ヘディングで頭が悪くなる?(shutterstock.com)

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 サッカー、アメリカンフットボール、アイスホッケー――。世界中で、なかでもアメリカで観客を熱狂させる人気のスポーツには、激しいコンタクトプレーがつきものだ。

 しかし、その裏にある脳へのダメージの危険性については、近年多くの専門家が警鐘を鳴らしている。

 大きなきっかけを作ったのは2005年、引退したアメフト選手の脳細胞が変性しているという報告だった。米リーグ「NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)」の選手がプレー中の衝突やタックルで受ける脳のダメージが社会問題にまで発展し、元選手や家族ら約5000人がNFLに対して集団訴訟を起こす事態となった(2015年に和解)。

ヘディングで記憶力が低下する

 脳に後遺症が残るほどのダメージといえば、受け身を取る暇もないほどの衝撃で、気を失うような「脳震盪(のうしんとう)」の場面を思い浮かべる人が多いだろう。アメフトならタックル、サッカーでは空中での競り合いなどで起きることがある。

 しかし先月、学術誌「EBioMedicine」に掲載された研究によると、サッカーでは日常的なプレーであるヘディングをした直後の選手を調べたところ、「記憶力が通常より41〜67%も低下した」というのである。

 今回、英国スターリング大学の研究チームは、機械を使ってコーナーキックに似せたボールを放ち、被験者の選手たちにそれぞれ20回ずつヘディングをしてもらった後、記憶テストを実施した。

 同大の認知神経科学者マグダレナ・イエツワート氏は「ヘディングをした直後に選手の脳の機能が抑制され、記憶力テストの結果が著しく低下した」とコメント。

 この影響は、24時間が経過するまでに消えていき、結果的に脳の変化は一時的なものだったが、サッカー選手のヘディングのように、これを何度も繰り返すことで、後々の脳の健康に大きな影響を与えると考えられている。

 今回の研究は、脳震盪などの強いダメージではなく、サッカー選手が日常的に頭に受けている軽いダメージが、脳へ与える影響を調査した初めてのケースだ。

幼少時に競技を始めるほど脳が危ない?

 こうした近年の複数の研究により、サッカーボールを繰り返しヘディングすることによる影響への懸念は高まっており、引退した元選手に注目が注がれている。

 たとえば、2002年に59歳の若さで死去した元イングランド代表FW、ジェフ・アッスルには、検視の結果、神経変性脳疾患、慢性外傷性脳症(CTE)の症状が認められた。ただしアッスルの現役当時のボールは、現在のボールに比べてかなり重かった。

 CTEはアメリカンフットボール選手やボクシング選手、ラグビー選手などでも多く確認されているが、近年CTEと診断された患者の約2割には脳震盪の経験がないことがわかっている。

 さらに、アメフト選手の場合だが、成長してから競技を始めた人と比較して、12才未満に競技を始めた選手の方が、認知能力の低下が著しいことも明らかになっている。神経が発達する幼少期に、頭部に繰り返し衝撃を与えることが悪影響を及ぼす可能性もあるという。
子どもには「ヘディング」をやめさせるべきか?

こうした報告を受けて、脳ダメージの危険から子どもを守るため、いち早く動いたのがアメリカのサッカー界だ。

 昨年12月、米国サッカー連盟(USSF)は、脳震盪などの怪我から選手を守る新たな安全計画として、「10歳以下の子どものヘディング禁止」を発表した。さらに「11〜13歳の選手に対しても、ヘディングを1週間30分以内、1人あたり15〜20回にとどめる」という項目を盛り込んだ。

 また今年3月、女子サッカー元アメリカ代表のブランディ・チャスティンさんは、頭部負傷の研究のために、死後に自身の脳を提供する計画を立てていると明かした。彼女は、高校入学前の選手のヘディングを止めるキャンペーン「より安全なサッカー」の支持者だという。

 スコットランドサッカー協会(SFA)の元会長ゴードン・スミス氏は今回の研究を受けて、アメリカの例に倣うことも検討すべきだと指摘。「幼い子どもたちに後になってどんな影響が出ることもないよう、特定の年齢層にはヘディングをやめさせるべき」とコメントしている。

 スポーツである以上、怪我をするリスクをゼロにするのは不可能だ。しかし競技のルールそのものが、将来のある子どもたちに深刻な影響を残すものであってはならない。サッカー界全体で何らかの対策を急ぐべきだろう。
(文=編集部)