2018年の平昌五輪を競技人生の最終目標に据えて現役生活を続ける浅田真央が、今季序盤、グランプリ(GP)シリーズで苦しい戦いを見せている。

 GP初戦のスケートアメリカは6位。そして2戦目となったフランス杯では、演技内容的にも悪い結果となり、さらに順位を下げて9位に終わった。GP出場22大会目にして、10年NHK杯の8位を下回る自己ワーストの成績を残すとともに、8度目となるはずだったGPファイナル進出を逃した。

 一時代を築き、世界のトップで戦ってきた26歳のベテランは、シーズン序盤の予想以上の不調に戸惑いを隠さない。フランス杯のフリー演技後、テレビインタビューを終えた浅田は、ミックスゾーンで待つ報道陣の前であふれる涙をぬぐう姿を見せた。

「悔しさもある。がっかりだったり、ふがいなさだったりがある。フリーでことごとく決まらなかったジャンプも滑りも、すべてがしっくりきていない感じがした。結果や自分の自信というものが、すべて失われたので、またここから、一からもう一度、作り上げていかないといけない」

 スケートアメリカでもフランス杯でも、自分に言い聞かせるように語るコメントに、前向きな気持ちが垣間見えたことが救いだった。思い描いた演技ができずに結果が悪ければ、どんなトップアスリートでも落ち込むのは仕方がない。

 練習に取り組んできたオフの期間から、左ひざをはじめ、痛みが伴う故障が体のあちこちに出てきており、浅田にとって満足のいく練習を積むことができていないという。とことんまで練習で突き詰めるタイプの選手だけに、その練習で調子を上げることができない状況に陥っていることの影響が大きいことは否めない。

 その証拠に、最も得意なジャンプである3回転フリップをしっかりと跳ぶことができていない。回転不足になったり、2回転になったりと、左ひざでタメを作って跳ぶフリップの3回転ジャンプがまともに入らないのだ。プログラム全体を通しても、しっかりと氷を蹴ることができていないのか、本来のスピードが見られない。そのために助走スピードが不足し、ジャンプの力強さが失われているようだ。

 15歳でシニアデビューを飾ってから10年。第一線で活躍し続けてきた浅田の身体状態は、スケートがまったくできないわけではないにしても、ある意味で満身創痍なのかもしれない。浅田のスケーティングやジャンプを基礎から見直して導き、未知の世界をともに進んできた佐藤信夫コーチはスケートアメリカの後、今季の浅田についてこんな話をしていた。

「今季はケガというよりも、ずっと使ってきた箇所にいろいろ故障が出てきて、十分に滑り込みができていない状態ですので、それがなんと言っても一番大きな不安材料です。ただ、何とか最後まで戦い抜けるように少し厳しい練習をしていかなければいけないと思っていますので、慎重の上に慎重に取り組んでいきたいと考えています。本人はやりたい気持ちがあるので、練習では無理をさせないようにうまくコントロールしていくことが必要で、その判断をずっとやってきました。

 やるからにはベストを尽くしたい気持ちは持っていますけど、終わってみれば、GPシリーズ2大会は大きな目標に向けてのステップの場になる気がします。ただ、目指す目標に向かって着実に一歩一歩階段を上って行きたいのですけど、『ちょっと待てよ』という部分が残っているかもしれない」

 休養から復帰した昨季も、シーズン前から、佐藤コーチは「未知の世界に足を踏み入れることの覚悟」を口にしていた。ベテランの域に達した選手をどう指導し、トップスケーターの実力を維持させながら、自信を失わせない戦い方をしていけばいいのか。叱咤激励をしながら、50年を超える指導経験を駆使して、一人のトップ選手に付き合ってきた。

 そんな佐藤コーチは、浅田復調の可能性についても話をしている。

「今シーズン、僕が言うのもおかしいですけど、演技についてはうまいなと思って見ています。十分、はっきりと成長しています。減点されているのは何が足りないかというと、体力的な部分で、まだちょっとエンジンが小さいのかなと思っています。エンジンそのものはいくらチューンアップしても限度があるので、それほど変えることはなく、あとはドライバー(運転者)の使い方の問題かなということで考える道はあるのかな。

 例えば、ここでは頑張るけど、ここでは多めに緩めてという具合に、全部(一生懸命に)やっているとオーバーヒートしてしまうから、そういう戦い方は必要だし、それも技術だと思います。それをやり遂げたら本物かなと思いますけど......。『楽しみにしていてください』と言いたいんですが、いまはまだ何とも言えないのがつらいところですね。それでも、一生懸命に取り組んでいますし、トリプルアクセルも跳びたがっていますから、夢は持ち続けたいと思っています」

 シーズン序盤戦、残念ながら結果は思わしくなかった。だが浅田本人も佐藤コーチも、決してあきらめてはいないはずだ。悪いコンディションの中でも、大きな目標の舞台に向けての気持ちを持ち続けて、ぜひともリンクに立って戦い続けてほしいと願うばかりだ。

「(体調だけの問題か? との問いに)それだけではないと思うし、いろんなことが重なってこういう結果になってしまったと思います。早くそれらを克服して、次の全日本選手権につなげたい。そのためにも、この悔しさを忘れないで、全日本では滑れるありがたさを感じながら滑りたいです」

 フランス杯の大会後に浅田はこう語った。プレ五輪シーズン最大の目標である10度目の世界選手権(来年3月・ヘルシンキ)出場を懸けた大一番に照準を合わせるつもりだ。

 トリノ五輪金メダリストの荒川静香さんが言っていたように、ベテランはベテランらしい戦い方がある。実績もあり、経験もあり、技術もあり、若手に負けない表現力もある浅田に必要なことは、左ひざを含めた故障箇所をしっかりと治療して、万全の状態で試合に臨むことだろう。

 12月下旬に行なわれる全日本選手権(大阪)まで約1カ月。残された時間は多くはないが、やるべきことははっきりしている。復活の演技が見られることを期待したい。

辛仁夏●文 text by Synn Yinha