日本の女子車いすテニス界が今、にわかに盛り上がりを見せている。それは、"東京世代"の成長だ。

 2016年度のITF(国際テニス連盟)およびJWTA(日本車いすテニス協会)ランキング上位者と推薦選手の8名のみが参加できる「全日本選抜車いすテニスマスターズ」(11月18日〜20日/吉田記念テニス研修センター)に、今年はリオパラリンピックのシングルス銅メダリストの上地結衣、同代表の堂森佳南子らに加え、10代・20代の3選手が初出場を果たした。

 中でも注目を集めたのが、21歳の大学生・大谷桃子だ。大谷は4名ずつ分かれた予選ラウンドロビンから力を見せる。5月の世界国別選手権日本代表にも選ばれた20歳の田中愛美、そして大谷と同じく初出場の21歳・高室冴綺(たかむろ さき)との同世代対決に勝利し、さらに大一番の堂森との3時間を超えるフルセットの激闘を制した。3戦全勝のグループ1位で決勝トーナメントに進出すると、準決勝も深山知美をストレートで下し、決勝まで勝ち上がった。これはある意味、衝撃だった。

 出場は見送ったが会場に足を運んでいた男子の国枝慎吾も、「すごいな」と一言。周囲が驚いた理由、それは彼女が車いすテニスを始めてまだ8カ月で、この日本マスターズがエントリー4大会目の"超ルーキー"だったからである。今大会も協会推薦で"8番手"での出場だった。

 堂森には10月のピースカップ決勝で敗れており、2度目の対戦でリベンジを果たした格好だ。実はこれまで高室にも、田中にも、初めて対戦したゲームでは敗れているものの、次戦で勝利しており、"同じ相手に連敗しない"学習能力も際立つ。

「負けず嫌いなんです。自分はチャレンジャー。失うものは何もないので」と大谷。「2020年の東京パラリンピックが目標ですが、私の場合は本当に試合経験が少ないので、1試合1試合を意味のあるものにしていかなければいけないと思っています」。

 敗戦から学び、吸収する姿勢は確実に結果につながっており、9月から本格的に指導する古賀雅博コーチは、「桃子は自分の考えをはっきり言うし、レスポンスも早い。まずやってみようという改革派で、私自身尊敬する部分でもあります」と話す。

 大谷は小学3年からテニスを始め、高校時代はインターハイに出場した実績を持つ。高校卒業後、薬の副作用のため車いすに乗るようになった。その後、家族の勧めで一度車いすテニスを体験してみたが、チェアワークとラケット操作を同時に行なう車いすテニスは、それまで経験したテニスとは全くの別物で、「思うようにいかなくて、一度離れた」。

 リスタートを切れないまま、今年5月のジャパンオープン(福岡県・飯塚)は観戦のため会場に足を運んだ。そこで、面識のあったリオパラリンピック日本代表の中澤吉裕監督に声をかけられた。

「"頑張ってね"って言われました。でも、その時......」大谷はこう続ける。「"頑張ろう"と言ってもらえるようになりたいと思ったんです」。

 さらに、目の前で繰り広げられる世界トップクラスのプレーにも大きな刺激を受けた。自分を奮い立たせた大谷は、本格的に車いすテニスを再開。現在は佐賀県で大学に通いながら、4年後の東京パラリンピックを見据えてトレーニングを積んでいる。

 テニス経験があることは大きなアドバンテージになるが、車いすテニスにおいて大きな要素を占める素早いチェアワークの習得は一朝一夕にはいかない。合宿などで強化を図っているが、「まだまだ」と大谷。車いすの動きと惰性を瞬時に計算し、自分のベストポジションに入るためのボールの使い方も、目下取り組み中だ。

 その課題が改めて浮き彫りになったのが、上地との決勝戦だった。第1セットは序盤から大谷が自信を持つサーブが冴え、いきなり3ゲームを連取。だが、そこから追い上げられ4−4とした後、2つのブレークを許して5−7で落とした。第2セットは、第1ゲームのサービスゲームこそキープするも、大谷のサーブの威力に慣れた上地に主導権を握られる。ショットのコースも読まれ、前後左右の動きに翻弄されると6ゲームを連続で失い、あっけなく敗れた。

 車いすテニスを始めた当初から、上地と対戦することを待ち望んでいた大谷。それを実際に経験し、「次元が違うというか、脅威に感じました」と素直な感想を吐露する。一方の上地も、「球の伸びが違うし、甘い球は打てないという印象」と大谷との初対戦を振り返る。さらに上地は「日本マスターズはこの優勝で9連覇となりましたが、これまでで今回が一番危なかったと思います。第1セットを取られていたら、どうなっていたかわからなかったですね」と話し、大谷の健闘を称えた。

 もちろん実際は、スコア以上に実力差が透けて見えた。チェアワークはいわずもがな、上地の多彩なショットやゲーム展開を読む力、技の引き出しの多さは、上地が主戦場とする世界でもトップクラスだ。大谷にとって、そのすごさを肌で感じたこと自体が大きな収穫になり、同じ"世界"を目指すうえで、上地の存在は何より競技活動の大きなモチベーションになる。

「今日、上地選手と対戦できて本当によかったです」

 大谷のその言葉に実感がこもる。

 大谷は上地、田中とともに日本スポーツ振興センターが推進する次世代ターゲットスポーツの育成・強化事業のメンバーに選出されており、来年1月にはオーストラリアの国際大会に出場予定だ。新たな扉を開け、どう変化していくのか。大谷の今後の4年間に注目したい。

荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu