地球の裏側ブラジルは、気温30度を超す夏の陽気だった。しかし風向きが変われば、南から湿った風が運ばれ、たちまち激しい雨と肌寒さに襲われる。南米最大の都市サンパウロは、そんな気まぐれな街だ。

 今のマクラーレン・ホンダも、まさにそんな状況に置かれている。

 フェルナンド・アロンソはブラジルGPの予選でQ3に進み、雨で大荒れの決勝でもメルセデスAMGとレッドブルに次ぐペースで最後尾から追い上げ、10位まで挽回してみせた。その一方で、ジェンソン・バトンはQ1で敗退し、決勝でも最後尾16位に終わった。

 マレーシアで3強に次ぐ好走を見せたかと思えば、鈴鹿では大きく低迷し、アメリカGPでは5位・9位とダブル入賞、メキシコGPではノーポイントと、レースごとに大きく揺れ動いている。

 マクラーレン・ホンダは、速いのか、遅いのか? その問いに対する答えが、はっきりとしない。

 問題は、彼ら自身さえも、その答えを明確に把握できていないことだ。

「夏休み前のハンガリーやドイツでは週末を通して7位にいたのに、今はこうだ。僕たちのパフォーマンスが後退してしまったことは間違いない」

 アロンソはブラジルGPの予選でQ3に進んだことにも満足はしていなかった。

 2度のセーフティカー導入、2度の赤旗中断と雨に翻弄された決勝でも、一時は7位を走りながら戦略上のミスとスピンでそれをフイにしてしまった。

「僕らはいつだって4番目のチームでありたいという期待感を持ってレースに臨んでいるし、今週末もフォースインディア、ウイリアムズ、トロロッソとの争いになるだろう。このサーキットはここ数戦よりも僕たちにとって合っていると思うし、それも可能だと思う」

 そう語っていたバトンは、土曜日からマシンのフィーリングがガラリと変わり、「絶対に何かがおかしい」と訴えたものの、ファクトリーでの原因究明を待つしかなかった。結果、予選ではアロンソから1秒も遅いタイムでしか走れず、雨の決勝ではさらにプアなグリップに苦しみ続けた。

「僕がウエットのドライビングの仕方を忘れたわけじゃないし、僕はいつもウエットが得意なのにね。昨日も言ったように、間違いなくクルマのどこかがおかしかったんだ」

 そのバトンだけでなく、アロンソもメインストレートでの最高速の伸びを欠き、上位勢とは10km/hほどの差をつけられた。

 もちろんパワーの差もあるが、それよりも大きかったのは、「踏めない」ということ。これは鈴鹿からずっと悩まされている問題だ。

 ホンダの長谷川祐介F1総責任者は語る。

「アンダーステアだから(最終コーナーで曲がらず)メインストレートの立ち上がりで踏めないということと、上り坂でパワー勝負だから伸びないというのと、その両方だと思います。ここのところずっとそうですけど、やっぱりグリップが低くて、コーナーの入口がアンダーステアで出口がオーバーステアっていう、ずっと同じコメントですからね」

 加えて、金曜のFP-2(フリー走行2回目)では旧型スペック「3.0」のMGU-H(※)冷却系から水漏れが発生し、アロンソはコース脇にマシンを止めて、テレビカメラマンの席でカメラ操作を楽しむ場面もあった。バトン車のほうは排気管を覆う耐熱材が剥がれ、ギアボックスが過熱して走行を途中で終えた。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heat/排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 土曜のFP-3(フリー走行3回目)ではバトン車の電源が一瞬落ち、リセットして惰性でふたたびエンジンがかかってピットには戻れたものの、原因はわからずに念のためバッテリーとECU(電子制御装置)を交換することになった。アロンソ車も走行の直前になってギアボックスのセンサーに異常が見つかり、急きょギアボックスを取り外してセンサーを交換する場面があった。

「水漏れはこれで今年3回目です。開幕前のテストで1回、ベルギーGPで1回、そして今回です。水漏れは何度も起きていたので、実は細かな対策はその都度、施していたんです。金曜日のエンジンはスペック3.0でしたが、土曜からはすでに対策された(スペック3.5に付属している)ものが搭載されるので、大丈夫だと思います」(長谷川祐介F1総責任者)

 とにもかくにも、金曜から土曜への気まぐれな天候の変化が、アロンソ車にはうまく働き、バトン車には正反対に悪さをした。結果、週末全体の明暗がふたりで大きく分かれてしまった。

「もちろん、我々はデータを分析して土曜日に向けて狙っているわけですから、そういう意味ではフェルナンドのほうもたまたま当たったということではないと思うんですけど(苦笑)、ジェンソンのほうは外しているわけですからね......」

 それほど極端ではないにせよ、今のマクラーレン・ホンダは毎週末のように"当たり外れ"を繰り返している。それがどちらに転ぶかわからないのが、今の状況だ。

「占い師じゃないんだから、それじゃ困るんだけど(笑)」

 長谷川総責任者はそう言って苦笑した。

 Q3に進む力がなかったアメリカGPでは、スタートで大きくポジションを上げたことと、セーフティカーのタイミングのおかげでダブル入賞を果たした。しかし、自信を持って臨んだメキシコGPでは、予想外の苦戦を強いられて無得点に終わった。

「中高速コーナーが弱いということと、グリップが低いところは弱いというのは明らかなんですが、クルマの最終的なセッティングの部分が取っ散らかっているというか、なかなかうまく安定していないという問題がありますし、それがいい方向に出るのか悪い方向に出るのか、読めないというところです」

 コース特性やコンディションによって速さがブレるのは、ブレーキングの強さなどごく一部の武器だけに頼っているからであって、総合的な性能の欠如を表している。メルセデスAMGやレッドブルはどんなときでも速く、サンパウロの気まぐれな空にも左右されない。長谷川総責任者はそう言う。

「簡単に言えば、空力性能、メカニカルグリップ、パワーのすべて。それらを総合力として上げていかないと、安定して競争力を発揮することはできないということですね」

 つまりは、夏から秋にかけて急にマクラーレン・ホンダの性能が低下したというわけではなく、あらゆるコース特性や気候に対応できる総合力のなさが露呈しただけ、ということだ。

 ブラジルの金曜フリー走行でも、引き続き来季に向けたマシンの検証作業は行なわれ、マシン開発の基礎となるシミュレーション技術の見直しが進められた。ブラジルGPの直前には長谷川総責任者をはじめ、数名のホンダ上級エンジニアがマクラーレンのファクトリーに立ち寄り、来季型マシンのパッケージに関する話し合いも行なわれた。「HRD Sakura」ではすでに来季に向けてパワーユニットの開発が進み、いくつもの仕様がベンチテストで回っているという。

 その2017年型マシンを総合力あるものに仕上げ、飛躍を期すためにも、残るレースでしっかりと答えを見つけ出し、サンパウロのような気まぐれさからは決別してもらいたい。いや、それこそが、マクラーレン・ホンダに課せられた使命なのだ。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki