米国にはびこる偽ニュースの「恐ろしい」実態

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皆さんは、次のニュースに聞き覚えがあるだろうか。「リチャード・ブランソン、ツェッペリン再結成ツアーに8億ドル提示」「テイラー・スウィフトの年収、3億6,500万ドルに到達」「プリンス未公開音源、ジェイ・Zが4,000万ドルで購入希望」──あったとしたら残念だが、これらはどれも実際に起きた出来事ではなく、過去にフォーブスの事実検証で誤報と判明しているニュースだ。

情報というものは、たとえ間違ったものであっても目を引くものであれば何らかの形で広まり、しぶとく生き延びる。冒頭に挙げた3つの例は、芸能界(とそれに伴う素人ジャーナリズム)が「偽ニュース」のまん延をいかに促したかを示している。こうした偽ニュースは、次期米大統領に選出されたドナルド・トランプの台頭にも貢献していた。

「もはや誰も事実検証をしなくなった。だからトランプが当選したんだ」。月収1万ドルという「偽ニュース作家」のポール・ホーナーは米紙ワシントン・ポストにこう語っている。「トランプの好き勝手な発言を人々は全部信じ、後になって事実ではないと分かっても、既に受け入れたものとして気に留めなかった。本当に恐ろしい。こんなことは、これまで見たことがない」

ソーシャルメディア運営各社はここにきて、対応策に追われている。「ヒラリー・クリントンのメール問題担当のFBI捜査官が遺体で発見される」などといった虚報が広まったフェイスブックは14日、こうした偽ニュース発信者による自社サイト広告ネットワーク利用を禁止した。

前日の13日には、グーグルの検索結果トップに「トランプが一般投票の得票数でもクリントンを上回る」という虚報が表示されていたことに批判が集中。同社はその後、「出版元やそのコンテンツ、または主な目的について誤解を与えたり、隠したりするページ」への広告表示を取りやめると宣言した。

だが、無名のメディアによる偽記事よりもさらに厄介な偽ニュースの種類がある。それは、ブログの世界で生み出された情報が主要メディアに拾われ、「事実」として生まれ変わる場合だ。

その基盤となったのが、スーパーマーケットで販売されるタブロイド誌の「エルビス・プレスリーは生きていた!」といった害のないガセネタの類いで、1990年代になると「ヒラリー・クリントンがエイリアンの赤ちゃんを養子に」「ビル・クリントンが宇宙人にわいせつ行為」という、とんでもない作り話まで飛び出す奇妙な場面もあった。

そして2000年代にインターネットが爆発的に普及すると、誰しもがコンテンツを作り出せるようになった。だがこの自由がもたらした影響は、客観的な真実が必要ない音楽や映画などのクリエイティブメディアと、事実と虚構を見分ける訓練が必要なジャーナリズムの世界とでは、大きく異なっていた。

ネット上とハリウッド業界ではすぐにファンブロガーのサイトが乱立し、セレブリティから得た情報をそのまま垂れ流すようになった。一方、ソーシャルメディア上で膨大な数のフォロワーを獲得した芸能人たちは、従来メディアを通じた情報発信の必要性を失い、インタビューを拒否するようになった。

ホワイトハウスの記者らは今、取材対象との密接な関係を築く「アクセス・ジャーナリズム」式の報道を追求した代償を払っている。次期大統領のトランプは長年の慣例を破り、報道陣をまいて行方をくらます行為を繰り返している。ホワイトハウス記者協会は反発しているが、一方でトランプの報道担当者はそうした行為について把握していないとしらを切り、トランプが「報道陣に対し隠し立てをすることは絶対にない」と述べている。こうした状況の中、正確で客観的な報道の必要性は、これまでになく高まっている。