P&Gアジアファブリックケア統括ディレクターの木葉慎介氏

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 50種類以上の香り成分を配合したP&Gの柔軟剤シリーズ「レノアハピネス」を知っているだろうか? 「半径30cmで華やかに香る」をコンセプトに大ヒット中の商品で、現在「レノアハピネス」の世界観を体験できるイベント「レノアハピネス 半径30cmのハピネスドーム」を東京ミッドタウンで開催している(11月20日まで)。高さ4mのスノードーム型「半径30cmのハピネスドーム」は、大切な人と一緒にドームの中に入り、半径30cmの距離に近づくと、まるで本物のスノードームの中に入ったかのように花びらや煌めきとともにレノアハピネスの華やかな香りが舞う「香りの魔法」を楽しめるという。

 こうした「レノアハピネス」をはじめ、P&Gのアジア市場全般の柔軟剤や日本と中国の洗剤事業を統括しているのが、同社アジアファブリックケア統括ディレクターの木葉慎介氏。そもそも洗濯後、繊維に柔軟性を与えるための仕上げ剤だった柔軟剤を、付加価値商品としてヒットさせることができた背景には何があったのか?ブランドの仕掛け人に話を聞いてみた。

「例えば、欧米人は特に強い香りが好きで、日本人は強い香りが苦手だと思われています。だからといって日本人は無臭が好きなわけでも、香りが嫌いなわけでもありません。ただ香りに敏感なだけ。加えて強い香りで周りに迷惑をかけたくないという思いもあり、近づいたときに香るくらいの香りを好みます。そこで出てきたのが『半径30cmで華やかに香る』というコンセプト。相手との関係性のなかで香りを楽しむという趣向で、消費者のインサイトをとらえることができました」(木葉氏)

 香水のような強い香りではなく、近くにいる人だけが自然にわかるほのかな香り。これが日本人の感覚にマッチしたという。そのため「半径30cmで華やかに香る」というコミュニケーションは日本だけ。同じ香る柔軟剤でも、東南アジアではもっとしっかりとした香りが特徴の「レノア オードリュクス」など、パフュームコレクションが人気だという。経済成長著しい地域ではあるが、まだまだ香水のような嗜好品には手が届かないため、香水の代替品として香水のようにしっかりとした香りの商品が売れているのだ。

◆ブランドエクスペリエンスに成功すればデフレも怖くない

「香る柔軟剤は、化粧品や香水よりも身近な嗜好品です。メインターゲットは主婦層ですが、ユーザーからすれば香水や化粧品を買うよりも、香る柔軟剤は気軽に買える嗜好品なんです。化粧品や香水は自分用ですが柔軟剤は家族みんなで使うもの。そんな日常のなかでいかに賢く楽しむか。そんな主婦層のスイートスポットにうまく当たり、ブランドエクスペリエンスを作り上げることができたんだと思います」

 ブランドエクスペリエンスとは、商品に触れて試し、実際に購入して利用するという実体験を通じて形成される、ブランドや商品に対する認識のこと。「半径30cmで華やかに香る」というコンセプトに触れ、実際に商品を購入して試し、その価値を認識させることに成功したというわけだ。

 とはいえ株価は上昇しているものの、日本の一般家庭のデフレマインドは根強い。そんななかで、さらにブランド価値を上げるためにはどんな戦略を考えているのか?

「我々としては、デフレだからどうとかは考えていません。例えば今の世の中、身のまわりのモノがすべて高級ブランド品、もしくはすべて格安品という人ばかりではありません。これはブランド品を選ぼう、これは格安品にしようといったように、みなさんお金をかけてもいい部分とお金をかけない部分がハッキリしてきています。そんななかで、こちらのほうが少し高いけど、こんなメリットがある。だからここには少しお金をかけてもいい。そう思ってもらえる商品を作ることができ、それを実感してもらえるコミュニケーションができれば、うまくいくと思います。特に柔軟剤市場は、価格と価値の値ごろ感を提供できれば、まだまだ伸びると思いますね」

 ちなみに普段、木葉氏はこういった戦略をどうやって考えているのか?

「自分で思いつくこともあれば、チームの誰かが提案してくれることもあります。決まっているのは、とりあえず思いついたことはチームで共有し話し合ってみること。例えば回転寿司。100円のお皿もあれば500円ぐらいのお皿も回っている。実際に食べている人を見ていると、その中間ぐらいの価格帯の商品がよく食べられている。だからといって250円均一というふうにお店はしない。それでなぜうまくいっているのか? こんな疑問を持ったら、とりあえずチームでディスカッションするんです。そこからなんとなくヒントは生まれます」

 どうすれば消費者のインサイトに迫れるのか? ブランドの仕掛け人は、常にそのヒントを探しているのだ。 <取材・文・写真/HBO取材班>