5〜6歳で発症し、その5〜7割が慢性化する(shutterstock.com)

写真拡大

 文豪・夏目漱石のデビュー作でもあるユーモア小説『吾輩は猫である』にあやかれば、『吾輩は「腎不全」である』と嘆く猫が増えているらしい。

 偏屈者の珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生なら、腰を抜かしそうな痛快なニュースが飛び込んで来た。

猫の死因のトップは腎不全

 毎日新聞(2016年10月12日)によれば、東京大学の宮崎徹教授(疾患生命科学)らの研究チームは、猫に「腎不全」が多い原因を突き止め、英科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』に発表した。

 腎臓は、左右合わせて約200万個のネフロン(腎小体と尿細管)で構成されている。血液中の老廃物や塩分を濾過して尿を生成・排出し、細胞外液中の水やミネラルの濃度を調節し、体液量・浸透圧・pHを一定に保っている。必要なミネラルを体内に取り込み、血圧を調整する役割もある。

 腎臓の働きが悪化すると、体液量の調節やミネラルバランスが乱れ、尿が排出しにくくなるため、老廃物や毒素が体に蓄積し、尿毒症、貧血、むくみ、疲労、めまいなど、さまざまな不調が現れる。それが腎不全だ。

 腎不全は「急性腎不全」と「慢性腎不全」に分かれる。

 急性腎不全は、出血による腎臓の虚血、細菌感染、薬剤などの原因によって急速に腎機能が低下するため、尿が出にくくなったり(乏尿)、全く出なくなったり(無尿)の症状が急速に現われる。

 一方、慢性腎不全は、腎機能が正常時の30%以下にまで低下するため、特に夜間の尿量が増え、むくみ、疲労、食欲不振、息切れなどの症状が出る。腎機能が10%未満までに進行すれば、透析治療が必要な末期腎不全に陥る。
5〜6歳で急性腎不全になり、5〜7割が改善せずに慢性腎不全に

 宮崎教授によると、猫は5〜6歳で急性腎不全になることが多く、そのうち5〜7割が改善せずに慢性腎不全になり、およそ15歳で死に至るという。

 また、日本ベェツ・グループの推計によれば、8歳で約8%、10歳で約10%、12歳で24%、15歳以上で30%の猫が慢性腎不全を発症するとしている。

 なぜ猫は急性腎不全になりやすいのだろう? 『Nature Medicine』(2016年1月6日)によれば、宮崎教授と科学技術振興機構の研究チームは、血液中のタンパク質AIMが腎臓に働きかけ、急性腎不全の治癒に役立つ可能性を示唆する研究成果を発表した。

 発表によれば、人の急性腎不全は、血液中のタンパク質AIMが活性化するので、腎機能が改善されるが、猫の急性腎不全は、AIMが働かないため、腎機能が改善されない事実が確認された。

 AIMによる急性腎不全の治癒の仕組みはこうだ――。急性腎不全が生じると、腎臓の尿細管に細胞の死骸が詰まることから、腎機能の低下につながる。腎機能が低下すると、血液中に存在するAIMが尿中に移行し、細胞の死骸に付着する。その結果、AIMがマーカーとなって働くため、周囲の細胞が一斉に細胞の死骸を掃除することから、尿細管の詰まりが解消され、腎機能が速やかに改善されるという仕組みだ。

猫に腎不全が多い原因がは人の治療にも役立つ?

 今回の研究は、マウスの比較実験だが、腎機能が低下した時の血中AIMの尿中への移行と細胞の死骸への付着は、人の急性腎不全患者でも観察されるので、AIMによる治療は有効であるとしている。

 宮崎教授は「数年で猫の薬が使えるようになれば、腎不全の猫の治療や延命に役立つので、猫の寿命を大幅に延ばせるだろう。しかも、AIMを利用した薬の開発が進むと、猫だけでなく人への応用も大いに期待できる」と話している。
 
 さて、『吾輩は猫である』の名無しの黒猫は、人間様の観察が好きでいつも人間を見ている。死ぬのが万物の定めなら、早くあの世へ旅立つ方が賢いと悟るが、ビールに酔っぱらい、水瓶で溺死する。珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生は、どんなに悲しんだだろう。猫も人間様も長命長寿なら、本望にちがいない。
(文=編集部)