僕が20年間、鮨屋に通ってわかったこと

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いざ、カウンターに座るとなるとまだ不安がある。お客の立場からの助言もあれば心強い。教えてくれるのは20年以上全国の鮨屋を巡り、今も自腹で食べ続けるサラリーマンだ。

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サラリーマン鮨オタク●宇佐美 伸さん
1961年、北海道釧路市生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞社に入社。以来、出張や旅行で全国の鮨を食いまくる、人呼んで「エンゲル係数75%の男」。『寿司おたく、ジバラ街道をゆく』(講談社)、『すきやばし次郎 鮨を語る』(文春新書)などがある。

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■いい店の見つけ方

▼大将の顔とつけ台でわかる
席に着いたら、大将は身ぎれいか、つけ台が不潔でないかをチェック。ネタの鮮度や味はもちろん、ガリは自家製か、わさびは本物かも見てみよう。意外なチェックポイントは、職人の手元に清潔な布巾が常備されているかどうか。衛生面への配慮が行き届いている店では、ネタを切るたびにこまめに包丁を拭う動作が見られます。

■身だしなみ

▼清潔感さえあれば第一段階はクリア
服装よりも、身ぎれいに。私はいつも、鮨屋に行く前はシャワーを浴びて髭を剃ることにしています。時間の都合でそれが叶わなくても、下着だけはきれいなものに替える。鮨オタクである私にとってこれはある種の儀式。いい鮨屋とは、訪れる前に身を清めたくなる清々しさを備えているものです。

■食べ方

▼基本は手づかみ。時々、箸
職人が精魂を込めて握る魂の一貫。ならばこちらも、指先を目鼻のように研ぎ澄まし、酢飯やネタの触感の一つ一つを丁寧に感じ取りたい。だから手を使います。鮪のしっとりと艶めかしい手触りや、赤貝のプリプリとした潔い感触を、存分に堪能します。ただし、穴子などツメが塗られたネタには箸を用いる、「二刀流」が王道といえます。

■飲み方

▼とりあえずのビールはあえて小瓶で
席に着いたら、まずはビールで喉を潤したい人も多いでしょう。しかし鮨は本来、日本酒と好相性。ぐっとこらえて小瓶を注文すれば“ほどほどに抑えるつもり”をアピールできます。その後、日本酒に移って追加を注文する際も、「お銚子に半分だけ、いいですか?」と頼みます。こうすると、お酒ではなく握り目当てということが職人に伝わります。

■職人からの愛され方

▼「産地はどこ?」はNG
よく、何か気の利いた話題を振ろうとして「産地はどこですか?」と職人に尋ねる客がいますが、これはNG。職人は産地ではなく、あくまでネタそのものの鮮度で選んでいます。美味しいと感じたなら、率直にそう告げればいいでしょう。職人も、多くの客と接してきていますから、それが本音だということは伝わるはず。

▼お世辞よりも素直な言葉を
何事も、褒めるときには比較対象が必要。その店の何が良かったのかを具体的に語るには、基準となる店を持っておくことです。胸に秘めた明確な基準と比較しての褒め言葉は、上っ面のお世辞にはない説得力を持ち、相手の心にもきっと響くはず。自ずと印象の良い客になれるでしょう。

▼無理して大将と会話しない
作法を気にしすぎるより、露天風呂に浸かるような感覚で、リラックスして、その場の空気を愉しむことが大切。大将との会話が弾むことが通の証と思ったら大間違い。頑張って店主と話そうとするあまり疲れてしまったら本末転倒です。鮨の味と一緒に空間を味わうゆとりを持つことができれば、その物腰に一目置かれるかも?

■初心者は、昼に老舗で「お決まり」を頼んでみよう

夜は値段表のない老舗でも、ランチタイムならお決まりが用意されていることもあります。そこで初心者はまず、昼時に「お決まり」をオーダーすることから始めてみましょう。

ネタの選択を店側に任せてしまえば、オーダーの作法でミスを犯すリスクもありません。何より、その店の味をリーズナブルに楽しめるメリットは大きいでしょう。

テーブル席がある鮨屋では、基本的にカウンターは「お好み」や「おまかせ」を楽しむ人の場所であり、「お決まり」をオーダーする人はテーブル席に座るのがセオリー。とはいえ店によって例外もありますから、入店したら開口一番、「決まりものはありますか?」と尋ねることをお薦めします。すぐに「こちらへどうぞ」と座るべき場所を指示してくれるはずです。

そうしてテーブル席に通されたとします。テーブル席は店内を俯瞰できる場所でもありますから、鮨が出てくるのを待つ間にさまざまな発見が得られるでしょう。掃除は行き届いているか。整理整頓されているか。細かな部分からも、その店の本質が窺えるものです。逆に、もしカウンターに案内されたら、店主と言葉を交わすチャンスが生まれるかもしれません。

鮨屋に慣れないうちは緊張してしまうものですが、ランチタイムを使って何軒か訪れるうちに、「居心地のいいお店だな」と感じる鮨屋に出会えたなら、このステップはクリア。その後も月に1回くらいは通うよう心がけましょう。繰り返し通うことで店のことを一層深く知ることができ、自分の中にいい店とはどんな店なのか、明確な基準が生まれます。これはこれから鮨の世界を探求していく上で、非常に大切なこと。

常連として認知してもらえれば、そのうちランチタイムでもこっそり裏メニューを出してくれるようなこともあるかもしれません。

(文・友清哲)