写真=ロイター/アフロ

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トランプ氏は、金持ちなのになぜ庶民から人気を得るのだろうか。エリートに対する羨望の眼差しと権威はなぜ失墜してしまったのか。もしかすると、トランプ氏はアメリカ人が一度失ってしまった「安心感」を持っているのかもしれない。トランプが、「冷戦終結以降失われた陣営の秩序を、取り戻してくれる人」だとすると、彼に安心してついていっていいのか。『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社刊)の著者が、トランプ人気の源泉を分析する。

■失われた庶民の闘争心を回復させる

グローバル化の中でますます混沌とする世界について、現代のポピュリストたちは、にわか仕立てながら単純でわかりやすい説明を提示する。敵がいない世界に、仮想の敵を生み出してくれる。失われた庶民の闘争心を回復してくれる。

彼らは、もやもやとした鬱積を抱える現代人の耳元で、「悪いのはメキシコ移民だ」「イスラム教徒がすべての問題の元凶」「EUを脱退すると問題は解決する」などと、断定調で語る。聴いている市民も「本当だろうか、たぶんウソだな」と怪しみながらも、説明してくれること自体に安心感を覚える。エリートは、あれこれ指示するばかりで、何の説明もしないのだから。

人間は本来、にやにやしながら近づいてくる人物に警戒感を抱く。それが欧州の街角ならスリだろうし、日本の街角なら詐欺師かもしれない。ポピュリストに対しても、当然ながら人々は疑念を抱く。その先に待っているのが袋小路であると、みんなうすうす気づいている。

にもかかわらずポピュリストについていくのは、本来なら上の住人なのに自分たちと一緒に歩む姿勢、根性、こころを少なくとも示してくれるポピュリストに敬意を表してのことだろう。遠くにいる立派な人よりも、身近にいる怪しい人の方が、親しみも湧く。少しは付き合おうという気も起きる。

■金持ちだからこそ存在意義がある

ならば、トランプのような金持ちがなぜ庶民の支持を得るのか。そのからくりも、左右から上下へと格差の軸が移動した現在の世界を検証すると、見えてくるだろう。

そもそも、現代の健全な庶民は、政治家になるなどといった邪念を抱かないものだ。政治家は今や、誠実な人、尊敬すべき人が目指す職業ではなく、空気が読めないエリート、怪しげな山師に向いた仕事である。

ポピュリストは政治家であり、庶民の生活とは無縁である。トランプも、ルペンも、ベルルスコーニも大富豪で、しかもそれをひけらかす成り金趣味に染まっている。普段付き合う相手も企業経営者か芸能人だ。

にもかかわらず、なぜ人々はついていくのか。

一つには、ポピュリストがもともと下の世界の住人でなく、上の世界から降りてきた人であるからではないか。

ポピュリストたちがもともと庶民と同じ下の世界にいるとすれば、庶民が従う意味もない。下の仲間内でつるんでいるだけであり、格差をただす夢もない。ポピュリストは、庶民と異なる世界の風を吹き込んでくれるからこそ、歓迎される。

だから、トランプが大金持ちであることは、庶民の支持を受けるうえで何ら問題にならない。むしろ、金持ちだからこそ、存在意義がある。庶民は、自分たちと同じような貧乏人を待ち望んではないのである。

最低限の福祉制度が整った先進国で、本当に食うに困っている庶民は少ない。だから、人々にとって一番の懸念は、収入が少ないことそのものよりも、社会的な地位向上への道が閉ざされていること、そのための方法が見えないこと、そう試みる自信も持ち合わせないことである。将来への展望が閉ざされた庶民に対し、「いや、可能性がある」と行く道を指し示してくれる存在が、トランプやルペン、ベルルスコーニなのだ。

■失われた秩序を取り戻してくれる

彼らの言葉を聞いて、人々は安心する。トランプは才能があって努力したから成功した。自分はそこそこの才能しかないが、サボったから今の地位で甘んじるのも仕方ない。下を見ると、もっと怠惰な連中がいるではないか。こう納得しつつ、人々は自らが立っている位置、自らの可能性と限界を悟る。冷戦終結以降、失われた陣営の秩序を、ポピュリストは取り戻してくれる。

人にとって、最も不安なのは、自分が序列の下の方にいることではない。序列のどのあたりにいるのかわからないことだ。似た者同士、混沌とした冷戦後の世界で、金持ちが「トップはここだ」と示してくれることによって、自分が真ん中あたりなのか、やや下の方なのかが、見えてくる。

人々は、ゴールが撤去されて途方に暮れた広場で、新たな遊びを見つけたといえる。ルールさえ理解すれば、下手でも参加はできる。エースで四番にはなれないが、九番ライトにもそれなりの役割がある。下を眺めて、補欠よりもましだろうと納得する。

もちろん、ポピュリストが与えてくれるルールや秩序は、多くの場合まがい物である。でも、それは全然、問題ではない。へぼな草野球だって、自分が参加するなら結構楽しいのである。練習のし甲斐もあろうというものだ。

なお、庶民がポピュリストを支持する理由としては、もう一つの説明も可能である。すなわち、ポピュリストは生まれながらの上の住人でなく、下の世界から成り上がった者であり、つまりもともと庶民とは仲間だったからだ、というのである。

(朝日新聞GLOBE編集長 国末憲人=文 ロイター/アフロ=写真)