■鈴木明子が語る2016−2017シーズン展望
@女子編

 全日本女王の宮原知子、完全復活を目指す浅田真央、そしてふたりを猛烈な勢いで追いかける樋口新葉もいる――。世界大会で常にメダル獲得が期待される日本代表選手たち。そんな彼女らの「今」を、元日本代表の鈴木明子さんはどのように見ているのだろうか。

―― 昨年の全日本選手権で2位に入った樋口新葉選手は、シニアとして初めて挑んだグランプリシリーズ第4戦のフランス杯で総合3位に入り、表彰台に上がりました。

鈴木明子(以下:鈴木):樋口選手は今シーズンがシニア1年目ですが、持ち前の元気にしっとりとした情感が加わったような気がします。彼女には度胸があり、大きな試合でも堂々と戦っています。強みは、非常に質の高い3回転−3回転が跳べること。ジャンプに入る前の構えが長くないから、プログラムの流れを失うことがない。高さも距離もいいですね。きれいな放物線を描けるのはスピードがあるから。

―― フランス杯でいきなり、その実力を世界に示しましたね。

鈴木:ジュニアからシニアへの移行には、みんなが苦しみます。ジュニアでいい成績を残していても、そのまま通用するとは限りません。何かを変えないと、それまでと同じようには戦えないからですが、樋口選手の場合、自分のキャラクターや長所にプラスアルファを加えることができていると思います。目指す方向がはっきりと見えます。

―― 11月25日からのグランプリシリーズ第6戦NHK杯でグランプリファイナル進出をかけて戦います。

鈴木:いい成績を残せば出場権を掴めるとなると、プレッシャーがドンと圧(お)しかかってくることがあります。それでも、今までどおりに滑ることができるかどうか。ここが「一流」と「超一流」の差だと思います。プレッシャーを感じることなく滑れるのか、プレッシャーを感じたうえでそれを克服する強さを身につけるのか、そこに注目しています」

―― 昨シーズン、リンクに戻ってきた浅田真央選手が苦しむなか、女王として足場を固めたのが宮原知子選手でした。全日本選手権連覇を果たした彼女が日本のエースであることに異論を唱える人はいません。

鈴木:宮原選手はかなりハードなトレーニングを続けることで、ガッシリとした筋肉がついてきました。表情や細かい動きも備わってきて、身体は小さくても大きな演技ができるようになりました。安定感+表現力が彼女の強み。あえて課題を挙げるとすれば、観客やジャッジを驚かせる爆発力ですね。

―― いつも安定していて、大きなミスはありませんね。

鈴木:どんなときでもいい演技ができるというのは、すごい強みです。これは練習の賜物です。全日本女王になっても、世界大会で表彰台に上がっても、少しも変わることなく練習に打ち込んでいます。目標をきちんと決めて、着実に歩みを進めるのが彼女のやり方。本当にすごいところです。

―― 当然、「もっと上」を目指しているのですね。

鈴木 はい、そうだと思います。自分の現状、つまり、実力と課題の両方をわかったうえで努力しているから、横道にそれることなく前進しているのだと思います。

―― 昨シーズンの世界女王のエフゲニア・メドベデワ選手(ロシア)がグランプリシリーズ第4戦のフランス杯で今季2勝目を挙げ、グランプリファイナル進出を決めました。

鈴木 メドベデワ選手はきっちりと仕上げてきましたね。アンナ・ポゴリラヤ選手(ロシア)は若いのに妖艶さがあって、スケーティングもうまい。エリザベータ・トゥクタミシェワ選手(ロシア)も持ち直してきました。ロシア勢はどの選手も強敵です。アシュリー・ワグナー選手(アメリカ)も侮れません。確立したスタイルと経験があり、技術もついてきていますから。

―― グランプリシリーズ第1戦のスケートアメリカで6位、第4戦のフランス杯で自己最低記録の総合9位に終わった浅田真央選手。左ひざに痛みがあり、フランス杯後に「結果や自分の自信がすべて失われた」と語るなど、精神面も心配です。

鈴木 休養前と後では、身体づくりや練習方法が変わり、いろいろと模索しているところだと思います。左ひざの状態は気になりますし、そのせいで練習できないことがストレスになっているのかもしれません。並外れた練習量でここまで積み上げてきた選手なので、不安にかられても仕方がない面もあります。それでも、彼女なら復活してくれるのではないかと思います。

―― 彼女の代名詞であるトリプルアクセルを今シーズンは跳んでいませんが、大丈夫でしょうか。

鈴木 ケガや仕上がりの遅れが理由だったとしても、以前の浅田選手ならば、無理をしてでもプログラムに入れたでしょう。そこをグッと我慢したところに成長を感じます。トリプルアクセル以外のところをしっかり固める、スケート本来の美しさを追求する、という意思の表れだと私は思います。

 今は苦しいときです。もちろん勝利を掴むためには、トリプルアクセルは必要な技です。ほかの部分を磨いたあとにそれがピッタリとはまれば、さらに進化した浅田選手の演技が見られるのではないでしょうか。

 ソチオリンピックのフリーもそうでしたが、厳しい局面ですばらしい演技を見せるのが、浅田選手です。これまでにない難しい状況だと本人も感じていると思います。しかし、彼女には誰にも負けない経験があります。フィギュアスケートに対する強い思いがあります。だからこそ、浅田選手の「自分らしい演技」を期待しています。

【profile】
鈴木明子(すずき・あきこ)
1985年3月28日生まれ、愛知県豊橋市出身。6歳からスケートを始め、15歳のときに全日本選手権で4位に入賞して注目を集める。10代後半に体調を崩して大会に出られない時期もあったが、2004年に復帰。2010年バンクーバー五輪代表の座を獲得し、8位に入賞した。2012年、世界選手権銅メダル。2013−2014シーズンの全日本選手権では会心の演技で13回目の出場にして初優勝。2014年ソチ五輪では、同大会から正式種目となった団体戦に日本のキャプテンとして出場して5位入賞、個人戦では8位入賞を果たす。2014年の世界選手権出場を最後に、競技生活からの現役引退を発表した。引退後はプロフィギュアスケーター、振付師、解説者として活動の幅をさらに広げている。著書に『プロのフィギュア観戦術』(PHP新書)など。

元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro