マイナス196℃の液体窒素が入ったタンクで遺体を保存(出典:http://www.mirror.co.uk)

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現在では治療ができない難病や加齢などで亡くなった人を冷凍し、蘇生・回復が可能となるまで腐敗しないように保存する技術を“クライオニクス(人体凍結保存)”という。

「将来医学が発展し不治の病の治療法が確立されるかもしれない。そして何より冷凍した人間をうまく蘇生する技術が完成すれば、一度死んだ人間に新しい命を吹き込むことができる。」

そんな夢のようなコンセプトで1960年代にスタートしたクライオニクスだが、現在ビジネスとして成功している施設はアメリカの2か所、ロシアの1か所のみとされる。

「私は14歳。まだ死にたくないけど、末期ガンであまり時間が残されていないの。だから死後私を冷凍保存してほしい。100年後、いや数百年後にガンは治療可能になって、私はまた目覚めることができるかもしれない。だから私は土葬は望まない。私は生きたい。もっと長く生きたい。だからこのチャンスを逃したくない。これが私の願いです。」

ガンと告知され自分の余命が短いことを知ったイギリスのある少女(名前などは明らかにされず)はクライオニクスについて調べると、離婚している両親に自分の願いを訴えた。クライオニクスは患者の死亡が確認された後にすぐ保存処理が開始されるため、生きているうちに希望する施設に登録を済ませる必要がある。

ロンドンに一緒に住む少女の母親は娘をサポートしたが、父親はこれに反対。自らの死後を見据えるには若すぎる14歳は、この件を裁判に持ち込んだ。

離婚して8年間も娘と会わず裁判を迎えた父親は、クライオニクスに反対した理由を次のように述べていた。

「もし蘇生が成功して娘が目覚めたとしても、そこには友達も家族もいないわけです。アメリカという知らない土地で14歳の少女が生きていかなければならない…。それは200年後に突然やってくるかもしれない。もしかしたら昔の記憶がなくなっていることもあり得るわけです。」

裁判ではクライオニクスの是非ではなく両親の意見の相違について焦点が当てられ、少女は息を引き取る11日前に病院のベッドで勝訴したことを知った。父親も最終的に「これが娘の最後のそしてたったひとつの願いであるならば、私は彼女の意志を尊重します」と語り、クライオニクスにゴーサインをだした。10月17日、少女はいつか蘇生することを信じて14歳の短い生涯を終えた。

少女の遺体は氷で冷やして保存され、死後から8日後、米ミシガン州の「クライオニクス研究所」に運ばれた。遺体には様々な薬品が注入され、血液は保存液と交換される。少女はこの施設で143番目の患者としてマイナス196℃の液体窒素が入ったタンクの中に保管された。費用はイギリスからの遺体の搬送を含め3万7000ポンド(約507万円)ほどで、少女の母親は寄付を募って対応したようだ。

夢の技術として期待されるクライオニクスだが、蘇生技術は未だ確立されておらず、倫理的な問題も含め激しい批判や反対があるのも事実だ。一部の医師や科学者らは、臓器の細胞は凍結させることで破壊されるため完全な修復・再生を疑問視する。一方で物質を原子や分子のレベルで制御する“ナノテクノロジー”の技術が人間蘇生の早期実現を可能にすると考える研究者もいるようだ。

アメリカではこれまでに300人以上が冷凍保存されているが、「打撃の神様」の異名を持つメジャーリーガー、テッド・ウィリアムズさんもそのひとりだ。また2015年に脳腫瘍で死亡したタイの2歳女児、マセリン・ナオバラトポンちゃんも最年少の患者として話題となった。ちなみにこの2人は頭部のみが冷凍保存されている。脳を残しておけば身体の代用は可能だからだそうだ。

クライオニクスを計画中の著名人は、オーディション番組『アメリカン・アイドル』『Xファクター』などの審査員で知られるサイモン・コーウェルさんや、CNNのトーク番組ホストであるラリー・キングさん、米ポップ歌手ブリトニー・スピアーズさんなどがいる。クライオニクスを計画している契約者は米アリゾナ州の「アルコー延命財団」だけでも1000人以上に上るという。

出典:http://www.mirror.co.uk
(TechinsightJapan編集部 A.C.)