「Thinkstock」より

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「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。

 本連載ではここまでマーケティングの4Pにおける「Product」(製品)の説明をしてきたが、今回からその4Pのひとつである「Promotion」(プロモーション)について、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に解説してもらった。

●広告が売上増に直結しない?

――広告や宣伝といったプロモーションは、いったいなんのために行うのでしょうか。

有馬賢治氏(以下、有馬) 企業は自社製品を流通させる上で、消費者や流通業者にその存在を知らせるのはもちろんのこと、製品の情報を正しく理解してもらう必要があります。つまりプロモーションとは、自社製品の告知とその特徴を説得するための、企業の情報発信活動である、といえます。

――しかし、テレビCMなどを中心に、広告費は莫大な金額になります。

有馬 広告費にお金をかけるくらいなら、その分製品の単価を下げてほしい、と考える消費者はいますが、広告をしないことには顧客が製品自体を知らない訳ですから、多くの人に買ってもらうことは期待できず、結局は単価を上げないと採算が取れないことになってしまいます。また、売上の増大のために莫大な広告費を投入する意味があるのか、ともよく問われますが、他社との競争に負けないように製品の存在とその魅力を知ってもらうための企業活動としては、広告にお金をかけることは、程度問題はありますがごく自然なことなのです。

――広告を出すことによって、売上が上がり、広告費をペイできるということでしょうか。

有馬 広告の効果を議論するとき、売上と広告費が直接的にリンクしているかといったら、実はそこまでではないといわれています。ただ、広告論的にはどれくらいの人に存在と特徴を知ってもらえたのか、しっかりとメッセージ内容を届けることができたのかが重要であり、必ずしも買ってもらうことが主目的ではないと考えられています。一つの製品の販売で企業活動が終了してしまうのなら、売上の上昇こそが広告の目的といえるでしょう。しかし、実際企業は継続して次々と製品を開発し、流通させます。たとえ一度のプロモーションによって、売上が上がらなくても、消費者に好感を持ってもらえれば、良い企業イメージに繋がります。広告は、今後発売する製品やブランドを展開しやすくさせることも大きな目的のひとつなのです。

――コカ・コーラやマクドナルドなど、誰もが知っているブランドでも定期的にテレビCMを流していますよね。

有馬 製品や企業名が十分に世間から認知されるようになったら、このようなリマインダー広告を行って、消費者から忘れられないようにするメッセージを定期的に送ることは効果的です。特に、飲料水や日用品の場合、広告を打っていないと途端に売上が下がるといわれています。明確に買いたいブランドが決まっていない消費者というのは、いざ店頭で手に取る際、広告によってブランドが頭の中に思い浮かべば安心してその製品を手に取りやすくなります。反対に、聞いたこともないブランドには警戒感が働き、手が伸びにくくなるのです。

――高価な買い物をする場合では、消費者心理も変わってくるということでしょうか。

有馬 そうですね。消費者心理の考え方に「探索コスト」というものがあります。自動車など高額なものを買う場合には、自分自身でもいろいろと調べるとは思いますが、数百円の日用品を買う場合に、店内でわざわざスマホで調べて比較をするのは面倒と考える人が多いのではないでしょうか。そういったときに、リマインダー広告をしておくと、顧客をつかみやすくなるというわけです。

●紙媒体広告の価値は下落

――最近では、ネットの広告が注目を集めています。

有馬 ユーチューバーとしての活動やアフィリエイトなどのブログで生計を立てる人が増えてきたことからもわかる通り、インターネット広告の広告価値は明らかに上がっています。昨今、広告がインターネットによって双方向化したことで、「マーケティング・コミュニケーション」という言葉も幅広く浸透してきましたし、近い将来、インターネットの、特にYahoo!のトップページなど注目度の高いバナーの広告費が、テレビのゴールデンタイムのCM以上に高くなる、などということも考えられなくはないでしょう。

――新聞や雑誌など、いわゆるオールドメディアの広告の価値は下がる一方なのでしょうか。

有馬 残念ながらそうですね。紙媒体は、かつてその保存性によって広告価値が高いとされてきましたが、その利点も雑誌をアーカイブする時代ではない現代においては足かせともいえます。今後紙媒体がもし生き残りの道を模索するのであれば、たとえば広告をこすったら香水や食べ物の香りを体感できるようにするなど、手に取ることができるリアルなメディアだからこそ可能な手法で、消費者の心に訴えかけないと難しいでしょう。

――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)