところだった。沼ちゃんは実際にひとりでマンションを買い、住む女性たちを見て、少しずつ自分が住む家のイメージと、家を買う覚悟を固めていく。
4話で特筆すべきは、勝木さんのキャラクター。基本的には原作通りなのだが、一見充実した日々を過ごす彼女が寝る前、「いつになったら死ねるんだろう」とつぶやくのは原作の別のエピソードからとっている。この組み合わせかたがじつに絶妙だ。30分×8回という枠のなかで、原作に描かれている「女性がひとりで生きて行くことの孤独と、それでも前を向いていく強さ」を最大限に表現しようとした結果の選択だろう。

ひとりで暮らす人々が、少しずつ救いあう


3話までは冷静沈着なあまり、時にあたりが強いようにも見えた伊達。いまでは切れ者の彼も、営業に配属になった頃はマンションをうまく売ることができず、上司に「まず一軒、決めれば変わる」と言われていた。そこで井川に対し、とにかく売ることを焦るばかりに広すぎる部屋を無理やり買わせたのではないかという後悔があった。
沼ちゃんのまっすぐさや勝木の弱音に触れた伊達は、井川のもとを訪れ「この家を買ってよかったですか?」と訊ねる。ふだんは温度の感じられない伊達の声が、ここでは少しうわずっている。
井川は全てを理解し、「そんな」と制したうえで「幸せよ」という言葉を与えた。井川が本当に完全に幸せかどうかは、わからない。だが、彼女はそう伝えることが、伊達のためになるということをわかっていたのだ。
ここで救われた伊達もまた、パブリックイメージに疲れた勝木に「人にも家にも、愛情をもって生活をされていると思いました」と伝え、彼女のひとりの夜を救っている。
東京で一人暮らす人々が、人を許して、許されて、そして少しだけ幸せになって日々を乗り越えていく姿が愛おしい。

水をこわがる伊達のよろけ方!


今夜も静かなトーンで人々がささやかにこころを揺らす、心地よいドラマだった……。とレビューを終わらせるわけにはいかない。今回はなにしろ、伊達の魅力が詰まりすぎていて、冷静に見るのにどれだけ苦労したことか!
急遽「お宅訪問会」に同行することになった伊達。驚き聞き返す要らに「今そう言いましたよね?」とピリッとした口調で言い、こちらを見たまま去っていく。ここまではよかった。その視線は気になるものの、いつもの伊達だった。
マリエの発した「ムサコ」という略称に「ムサコなんて論外です。小杉か、武蔵小杉ですよ、地元民は」とプライドを見せるあたりから見たことのない伊達が続出する。
ボート乗り場で水を恐れ柱に捕まってよたよたしつづける伊達!
パーティールームで勝木と遭遇し、立ち去ろうかどうしようか一瞬迷う伊達!
ここまでの25分間で、十分すぎるほどの伊達を堪能した。満たされた思いとともに、バックに流れる音楽にドキドキしはじめる。
このドラマでは、終盤に必ず登場人物が歌うのだ。1話では要が「東京砂漠」をユニットバスで(これは原作にもあった)、第2話ではクラムボンの「バイタルサイン」を要、マリエ、奥田の三人が夜道を歩きながら交互に、第3話では要が部屋でbloodthirsty butchersの「地獄のロッカー」を、ライブ映像を観ながら。これまでほとんど歌うのは要だったし、伊達はいくらなんでも外で鼻歌を歌うキャラじゃない。観ながら自分を諌めるあいだも、音楽は続いている。
やがて伊達が自宅に戻り、ソファに腰を下ろす。そしておもむろに口を開く。……歌った! ひとりごとのように、ちいさな声で。しかも曲は、フジファブリックの「茜色の夕日」だ。これまで強い感情を見せたことのなかった伊達が、この回で感情の揺らぎを見せて、そして一人の部屋で歌った。それだけでもうたまらない。
しかもその後、そのまま朝までソファで寝てしまう伊達のおまけつき! もうこの頃には、伊達の新しい表情の供給過剰で、息も絶え絶えだ。
ちなみに、どうやら伊達が口ずさみながら「思い出すもの」は沼ちゃんだったらしい。テーブルに置かれたメモには沼ちゃんの探す部屋のビジョンが几帳面な字で綴られている。
恋愛ドラマではない。お仕事ドラマともまた違う。沼ちゃんと伊達、二人の微妙な関係性を味わえるこのドラマの豊かさをうれしく思う。

さて、伊達は今後も新しい顔を見せてくれるのだろうか。「プリンセスメゾン」第5話は今夜!

(釣木文恵)

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