大前研一氏が米国の今後を分析

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 アメリカ大統領選挙の事前予想のほとんどは、苦戦はしても結局、ヒラリー・クリントン氏が勝利するだろうというものだった。ところが、接戦をものにしたのはドナルド・トランプ氏だった。この結果によって米国で進む「分断」について、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。

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 アメリカ大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利し、「トランプ・ショック」が世界に走った。イギリスのEU離脱(ブレグジット)に続いてアメリカも「内向き」「保護主義」になり、「反グローバリズムに突き進む」という報道が相次いでいる。

 たしかに、トランプ氏が掲げている「アメリカ第一主義」(America First=アメリカの利益最優先)は、19世紀前半のモンロー主義の時代から繰り返されてきたアメリカ孤立主義の“伝統”だ。

 そしてトランプ氏は、その伝統的な白人保守層が優勢な内陸部のエリア、いわば“内陸合衆国(United States of Inland)”の支持を得て、様々な人種・民族で構成されているリベラルな東海岸と西海岸のエリア、いわば“沿岸合衆国(United States of Coastal)”を牙城とする民主党のヒラリー・クリントン氏に勝利した。

 しかし、アメリカの人口動態を見れば、この先、黒人、ヒスパニック、中国系、インド系、旧ソ連・東欧系などの人口が増えて白人の人口は減る一方だから、おそらく今回の大統領選は“内陸合衆国”が“沿岸合衆国”に勝てる最後のチャンスだった。

 この“内陸合衆国”と“沿岸合衆国”の分断こそ、今のアメリカが抱えている最大の問題である。“内陸合衆国”は、ラストベルト(Rust Belt=さびついた工業地帯/中西部から北東部にかけての製造業が廃れた地帯)をはじめとするロッキー山脈以東の南部を含む農業や重工業などの古い産業が中心の地域で、平均年収は約5万ドルだ。

 一方の“沿岸合衆国”は、東海岸のボストンやニューヨークの金融業が世界をリードし、西海岸のサンフランシスコ・ベイエリアやシアトルなどにICT産業が集積しているため、平均年収は約15万ドルに達している。つまり、今回の大統領選挙は“5万ドル対15万ドル”の戦いだったとも言える。

 そういう構図の中で、トランプ氏は衰退した古き良き“内陸合衆国”の現状に不平・不満を募らせて変化を求めている「中流・白人・男性」にフォーカスし、「不法移民の強制送還」「メキシコ国境に壁を建設」「イスラム教徒の入国禁止」「TPP(環太平洋経済連携協定)の破棄」といったエクスクルーシブ(exclusive=排他的)な公約を打ち出した。

 本来、政治家というものは1票でも多くの票が欲しいから、多種多様な意見を取り込んでインクルーシブ(inclusive=包括的)になるものだ。ところが、トランプ氏は政治家ではないので、エクスクルーシブな主張を徹底的に展開し、その訴求力によってインクルーシブな政治家の典型であるヒラリー氏を打ち破ることができたのである。

 とはいえ、総得票数ではヒラリー氏がトランプ氏を上回っていた。2000年の大統領選挙で当選した共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領より総得票数が多かった民主党のアル・ゴア氏の時と同じである。ということは、結局ヒラリー氏は選挙戦術を誤ったのである。

※週刊ポスト2016年12月2日号