冬のソナタ、テジャングム、天国の階段、花嫁はギャングスタ―…いわゆる「韓流モノ」はここ10数年、北朝鮮の庶民に高い人気を得てきた。視聴はもちろん違法である。見つかると最悪の場合、公開処刑となるか、恐怖の強制収容所に送られることもある。デイリーNKは昨年10月、海外の映画を見たというだけで、女子高生らが公開裁判にかけられた事実を把握している。

それでも、人々は海外の映画やドラマを見ることを止めようとしない。

(参考記事:北朝鮮が女子高生を「見せしめ」公開裁判にかけた理由

女子大生を拷問

「ブツ」はCD-Rにはじまり、DVD、USBメモリー、SDカードと小型化する一方、再生用の機器もMP4、パソコン、携帯電話、タブレットといった形で進化してきた。庶民はひと月の生活費と同様、あるいはそれを遥かに上回る高価な機械を買い求めては、布団にくるまり、つかの間の「自由な世界」を、文字通り命がけで楽しんでいる。

その最終進化型が「ノートテル」と呼ばれる、ポータブル再生機だ。8〜10インチほどの画面を持ちながら、あらゆるメディアを再生でき、一度充電すれば一週間以上は動くタフな中国製の小型家電は2010年以降、北朝鮮住民のマストアイテムとなっている。日本でVHSが普及したきっかけが成人用ビデオだったことと似ているかもしれない。

「ノートテル」の普及を支えるのはコンテンツだとしても、どのようにして、当局の嫌うこの機器が供給されているのか。答えは「密輸」である。デイリーNKジャパン編集部が11月初頭、北朝鮮で「ノートテル」密輸を行ってきた脱北者と韓国で行ったインタビューを通して、韓流普及のウラ事情を紹介する。

30代の脱北女性キム氏(仮名)は中国と国境を接する某都市で昨年秋まで、2年以上にわたって「ノートテル」の密輸を行っていた。親の代から密輸業者としての長いキャリアを誇るベテランだ。

仕入れ先は中国の朝鮮族の業者だった。価格は235元(約3500円)。これを密輸し、市内の卸し業者に250元(約3750円)で卸す商売だ。一台あたりわずか200円の売上であるが、一度に数百台、多ければ1000台を仕入れていたという。500台としても売上が7500元、諸費用を引いてざっと半分ほどが利益となる。純利益3000元は、4人家族が半年は優に暮らせる儲けだ。1000台ともなれば、一晩で1年分の生活費が手に入る。

品物は未開封の箱詰めされたものなので、荷物もかさばる。対岸の中国から国境の川を渡ってくるが、農業用トラクターのタイヤチューブを使った船が主な運搬手段だ。チューブをふくらませ、木の板を固定すれば船になる。北朝鮮側に着くとトラックに載せ替えて、キム氏の下に荷物が届く。運送には現地の国境警備隊長の車を利用して行っていたというから驚きだ。もちろん、キム氏が直接出向くことはしない。警備隊の兵士にカネをつかませ「使い走り」させていた。

代金の決済は、少しばかり複雑だ。「トンテコ(金梃子)」と呼ばれる金融業者が仲介に入る。この業者は中国側と北朝鮮側に「支店」を構えており、北朝鮮側の業者に金額を払えば、中国側にお金がわたる算段だ。「トンテコ」は融資もしてくれる。利子はいわゆる「トイチ」、一日1%の超高金利だ。中国側への支払いが間に合わないときに頼むことがあるという。

ただ、「商売はラクではなかったと」キム氏はため息交じりに明かす。理由は「当局の取締り」のためだ。例えば、卸し業者が取締りにあった場合、損するのはキム氏である。なぜなら、卸し業者は通常、品物をさばき終わった後にキム氏に代金を入金するからだ。途中で品物を没収されると代金が回収できず、キム氏は中国側に「払い損」となる。この時、一時的に「トンテコ」に資金を借りていたら大損となる。

さらに、「2014年頃からはこれまで密輸の取締りに関わってこなかった、国家安全保衛部(以下、保衛部)の連中が近づいてきた」とキム氏は明かす。「彼らは逮捕をちらつかせ、露骨に現金を要求してきた」という。泣く子も黙る秘密警察の保衛部ににらまれたら、逃れるのは容易ではない。最近では、ある女子大生が海外ドラマのファイルを保有していた容疑で逮捕され、凄惨な拷問を受けた事例もある。

北朝鮮では金儲けをしようと思うと、何かしらの違法行為を犯すことになる。密輸業者の存在は公然の秘密のため、特に当局の標的になりやすい。ただでさえ、密輸を行うために地元の保安部(警察)と国境警備隊(軍)にワイロをばらまいていたのに、商売の足しにならない保衛部まで金をせびりはじめたら、ひとたまりもない。このためキム氏は結局、密輸の仕事をあきらめ北朝鮮を脱出した。

キム氏によると「これまで北朝鮮に流した『ノートテル』は優に2万台を超える」という。国境都市だけでなく、内陸部にも送っていたというから、今も北朝鮮には「キム氏製」の「ノートテル」で韓流映画を観ている人が少なくないはずだ。

北朝鮮ではノートテルを所持する際に、当局への登録が義務付けられているが、今ではこれも有名無実となった。当局は非登録の「ノートテル」を見つけても没収したりはしない。「生活必需品の一つと考えられている」(キム氏)からだ。

このように、庶民の新しい文化となった「ノートテル」普及のウラには、キム氏のような進取の気質に富む人物の涙と笑いのストーリーがある。将軍様に忠誠を誓う単なるロボットではない、北朝鮮庶民の真の姿である。