ハリルジャパンの完成度(3)
■原口元気の判定=不明


 4戦連発――。

 W杯アジア最終予選、2戦目のタイ戦から、イラク戦、オーストラリア戦、そして今回のサウジアラビア戦と、重要な戦いで4試合連続ゴールを決めた原口元気。しかも、原口が得点を決めた試合はこれまで負けておらず、原口のゴールは不敗神話になりつつある。

 だが、当の原口はまったく満足していない。

「点は取れたけど、全然まだまだです」

 その言葉は、タイ戦でゴールを決めて以降、試合後に必ず発するセリフだ。

 それは、普段原口が戦っている環境の質やレベルとの違いが影響している。彼が主戦場としている欧州トップリーグのドイツ・ブンデスリーガは、最終予選の場であるアジアとは異なり、レベルが高く、非常に厳しい舞台だ。アジアで点を取ったからといって、満足していられないという意識がある。

「相手がアジア(のチーム)だから、4点取れているっていうのがあると思う。ドイツじゃあ、あんなに簡単にシュートを打たせてくれない。それに、個人的にもまだまだですよ。今日(サウジアラビア戦)も、僕自身のクオリティーが高ければ、2点目、3点目というシーンがあった。そこで決められないというのは、まだまだってこと」

 原口が日本代表で点を取れているのは、所属するドイツのヘルタ・ベルリンでプレーしているときよりも、ペナルティーボックス内に侵入する回数がはるかに多いからだ。サウジアラビア戦のゴールも、中央の開いたスペースをスルスルと上がっていって、左サイドバック・長友佑都からのクロスをボックス内で待ち受けて、落ち着いて決めた。だが、ヘルタ・ベルリンでは、サイドからのクロスもボックスの外で待って、こぼれ球を狙うことが多いという。

「ヘルタでは、代表の試合のように、あんなに多くゴール前に入れないです。サッカーが違うし、自分の役割も違う。サイドの守備がすごく求められるし、サイドからのゴールも必要とされる。ヘルタの監督は(試合における)数字を見て選手を選んでいくので、数字がないと"土俵"には立てないんです。そのために、結果を残さないとダメなんだけど、中にも入れないし、なかなかね......。今季はまだ1点も取れていないんで、いい加減取らないと。そこは、代表で4点取ろうが関係ないですから」

 ヘルタ・ベルリンでは今季、ゴールこそまだ奪えていないが、守備でチームの勝利に大きく貢献している。だからこそ、スタメンで起用されているのだが、その守備は日本代表でもゴールと同様、いやそれ以上の役割を果たしていた。

 球際で激しく、前からアグレッシブに行きながら、自陣まで戻って体も張る。さらにボールを奪ったら、そこからスピードを上げて攻撃に転じる、切り替えの速さが原口にはある。それは、「元気スタイル」とも言うべきもので、今や代表が躍動するには欠かせない、ひとつのシンボルになっている。

「守備は、ヘルタでやってきたことが出ていると思うし、(個人的に)守備力はすごく上がっていると思います。特に今日は、攻守の切り替えのところで相手を見るんじゃなくて、相手が(ボールを持って)余裕を持つ前に潰しにいくことがよくできていた。(ハリルホジッチ)監督が言う"デュエル"がすごく発揮できた試合かな、と思います。ただ、守備は僕だけじゃなく、守備が得意じゃないキヨくん(清武弘嗣)もがんばっていて、チームみんなががんばっていたと思います」

 日本代表の左MFのポジションは、これまで流動的で、原口をはじめ、宇佐美貴史、武藤嘉紀らが激しく争う状況にあった。しかし今では、原口が完全にレギュラーの座をつかんだ感がある。

 原口という"パーツ"が攻守に効いていて、清武がトップ下で奮闘するチームは、最終予選初戦でUAEに敗れたときのチームと比較すると、非常にまとまっていて、明らかに攻守両面で強みが増した印象だ。

 実際、UAE戦以降、3勝1分けと徐々に代表チームの調子は右肩上がり。つまずいたUAE戦のあと、ここまでのチームの成長を、原口はどう感じているのだろうか。

「日本代表の完成度も、まだまだですよ。今はまだ、アジアが相手ですし、ザッケローニ監督のときと比べて、(チームの)レベルが上がったとか、下がったとか、一概には言えないかな。これが、世界が相手になると戦い方も変わるんでね」

 原口が言うとおり、日本は世界を相手に戦うときは、最終予選を戦っていたときとは異なる戦い方を強いられる。それでも、ここ最近の日本代表は少なくとも最終予選では攻撃的に戦ってきた。とりわけ、ザッケローニ監督時代は自慢の攻撃が威力を発揮し、最終予選も危なげなく突破した。チームの完成度も非常に高かった。

 原口は同指揮官のもと、3次予選と東アジアカップに出場している。その当時と比べて、ハリルホジッチ監督が率いる今回のチームの、アジアでの戦いぶりについては、どんなふうに見ているのだろう。

「ここ2試合は、UAE戦よりも明らかにアグレッシブにプレーできているし、オーストラリア戦も、サウジアラビア戦も、ひとつひとつの局面で勝てるようになった。そうなれたのは、オーストラリア戦が大きいですね。僕自身のミス(PKを献上)で勝ち点3が取れなかったけど、アウェーの戦い方がしっかりできて、いい試合ができていたと思う。あれで、サウジアラビア戦もこれだけテンションが高くというか、ハードにやれた。それができれば、日本のほうが技術的に優れているんで、いい試合ができる。こういう試合を最低ラインにしたいし、これを続けていきたいですね」

 ホームのイラク戦で何とか勝利を得たときは、「このままではオーストラリア戦はやられてしまう」と原口も危機感を露(あら)わにしていた。しかし、そのオーストラリア戦では守備重視という戦術的な狙いを持って臨み、勝ち点1を取った。チームとしてやれることが増えていき、それまで足りなかった球際での厳しさも発揮することができた。

 サウジアラビア戦では、そのオーストラリア戦で得たことを生かして、勝利という結果を出した。原口はアジアでの戦いにおいて、それなりの手応えをつかんだようだ。

「来年は、アウェーのUAE戦が一発目で、サウジアラビアとのアウェー戦も残っている。でも、僕はこれからも、今日と同じように戦えばいいと思う。そのうえで、今回のサコ(大迫勇也)やキヨくんのように、調子のいい選手がどんどん入ってくれば、チームの厚みは増す。そうやって、チームの強さと完成度を高めていくしかないかな。このチームはまだまだだから、これから伸びていくと思います」

 原口は、ドイツでバイエルンなど強豪チームと戦うにつれ、そのレベルの高さと、各国の代表選手がゴロゴロいる選手層の厚みに驚嘆させられたという。そういうチームが、長く、強さを発揮する。

 日本代表も同じだ。

 本田圭佑ら南アフリカW杯組が軸となったチームから、なかなか新陳代謝が進まなかったが、サウジアラビア戦ではフレッシュな面々が結果を出した。原口が言うように、この状況が継続されていくなら、少なくともアジアで敗れることはないだろう。

 また、チームに対する自信が芽生えてきたということは、成長している証でもある。これからの伸びしろが、十分に期待できる。最終予選5試合目にして、ようやく日本代表に明るい兆しが見えてきた。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun