ハリルホジッチ監督は、本田、香川、岡崎という3人の主軸を先発から外す決断を下した。(C) SOCCER DIGEST

写真拡大 (全2枚)

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に対する評価が一変した、とまでは言わないが、指揮官への好感度が高まる一戦となったのは間違いないだろう。
 
 大迫勇也をはじめとした所属クラブで好調を維持する選手をスタメン起用し(清武弘嗣は出場機会を得られていないが)、試合勘を失っていた本田圭佑、香川真司、岡崎慎司をベンチに置いたのは、ごくまっとうな起用法ではあるものの、絶対軸だった選手たちを揃ってスタメンから外すのは、やはりひとつのギャンブルだったに違いない。
 
 より勇気が必要だったのは、その3人を途中から起用したこと。久保裕也の負傷により本田、清武の体力面を考慮しての香川、そして逃げ切り策として大迫から岡崎。それぞれの交代策には確かな理由が存在した一方で、リードした段階で、現状は決して万全ではないこの3人を段階的にピッチに送り込んだのは、ともすれば指揮官の進退問題に決定的なダメージを与える可能性があったからだ。
 
 とりわけ清武→香川の交代は、リスキーなものに映った。ハリルホジッチ監督は「ハイレベルなプレーをしてくれたが、クラブで出ていないので60分以上はもたない状態だった」とその交代理由を説明したが、攻撃の全権を握っていた清武を、“不調”のレッテルを貼られていた香川に代え、仮に同点、もしくは逆転されでもしていれば、間違いなくこの采配は、“世紀の愚策”と罵られていたはずだ。
 
 それでも指揮官は躊躇なく香川を送り込み、好意的に見ればこの10番が2点目に絡む働きを示したのだから、ハリルホジッチ監督の目利きは正しかったと言える。
 
 またこの采配にはもうひとつの狙いが潜んでいたように思う。「正直、今回は本当に誰が出るか分からなくて、監督も緊張感をみんなに持たせようとしていたのがすごく伝わってきた」と清武が言うように、たとえスタメンであったとしても、その立場は安泰ではないというメッセージである。
 
 この日のスタメンに、いつでも取って代わられる意識を植え付けつつ、重鎮たちのプライドも保った。この試合に限らず、今後の戦いを見据えたうえで、ハリルホジッチ監督が振るった采配は、実に理想的なものだったのだ。
 戦術的に見れば、前半のハイプレスが見事にはまった。中東のチームでは珍しいポゼッション型のサウジアラビアには、前から奪いに行くという守備が有効だった。とりわけ際立っていたのが、ボールを失ってからの守備。奪われた瞬間にすぐさま複数人が猛然と襲い掛かる激しいプレスは、相手の攻撃を封じるだけでなく、素早いトランジションから前線に人数をかけた攻撃を可能とした。
 
「切り替えた後に見るんじゃなくて、一歩詰めて取りに行くってところが今日はよくできていたし、やっと監督が言っていたデュエルが発揮できた試合かなと思います」と、殊勲の原口もチームとしての戦い方に光明を見出していた。
 
 また、この試合で確認できたのは戦術的柔軟性だ。前半はハイプレスを実行し、リードを奪った後半はコースを限定しながらある程度構え、相手のパスをインターセプトする機会が増えた。リトリートして耐え凌ぎ、敵地で勝点1を得たオーストラリアとの試合も含め、相手や状況、環境によってスタイルを変えられる戦術的な引き出しも、徐々に増えていることが窺えた。
 
 課題はやはり失点場面。相手の速い攻撃に後手を踏み、後ろ向きの守備になったのが原因だが、実は前半にも右サイドを崩されて、あわやという場面を作られている。最終予選で5失点を喫している日本だが、崩されての失点は今回が初めて。奪われた時間帯も含め、押し込まれた際の守備に関しては再考が必要だろう。
 
 もうひとつ気になったのはカウンターの精度だ。とりわけ後半、ボールを奪う位置が低くなった際、前に飛び出す人数が足りず、原口のカットから生まれた59分と、山口のボール奪取から生まれた61分のカウンターの機会をともにシュートに結びつけられなかった。
 
 前半のように高い位置で奪えれば、前に人数が残っているために攻撃に厚みを持たせられたが、自陣で奪った際のロングカウンターの精度には物足りなさが残った。「もっと点を取れたという気持ちがある」というハリルホジッチ監督のコメントも、そのあたりの質を指しているのだろう。
 
 今後アウェーの戦いでは、押し込まれる時間が増えるはずだ。慣れない環境下でハイプレスをかけ続けるのも難しく、現状のボランチの構成を見る限り、後ろからボールをつなぐポゼッションも求められない。となれば、日本の攻撃の生命線はカウンターになる。その精度をいかに高められるかどうか。来年に向けた大きな宿題と言えそうだ。
 
取材・文:原山裕平(フリーライター)