日本企業に必要な「イノベーションマネジメント」

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日本企業に今、必要な「イノベーションを経営する手法」を「イノベーションマネジメント実態調査2016」の分析調査から見ていく。

イノベーションマネジメントがすぐれている5社

コニカミノルタ

経営者の強いコミットの下、世界5極でビジネスイノベーションセンター(BIC)を立ち上げイノベーションを牽引。過半を外部人材で構成し、社外の力をテコに内部改革を推進。

アサヒグループ ホールディングス

社会的なテーマに基づいて社内から新規事業アイデアを集め、社外の知見者を巻き込んでブラッシュアップを行うプログラムなどの仕組みを経営トップのコミットの下に推進。

日立化成

オープンラボを通じ顧客を始めとしたステークホルダーとの協創を推進。ビジネスモデルを立案・強化する「ビジネスデザイン」に組織的に取組み、事業化の加速・高収益化を志向。

三井物産

トップ主導で設立されたイノベーション推進室が年間200億円の予算を有し、事業の不確実性がある領域にあえて踏み込む稟議制度も整備。社内提案制度Karugamo Worksを推進。

リクルートホールディングス

30年以上にわたる新規事業提案制度である「New RING」は極めて有名。外部との連携も盛んで創業以来の起業家精神を維持・発展させる仕組みとして機能。

選考基準

時価総額50億円以上(2015年8月時点)の計2,838社を対象にアンケート調査をした「イノベーションマネジメント実態調査2016」の分析結果を参照。

日本企業の4分の3は標準的なイノベーションマネジメントの水準に達していないー。

上場企業のうち、時価総額50億円以上(2015年8月時点)の計2,838社を対象にアンケート調査をした「イノベーションマネジメント実態調査2016」の分析結果から明らかになったのは、「イノベーションを経営する手法」について”変革の余地”が大きいことだ。

デザイン思考やオープン・イノベーションなどの個別手法は日本企業の経営者に広く認知されてきた一方で、イノベーションマネジメントについてはまだ認知が進んでおらず、標準的な水準を上回る日本企業はわずか25%にとどまったのである。

今回、同調査では、新規事業創造・イノベーションの促進を組織に根付かせるための経営手法を「イノベーションマネジメント」と定義。そして、1.トップのリーダーシップ、2.イノベーション戦略、3.イノベーションプロセス、4.パイプライン・ゲート管理、5.外部コラボレーション、6.組織・制度、7.イノベーション文化醸成ーの7項目により、企業の同水準を可視化させた。

調査の結果、日本企業の特徴としてリーダーシップや戦略、文化醸成などトップの掛け声が効く取り組みが先行する傾向が見られた。「トップの掛け声が先行し、プロセス・組織・制度の整備が伴わない”掛け声先行型”」が35.1%、「そもそもイノベーションへの取り組み方針が見えにくい”場当たり型”」が36.5%と割合が多く、合計で7割を超えた。

一方、イノベーションマネジメントが優れている「7項目ほとんどが高い水準を示し、項目間の有機的なつながりをつくる”メカニズム型”」は14.4%と一部の企業にとどまった。

日本企業のイノベーションマネジメントの推進を阻害する要因は何だろうかー。それは経営者の「イノベーションに対する3つの先入観」にあるだろう。

1つは、「イノベーションはマネージ(計画・管理)すべきでない」という考え方。世界の経営者の6割が「きちんとしたイノベーションプロセスを通じて、計画的に生み出す」ことが成功するために必要だと答えているのに対し、日本の経営者の6割は「クリエイティブな個人のやりとりから自発的に生まれる」と答えている(「GE Global Innovation Barometer 2014」)。

2つ目は、「イノベーション推進は技術屋の仕事」という先入観。技術と事業の橋渡しが極めて重要であることは言うまでもないが、経営者が主導しないと双方の断絶は埋め得ない。最後は、「イノベーションは”特区(新たなハコ=組織)”で起こすもの」という先入観だ。「特区」が、既存の組織文化とは一線を画す破壊的イノベーションを進める第一歩として有効である一方で、最終的に既存事業内の豊富なリソースをテコにできない特区組織が行う活動は長続きしないことがほとんどだ。

「メカニズム」を組織の中につくる

今回の調査で同じく明らかになったのは、イノベーションマネジメントと業績パフォーマンスに正の相関関係があることだ。

1つは事業規模の観点で、イノベーションマネジメントの取り組み水準が高い企業ほど、売上高の成長率が上場企業平均を上回る。「メカニズム型」企業の売上高平均成長率は10.0%にのぼり、上場企業全体の同率6.2%を大きく超えている(掛け声先行型6.3%、場当たり型企業5.8%)。

また、時価総額の観点からも、イノベーションマネジメントの取り組み水準が高い企業ほど、上場企業平均のパフォーマンスを超過している。13年3月の時価総額を100として指数化した場合、15年12月末時点で上位水準の企業は182。上場企業平均166よりも高く、資本市場からも評価されていることがわかった。

現在、経営環境に追い風が吹く中、新規事業・イノベーションへの戦略投資を強化する企業が相次いでいる。しかし、日本企業の多くが、”失われた20年”の過程で、既存事業での利益捻出という”片輪走行経営”に陥っている。「イノベーションに対する経営の在り方」自体を改革しない中での戦略投資では、その効果は持続しないだろう。

いまの日本企業に必要なのは、古くて新しい経営課題である、新規事業と既存事業の双方のバランスが取れた”両利きの経営”の実現であり、前述の7つの主要項目を通じて、組織をあげて持続的にイノベーションに取り組む「メカニズム」を、既存事業と並立するよう組織の中につくることだ。



この課題はなにも日本企業特有のものではない。ゼネラル・エレクトリック(GE)でさえ、2012年頃からジェフリー・イメルトCEOの掛け声のもと、シリコンバレーのスタートアップ並みのスピード感を経営に埋め込むことを目指して、「ファストワークス」という新しいリーン・スタートアップ手法の導入を全世界で展開している。

重厚長大型の既存事業の制度・文化が広く根付く中、従来の手法では顧客ニーズや市場の要請に素早く応えられないと、あえて新たにスタートアップ・プロセスを埋め込むー。グローバルトップ企業も先手を打ってチャレンジに取り組み、イノベーションマネジメントの改革に向けて積極的に動いているのだ。

今回、日本企業の中でも「イノベーションマネジメント」が優れている5社に選定された企業については、過去よりイノベーティブカンパニーと言われてきた企業だけでなく、直近トップ主導で、7つの要素を「掛け算」しながらイノベーションマネジメント全体の改革を進めている企業と言える。

トップのリーダーシップや文化醸成といった”掛け声”に近い領域のみならず、新しい技術やアイデアを事業化(マネタイズ)までつなげるプロセスや、前提となる組織、制度など、いわゆる”仕組み”につながる要素も同時に改革を進めているのが特徴だ。

イノベーションは日本企業の要であることは言うまでもない。これら5社の取り組みも参考に、今後イノベーションマネジメントに取り組む経営者が更に増えることを期待したい。

ふじい・たけし◎デロイト トーマツ コンサルティング パートナー。Deloitte Innovation PracticeのJapanリーダー。幅広い業種の日本企業においてコンサルティングに従事。著書に『CSV時代のイノベーション戦略』がある。