トヨタのプラグインハイブリッド車(「Wikipedia」より)

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 強みを持つハイブリッドカー(HV)に注力していたトヨタ自動車が、環境対応車として電気自動車(EV)の開発・生産に乗り出す。各国の政府が環境対応車普及における支援対象としてEVを重視しているのに加え、グローバルな自動車メーカー各社がEVを次世代環境自動車の本命とみて、開発にしのぎを削っているためだ。EVに関しては出遅れ感のあるトヨタは、環境対応車戦略の再考を迫られた格好だ。

 トヨタが11月8日に開いた2016年4-9月期中間決算発表記者会見で、伊地知隆彦副社長は「EVは航続距離、充電時間の長さ、電池性能など、課題は多いが、国や地域ごとによっては商品として投入を検討可能な体制にしておきたい」と述べ、EVの開発・量産体制を整える方針を示した。

 トヨタは、HVと、コンセントから充電可能でガソリンでも走行できるプラグインハイブリッド車(PHV)を環境対応車の本命として位置づけ、将来的には水素を燃料とする燃料電池車(FCV)が主流になると見て開発投資を振り向けてきた。量産型HVを世界で初めて実用化したトヨタは、HV技術で他社に先行しており、PHVやFCVでは強みであるHV技術を活用できる。HV技術をベースにした環境対応車で世界をリードすることが、今後も世界トップの自動車メーカーであり続けるために必要と考えた。

 ただ、こうしたトヨタの思惑通りに世界の市場や自動車業界は進んでいない。国内市場では、トヨタとホンダがHVモデルのラインナップを拡充していることからHVの販売比率が4割を占める。一方で、グローバル新車市場では、HVの比率は2%程度。独ダイムラーや独BMWなどの欧州の一部上級車ブランドがHVモデルを投入しているものの、世界的に見てHVが普及しているとはいえない。

●制度面でも逆風

 制度面でもHVは「低燃費のガソリン車」と位置づけられ、環境対応車として認められなくなっている。米国カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションビークル)規制では、州内で一定以上の販売台数のある自動車メーカーに、環境対応車の販売割合を義務づけており、達しない場合は罰金を支払うか、他の自動車メーカーからクレジットを購入しなければならない。規制では、環境対応車の販売比率は徐々に引き上げられるため、対象の自動車各社は環境対応車の開発を急いできた。そして18年からは制度が一部変更となり、環境対応車の対象はEVとFCV、そしてPHVとなり、これまで認められてきたHVが対象外となる。

 世界最大の自動車市場である中国では、環境対応車の購入に高額な補助金が支給されているものの、対象は「新エネルギー車」と呼ばれるEVとPHVだ。中国では今後、自動車の環境規制が強化される見通しで、カリフォルニア州のZEV規制と同様、自動車メーカーにEVの一定の販売比率を義務づけることが検討されている。さらに、大気汚染問題が深刻なインドでも環境規制が強化される見通しだ。

 EVは1回フル充電当たりの航続距離が短いことと、充電インフラが整っていないこと、さらに価格が高いことが普及に向けてのハードルとなっていた。しかし、技術開発が急速に進み、1回充電当たりの航続距離の長いEVの実用化にメドがつき始めているほか、充電インフラの整備も進んできた。地球温暖化による気候変動が深刻化するなかで、走行中の二酸化炭素排出量がゼロのEVが、環境自動車の本命との見方が主流となっている。

●逃したチャンス

 環境規制がもっとも厳しい欧州の自動車メーカーは、規制をクリアするため、EVの開発を強化している。独フォルクスワーゲン(VW)は、ディーゼル車の排ガス不正問題を機に、環境対応車の軸足を、従来のクリーン・ディーゼル車からEVに転換。2025年までに30車種を投入し、生産台数全体の25%に当たる300万台を生産する計画を打ち出している。

 BMWもミニやSUVの「X3」のEVを投入する計画。ダイムラーはEVの新ブランド「EQ」を立ち上げ、19年からEVを10モデル投入する予定だ。このほか、米ゼネラルモーターズ(GM)も航続距離の長いEVを投入する計画。グローバルな自動車メーカーが相次いでEVの開発に注力している。

「トヨタは、環境対応車戦略を短期間で軌道修正する最大のチャンスを、日産にかっさらわれた」(自動車担当記者)

 HVを柱に据えてきたことで環境車競争で取り残された格好になったトヨタだが、一気に巻き返すチャンスはあった。それは、三菱自動車工業の燃費不正問題発覚だった。

 日産は10月20日、三菱自の株式34%を取得して資本・業務提携した。三菱自の会長職兼務を決めた日産のカルロス・ゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)は、「三菱自のPHVの技術はアライアンスに良いシナジー効果がある。日産とルノーは三菱自の技術をベースに開発ができる。三菱自、日産、ルノーそれぞれが開発・生産の投資を抑制できるほか、短期間で商品の市場投入も実現できる」と、環境技術でのシナジー効果に期待する。

「三菱自のPHV技術は進んでいる。高く評価している」(日産の開発担当役員)

 日産はもともと、EVを環境対応車の本命と見ており、EVのラインナップをグローバルで拡充してきたが、PHV技術では出遅れていた。三菱自はPHV「アウトランダーPHEV」の販売を伸ばしており、EVやPHV技術を長年にわたって研究開発してきた強みを持つ。日産は三菱自を傘下に収めたことで、EVの開発を強化できるのに加え、PHVの技術を入手できる。

 仮に、世界の潮流を敏感に察したトヨタが三菱自と提携していれば、トヨタは他社に劣らないEVやPHVの技術を短期間で入手できた可能性がある。日産は、三菱自の軽自動車の燃費不正の発覚によって経営不安が広がった三菱自に対して、2週間の短期間で傘下に入れることを決めた。このスピード決断の可否が、トヨタと日産の将来を決める大きな分岐点となった可能性もある。

●EVでの出遅れ感

 トヨタは当面の環境規制への対応や市場対策として、18年に中国で「カローラ」と「レビン」のPHVを投入する予定だが、EVでの出遅れ感は歪めない。

「究極のエコカーはFCVだ。この考えは今も変わっていない。ただ、水素社会の実現の過程においてはさまざまなエコカーがあり、ゼロエミッションの達成にはFCVとEVという選択もある」(伊地知トヨタ副社長)

 次世代環境自動車の主流となる可能性のあるEV技術を短期間でキャッチアップするチャンスを逃し、グローバルでの環境車戦略で大きく躓いた感のあるトヨタ。遅ればせながらEVの開発で巻き返しを図るが、自動車業界で主導権を握り続けるため、環境戦略でトップランナーを走るという構想への道のりは険しい。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)