浜田卓二郎氏

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 出光興産の月岡隆社長と昭和シェルの亀岡剛社長は、10月13日に共同記者会見を開き、来年4月としていた合併の時期を延期すると発表した。会見では出光創業家が現計画での合併に反対していることが理由として挙げられたが、創業家が公然と会社の方針に異議を唱え、経営陣の間で合意した合併話をひっくり返すという異例の事態の裏側では、何が起こっていたのか。前回(11月21日付当サイト記事『出光、合併頓挫の全真相…「大株主に事前説明なく、おかしな話」「合併で楽、は錯覚」』)に引き続き、出光創業家代理人で弁護士の浜田卓二郎氏に話を聞いた。

――出光と昭和シェルが10月に合併延期を発表しましたが、その後、出光経営陣から創業家サイドへ接触はあったのでしょうか。

浜田卓二郎氏(以下、浜田) まったくありません。

――出光は以前、昭和シェルの第2の株主であるサウジアラビアのサウジアラムコ社とは、昭シェル株のロイヤル・ダッチ・シェルからの取得契約が完了するまでは合併の内容についての話合いができず、従って創業家との合併の具体的内容について話し合いが進められるのは、公正取引委員会の審査が終わってからだと説明していましたが、審査はすでに終わったのですか。

浜田 終わっていません。当初は審査が終わるのは6月と言っており、株主総会では9月に株式取得が終わり、合併の話し合いに入るとしていました。合併の話し合いを、実質的に拒絶しているのは出光なのです。サウジアラムコをどう位置づけるか、15%の株主が合併に関していろんな条件を持っているでしょう。その相談ができないというのが、出光の言い方です。

 すなわち、出光は昭和シェルの株を買おうとしていますが、昭和シェルの株の15%を持っているサウジアラムコと色々話し合うと、同社が実質的特別関係者に該当することになってしまうので、サウジアラムコの分も含めて3分の1未満じゃないといけないという話になるから、合併の具体的な話はこの株の売買が終わるまではできないという理由です。

 出光は「そこは理解してください」とおっしゃるから、「合併はしないで昭和シェルの株を買うだけという選択はない」と言いました。「この無駄な株式の取得をやめてくださいと意見書に書いてありますよ」と言ったら、出光側は「え、そうでしたか」と言っていました。いかに意見書を軽く考えていたかということです。しかし、今や出光はしょっちゅう、サウジアラムコと話し合いをしていますよ。

 実質的特別関係者となり金融商法取引法上TOBでしか取得できない、つまり今のような任意の取得契約では金商法違反になると言っていたことは、どうなったのでしょうか。

●全国出光会の動き

――全国の出光の販売店で組織する「全国出光会」が9月26日に理事会を開き、合併推進を求める決定を出しましたが、全国出光会から何か接触はありましたか。浜田さんへの批判の声も出ているようですが。

浜田 依頼者の盾になるのは弁護士の仕事です。その販売店の対応というのは、会社側が販売店を動員して決起大会を開かせて、本社で書いた手紙を販売店に送っているのです。そこで私たちも各都道府県の出光会会長に対して、「こういう主旨で合併には反対なんです。理解をしてください。できるだけ早く安定した状態になるように会社にお願いしてます」というレターを出光昭介名誉会長名でお送りしています。

――全国出光会の会長たちは、どんな反応なのでしょうか。

浜田 創業家側に手紙を送りつけてきています。それは月岡隆社長たちが中心になって、販売店回りをしたからです。全国出光会が理事会を東京で開いて、そこで合併推進の決議をした。それに基づいて今、全国各地から昭介氏宛や出光家宛に「今は販売店は苦しい。再編成というのは必要だ」といった嘆願書を送ってきているわけですよ。

――昭和シェルと合併した場合、出光の販売店は本当に経営がよくなるのでしょうか。

浜田 合併というのは経営を合理化するためにやるわけで、重複している店舗などがあれば、どちらかを潰す。そうした経営戦略が販売店にとってよいものであるとは思えません。

――会社側は、販売店のリストラは店舗の重複がほとんどないのでやらないと言っています。

浜田 ガソリンなど石油に対する需要が減退していて、さらに新しい会社と合併して販売店が増えるのに、販売店を本当にそのまま温存するんですか。逆に会社は合併のいい面だけを言っているわけです。しかし、現実には需要が減っている、そこで合併して企業の数も減らすというのは、それにより販売店も減らすということにつながるのではないでしょうか。ところが月岡社長はそんな話は多分していません。ただ「全体が楽になりますよ」と説いて回っていたわけです。月岡社長は、すでに合併を断念しているのではないですか。

●合併を断念

――10月13日の昭和シェルの亀岡社長との共同会見で、「(合併延期は)数年というのはありえない。1年以内にやりたい」「できるだけ早く」と明言しています。

浜田 もう合併後の本社ビルも解約しちゃったじゃないですか。新聞社を通じて得た情報ですけれども。それで、昭和シェルも一旦解約した今の本社の賃貸契約を元に戻したという情報が入っています。

――それは合併を断念したということなのですか?

浜田 ほぼ断念していますよ。だって、出光から話し合いを申し入れてこないのですから。今最大の問題として、昭和シェルの株式取得について状況がペンディングになっている。

――昭和シェルの株式を買わない場合には、違約金のようなものは発生するのでしょうか。

浜田 出光からは「契約内容は開示できません」と断られているのでわかりません。出光がロイヤル・ダッチ・シェルの保有する昭和シェルの株を買い取るためにはTOB(株式公開買い付け)をかけなればならないように、創業家は出光の全株の3分の1を超えるようわずかに株を買い増ししました。

――なんの目的で、昭和シェルの株を買ったのですか。

浜田 金融商品取引法には形式的特別関係者という規定があって、20%以上の株式を保有すると大株主は名寄せの対象となって、一体の株主としてみなされるので、TOBをかけざるを得なくなるのです。すると、現在の契約を実行すると金商法違反になってしまいます。サウジアラムコ社が実質的特別関係者となるのと同じ構図です。

――そうすると、昭和シェルの経営陣が困った立場になりますよね。

浜田 今、大混乱じゃないですか。昭和シェルの経営陣は、10月15日に記者会見をしましたが、亀岡社長は「ロイヤル・ダッチ・シェルに断ってきました」と発言していました。これは、「出光には株は売らないでくれと言ってきました」「合併しないのに株だけ売られるのは反対です」という意味です。

――14年の出光が昭和シェルの株を買収しようとしたときに、昭和シェルの販売店で反対運動が起こった時の再来ですからね。

浜田 そうですよ。だから今一番困っているのは亀岡社長ではないですか。亀岡社長は今、昭和シェルの社内で猛烈な抵抗に合っているんじゃないかなあ。「なんで出光にそんなこだわっているのか」とね。要は彼は、ロイヤル・ダッチ・シェルが引き立てた社長なんですよ。ロイヤル・ダッチ・シェルをいい条件で撤退させるのが、彼の第一の使命だと思いますよ。東燃ゼネラルとロイヤル・ダッチ・シェルとの間で、一株1250円で昭シェル株の売買の話がまとまりかけたときもそうでした。

――出光との合併の話が進む以前、東燃ゼネラルとの資本提携の話が浮上しましたが、途中で頓挫しました。その時の話ですか。
 
浜田 出光が乗り込んできて、1250円で妥結しそうなところを100円上乗せして無理矢理引き取ることにした。合併がダメになり株だけ買収すれば、この時の二の舞いになるじゃないですか。それで、亀岡社長は大急ぎで出光と一緒に記者会見をして、企業統合を発表したわけですよ。

 一方の出光の月岡社長は、「合併に反対している創業家を説得できる」みたいな言い方をしているわけですよ。全国の販売店の人たちに頼み込んで、手紙を送らせているわけじゃないですか。そんな無駄な話をする前に、もっと熱心にガソリンを売ったらいいじゃないですか、と言いたくなるよね。

●原点に戻るべき

――今回は対等合併に問題があるということですが、吸収合併や買収についてはどうですか。あるいは昭和シェル以外の会社との合併には、創業家はどのようなスタンスなのでしょうか。

浜田 相手の会社がどんな会社で、体質的に合うのか、労働組合があるのかないのかとかね。今出光の若い人たちは、昭和シェルの社員と無理矢理研修させられたりして、「同じ人間だ」「案外うまくいくかもよ」などと言っているらしい。そのなかで、労働組合を持たない出光の社員が、組合について昭和シェルに熱心に質問する動きもあるようです。

――昭和シェルとはTOBでも合併でも、創業家としては賛成は難しいということでしょうか。

浜田 やはり創業者の思いとしては、出光の経営がこれまで強く伸びてきた、その原点に戻ってもういっぺんがんばろうよ、と。だから、合併という道を選ばずに、独自でがんばる道を続けようよというのが、願いなのです。

――異業種との資本提携については、いかがでしょうか。

浜田 それは経営戦略としてありえるでしょう。なにも合併しなくたっていいじゃない。今だって子会社がいくつもあるわけで、合弁したっていいわけだし。ただ、対等合併してひとつの会社になるというのは、提携や買収とは全然意味合いが違うのです。古河電工名誉顧問の古河潤之助さんが、「吸収合併ならば検討したが、対等合併ではうまくいくはずはない、というのが自分の社長時代の信念だった」という話をされましたが、私もそうだと思います。
(構成=松崎隆司/経済ジャーナリスト)