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米大統領選挙でのトランプ氏の勝利を受けて、米株が高騰し、ドルが他通貨に対してほぼ全面高の展開となった(対ポンドでは下落)。トランプ勝利の場合は、筆者も含めて、不確実性の高まりから市場はネガティブに反応するとの見方が一般的だった。しかし、「トランプ・リスク」ならぬ「トランプ・ユーフォリア(高揚感)」が発生しているのが、現状だ。

トランプ氏は、「強いアメリカ(を再び)」を目指し、所得税減税や大規模なインフラ投資による景気刺激を提唱している。市場は、この「トランプノミクス(トランプ氏の経済政策)」を好感し、その実現を先取りしているようにみえる。

そして、そうした市場の反応は「レーガノミクス」を想起させるものだ。1981年に就任したレーガン大統領は、大幅な所得税減税を断行する一方で、ソ連との冷戦下で「強いアメリカ」を標榜して軍備を拡張した(インフラ投資ではないが、財政支出という意味では同じ)。

トランプ氏とレーガン氏とは、経済政策の他にも、共通点が多い。どちらも共和党員で、前者は実業家、後者は元俳優という異色の政治家であり、中央政治の経験がなかった(レーガン氏はカリフォルニア州知事を8年間務めていた)。また、大統領としては珍しく離婚歴があり、高齢で大統領に就任するという点も同じだ。

さて、「レーガノミクス」によって米国の経済成長が高まった一方で、期待された税収増(自然増収)は起こらず、財政赤字が拡大した。そして、国内の貯蓄と投資のバランスが崩れたことで(貯蓄<投資)、経常赤字(=外国の貯蓄)が拡大した。それらは「双子の赤字」と呼ばれた。

また、高い経済成長の下でインフレ率が加速し、強い金融引き締めが行われた。さらに、財政赤字の拡大により長期金利は大幅に上昇(国債価格は下落)。その結果、ドル高が示現した。そして、過度なドル高により米国は競争力を失って産業の空洞化が起こり、経常赤字は一段と拡大した。そのため、85年9月22日に主要先進国がニューヨークのホテルで、ドル高の是正に関して合意した。いわゆる「プラザ合意」だ。

結果からみれば、「レーガノミクス」は当初、ドル高の処方箋だった。しかし、副作用として「双子の赤字」という世界の金融市場のかく乱要因を生み出したことで、今度は長く続くドル安の遠因になったともいえる。

「レーガノミクス」には功罪、双方の評価が可能だ。例えば、軍備拡張は財政赤字の拡大につながったが、一方でソ連の崩壊を促した(早めた?)結果、90年代の国防費の大幅な削減を可能にした(いわゆる「平和の配当」)とみることもできる。

「トランプノミクス」は果たして「レーガノミクス」同様の結果を生むだろうか。一つ違いがあるとすれば、「レーガノミクス」が当初機能したのは、米国が世界経済のリーダーとしてけん引役を担い、また開かれた市場を提供したことで、世界の資金を引き付けることができたからだろう。

現在の米国にその能力も意思もないとすれば、「トランプノミクス」の「功」ではなく「罪」の部分がより強く意識されるかもしれない。トランプ氏が選挙キャンペーン中に、「景気が悪くなったら、国債のデフォルトも考える」との旨を口走ったことも、外国資金を遠ざける十分な理由になりうるだろう。

レーガン大統領は話術が巧みで、「ザ・グレート・コミュニケーター」と呼ばれた。保守派ながら、機知に富んだ、温和な人柄で、共和党員だけでなく、民主党員からも支持された。スキャンダルがあっても支持率が落ちないので、「(傷が付かない)テフロン加工の大統領」と呼ばれたこともあった。そして、84年の大統領選挙では、選挙人獲得数で525対13と民主党モンデール氏に圧勝して、再選を果たした。

果たして、今から4年後は……というのは、さすがに気が早過ぎるか。

○執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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(西田明弘)