【恋する歌舞伎】第16回:母の情、男たちの覚悟、娘・息子の恋心

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

今回は、国立劇場開場50周年記念三ヶ月連続で上演中の「仮名手本忠臣蔵」から、九段目「山科閑居の場」に注目します!

◆【1】念願の嫁入りの日。しかし義母に断られ…


加古川本蔵(かこがわほんぞう)の娘・小浪(こなみ)は大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)の息子・力弥(りきや)と婚約者同士。
小浪は母・戸無瀬(となせ)とともに力弥の屋敷に「お嫁にきました」と訪ねてくる。
しかし力弥の母・お石は
「許嫁の約束をしたときと今とでは状況が変わってしまっている。夫も息子も浪人の身であり、お宅の娘さんとは釣り合わない」
などと理由をつけて断る。
しかしかねてより思いを寄せていたこともあり、小浪はそれでもと引き下がらない。
しかしお石から
「あなたが加古川本蔵の娘だから結婚させられない」
と告白され衝撃を受ける。
由良之助(力弥の父)の主人は、高師直(こうのもろのう)から殿中でいやがらせを受け、刃傷事件を起こしてしまった塩谷判官(えんやはんがん)。
判官は師直を切りつけたものの、すぐさま本蔵に抱きとめられ、本懐を果たせなかったという因縁がある。
またお石は、本蔵が師直に賄賂を贈って事なきを得ようとするやり方が気に入らなかったのだ。

◆【2】母の決断。婚礼の白無垢が死装束へ。


それを聞いた戸無瀬は、娘を嫁入りさせることが出来ないなら、今ここで死ぬという。
戸無瀬は後妻ではあるが、実の娘のように小浪のことを大事に思っているのだ。
母が死ぬなら私も殺してと言い出す娘。
どうにも立ち行かない母子にお石は、結婚は許すがその条件に、ある引き出物が欲しいと言う。
それは本蔵の首、つまり小浪にとっては父、戸無瀬にとっては夫の首を差し出せということだ。
こんな無理難題を提示するのには理由があった。
実はお石の本心は、今結婚をしても、息子の力弥は結局討ち入りにいくのだし、小浪に帰らぬ夫を待たせるなんて可哀想なことはできないと、あきらめがつくようにわざと意地悪をいっていたのだった。

◆【3】突然現れた虚無層、その正体は!?


そんな困り果てた婚約者家族のところへ、一人の虚無僧が現れる。
この虚無僧こそ、本蔵なのである。
なぜかこの男は、恨みを買われているとわかっていながら家にやってきて、それを逆なでするかのように
「おまえらのような腑抜けには娘はやれない」
といったのだ。
お石はとうとう我慢できずに本蔵を槍で突こうとするが、女の体では到底太刀打ちできない。
そこへ母を助けるために助太刀をしたのが力弥だった!
この話のからくりを明かすと、本蔵は主君の恨みをその手で晴らすことができるよう、わざと力弥を怒らせ、自ら刺されにいったのだ。
つまり抱きとめたことを後悔していたのは本蔵自身だったのである。
もちろん、もう一つの理由はわだかまりを無くして娘を力弥に嫁がせたいという親心もあったのだろう。

◆【4】一夜限りの夫婦生活。そして夫は討ち入りへ


本蔵は最後の力を振り絞り、小浪の父親として、由良之助に引き出物を渡す。
しかしその目録は、なんと主人塩谷の仇・にっくき高師直の家の見取り図だったのだ。
これがあれば、迷わずに敵地でも戦うことができる。
息を引き取る本蔵に感謝をする由良之助・力弥親子。
いよいよ出発の時がきたが、父は気を利かせ、息子夫婦に一夜だけでもと夫婦の時間を過ごさせる。
力弥と小浪、ほんの一時の夫婦生活。
二人は今までの人生で、このときほど朝陽を恨んだことはなかっただろう。
この後、由良之助がリーダーとなり、力弥も含む四十七士は高家に乗り込み見事討ち入りを果たし、自らの命を枯らすのだった。

◆『仮名手本忠臣蔵』

人形浄瑠璃にて寛延元年八月竹本座にて初演。
歌舞伎では同年十二月大阪嵐座初演。竹田出雲・三好松洛・並木千柳の合作。
『仮名手本忠臣蔵』は元禄時代に起きた「赤穂事件」を基に、設定を南北朝時代に移して描かれる。
九段目は大曲として知られ、親子の縁、武士の苦悩と若い恋人たちの哀しみが折り重なった繊細な一場である。

国立劇場 12月歌舞伎公演「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」第三部
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/491

(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)

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