W杯アジア最終予選で、日本がサウジアラビアに2−1で勝利した。

 日本はもしも負けていれば、W杯出場圏外のグループ4位に転落する可能性もあったが、どうにか勝って3位から2位へ浮上。最終予選全10試合のうち、前半戦5試合を終えた時点で、プレーオフに回らずW杯への出場権を獲得できる位置(2位以内)につけている。

 出場圏内での折り返しに、ほっと胸をなで下ろしている人は多いだろう。

 これまでの最終予選4試合に比べれば、試合内容もよかった。日本は高い位置でボールを奪うことができており、そこから手数をかけずに速く攻め切る攻撃が多かった。

 相手ボールを奪って速攻という流れは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が目指すところであり、指揮官にとっても満足度の高い試合だったに違いない。

 とはいえ、まだまだ安心はできない。日本代表が危機的状況にあることに変わりはないからだ。

 気になったのは、ハリルホジッチ監督が試合後に発した、次のコメントである。

「海外組の選手たちには、スタメンを取り続けなさい。先発できるクラブに行きなさいと話している。我々の強みは、海外組のプレー回数が多いことによって決まる」

 限られた記者会見の時間のなかで通訳が間に入るため、少しわかりづらいかもしれないが、簡単に言ってしまえば、「海外組がどれくらい所属クラブで試合に出られるかが、日本代表の強さを決める」というのだ。

 確かに、能力の高い選手が所属クラブで出場機会を得られず、試合から遠ざかる状況は日本代表にとって痛手ではある。

 海外組が高いレベルの試合を数多く経験し、その成果を日本代表に還元してくれる。そんな流れこそが理想だ。所属クラブでのパフォーマンスが日本代表でのそれに直結することは、今回のFW大迫勇也(1.FCケルン/ドイツ)、原口元気(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)を見てもよくわかる。

 だが、「日本代表候補=日本人選手」の多くは日本国内、すなわちJリーグでプレーしている。海外組は、ほんのひと握りの選手に過ぎない。

 にもかかわらず、海外組を特別扱いし、彼らが所属クラブで試合に出られるかどうかをじっと注視しているだけでは、日本代表の強化はおぼつかない。

 仮に海外組が100人も200人もいて、そのなかから調子のいい選手、所属クラブで活躍している選手を選べるなら、それでもいいだろう。だが、実際はそんな状況にはなく、ようやく1チーム作れるかどうかの海外組がいるだけだ。

 しかも、現時点で言えば、海外組は所属クラブでの旗色が悪い選手が多く、今後状況が改善される保証もない。というより、改善される可能性のほうが低い。

 ということはつまり、ハリルホジッチ監督は、「現状ではこれ以上、日本代表は強くならない」と宣言しているに近い。

 当然、フランス人指揮官も現実を理解しているはずだ。だからこそ、Jリーグにももっと目を向け、新戦力を起用し、彼らを育てなければならないはずなのだが、これまでやってきたことはまったく逆。親善試合であろうと、力が落ちる相手とのW杯2次予選であろうと、所属クラブで試合に出られない海外組、DF吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)やMF本田圭佑(ミラン/イタリア)らに出場機会を与えてきた。彼らに試合勘を取り戻してもらわなければならないし、どんなコンディションにあるのかを確認しなければならなかったからだ。

 本来、新戦力をテスト起用すべき機会が、試合に出られない海外組の調整の場に使われてきた結果、若手の発掘、ひいては世代交代に悪影響を及ぼしていたことは否定できない。

 今回のサウジアラビア戦で、ようやく本田の他、MF香川真司(ドルトムント/ドイツ)、FW岡崎慎司(レスター・シティ/イングランド)を先発から外したハリルホジッチ監督は、「確実に席が用意されている選手はいない」と話していたが、そんなことは当たり前の話。印象としては「遅きに失した」とは言わないまでも、「ここに来てやっと」の感は拭えない。

 指揮官の「海外組偏重」は、今に始まったことではないとはいえ、極端に強い。

 確かに、ハリルホジッチ監督が強調する「デュエル(1対1)」に代表されるように、海外スタンダードに日本が追いついていない点は多々ある。その不足部分を少なからず備えているのが、海外組なのだろう。

 だが、これほどまでにJリーグを軽視することが、本当に得策なのだろうか。日本代表の強化につながるのだろうか。

 なるほど、サウジアラビア戦での日本は、縦方向へのスピードがあった。前に出てボールを奪うと、その勢いを攻撃の推進力へと変え、相手ゴールに迫ることができていた。

 しかし、その一方で、ゆっくりとパスをつないで攻撃を組み立てようとするときには、すぐに2本目、3本目のパスコースがなくなり、無理なパスを出さざるをえなくなった。その結果、サウジアラビアにボールを奪われ、危ういカウンターを受けることが少なくなかった。

 サウジアラビアは攻撃の組み立てが拙(つたな)く、日本が悪いボールの失い方さえしなければ、失点の不安はそれほどなかった。にもかかわらず、日本は自らのミスで、むざむざ相手に攻撃機会を与えていた。

 スピード感や力強さはあったものの、試合運びは極めて粗く、"事故"が起きかねない場面はピッチ上のあちこちで見受けられた。

 要するに、チーム全体が連動し、パスを出したら動くという俊敏性を発揮するなかで、ゲームをしっかりとコントロールする。そんな試合運びが、まったく見られなかったのだ。

 海外スタンダードに足りない部分があるなら、それを伸ばすことはもちろん必要だ。しかし、逆に日本人選手が得意なことを武器にするのも、また強化ではないのか。

 現在の日本はそもそも人材難であり、ハリルホジッチ監督にも同情の余地はある。とはいえ、あまりに偏った考え方が自らの首を絞め、選択の幅を狭めているような気がしてならない。

 次回のW杯最終予選(UAE戦)は来年3月。ハリルホジッチ監督はただでさえJリーグに興味がないうえ、それまでの間、Jリーグはシーズンオフに入る。それを考えれば、国内組の選手が新たに抜擢される可能性は非常に低い。

 つまり、次戦までの日本代表の強化は「海外組が試合に出られますように」と、祈ることしかできないのだ。メディアやサポーターはもちろん、当のハリルホジッチ監督でさえも。

 サウジアラビア戦の勝利で、何となく大きな山を越えたかのような雰囲気が漂っているが、まだ何も終わっていないし、何も決まってもいない。

「我々の強みは、海外組のプレー回数が多いことによって決まる」のだとすれば、最終予選が再開される4カ月後には、状況はさらに悪化している可能性も十分にある。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki