自由民主党HPより

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 一昨日15日、政府は国連平和維持活動(PKO)にあたる自衛隊に、新たな任務「駆けつけ警護」を付与することを閣議決定した。これを受けて20日より陸上自衛隊が順次、南スーダンへ出発する予定で、安倍政権が強行採決で押し切った安保関連法がいよいよ本格運用されることになる。

 しかし最大の懸念は、南スーダンの情勢だ。10月12日に行われた衆院予算委員会では、治安が悪化している南スーダンでの駆けつけ警護は危険であり、新たなリスクの可能性を認めるべきではないかと批判されると、安倍首相は「南スーダンは永田町より危険」などとふざけた答弁をした。

 さらに現地視察をした稲田朋美防衛相も「(自衛隊宿営地がある)ジュバの状況は落ち着いている」と説明。10月末から今月にかけて同じく視察した柴山昌彦首相補佐官も「ジュバ市内では銃声なども聞こえず、治安を脅かす動きはまったく見て取れなかった」と記者団に語った。結局、「南スーダンは安定している」という認識で最後まで押し通したのだ。

 だが、これは現実とあまりにもかけ離れた、見え透いた嘘である。事実、南スーダンをめぐっては、ここ数カ月のあいだ、その危険性しか浮き彫りになっていないからだ。

 すでに報じられているように、7月にはジュバで大規模な武力衝突が発生し、約300人が死亡。10月にもジュバから約600キロ離れた場所で戦闘が起こり、50人以上が死亡したという。

 こうした状況のなか、今月11日には国連のアダマ・ディエン事務総長特別顧問が「民族間の暴力が激化し、ジェノサイド(集団殺害)になる危険性がある」と警告をおこなった。さらに、国連の潘基文事務総長も今月14日に南スーダンの最新の報告書をまとめたが、このなかでジュバおよびその周辺の治安情勢を「不安定な状況が続いている」と指摘。〈政府軍が反政府勢力の追跡を続けている中央エクアトリア州の悪化が著しいと明記〉したという。ジュバはこの中央エクアトリア州に位置しているのである(共同通信11月15日付)。

 つまり、自衛隊の活動地域であるジュバの治安は今後、さらに激化するというのが国連の見立てであり、日本政府はこうした情報を得ながらも、国民には「状況は落ち着いている」などと説明し、ついには駆けつけ警護付与を閣議決定したのだ。

 しかも、同じく今月に入って南スーダンPKOの要となってきたケニアが部隊撤退を表明。ケニアはPKO部隊全体の約1割を占める約1200人を派遣していたが、ケニア外務省は撤退表明と同時に「南スーダンのPKOが、根本的な構造的、組織的な機能不全に陥っていることは明らか」と国連を批判している。治安だけでなく、指揮系統の問題も指摘されているのである。

 くわえて問題なのは、PKO参加の大前提となる「5原則」のひとつである「紛争当事者間で停戦合意が成立」という条件に当てはまらないのではないか、という点だ。現在、南スーダンで戦闘が起こっていることはあきらかな事実で、もはや停戦合意は崩壊しているに等しい。しかし、稲田防衛相は「法的な意味での戦闘行為ではない」「7月には『衝突事案』もありました」などと一向に認めなかった。

 さらに、既報の通り、7月にはジュバでホテルに宿泊していたNGO関係者たちが襲撃を受け、略奪にレイプ、さらには殺害されるという事件が発生しているが、この襲撃を行ったのは南スーダン政府軍の兵士だった。15日放送の『NEWS23』(TBS)でも、国連PKO部隊の元司令官であり、国連特別調査団の責任者として南スーダンのPKO部隊を調査したパトリック・カメーア氏が「最悪の事態としては、政府軍の兵士と敵対することもあり得ます。それが現実なんです」と語っている。

 安保関連法では駆けつけ警護での武器使用が認められたが、自衛隊が「国や国に準ずる組織」に対して武器を使用すれば、それは憲法が禁じる「武力行使」にあたる。安倍首相は昨年8月の国会で「(「駆けつけ警護」において)国家または国家に準ずる組織が敵対するものとして登場してこないことは明らかでございまして」と述べて駆けつけ警護は9条に抵触しないと答弁したが、現実には政府軍に向かって武器を使わざるを得ないような状況が南スーダンでは十分、想定される。そもそも南スーダンへのPKO派遣自体が違法である疑いが濃厚なのである。

 憲法に反するこうした事態が起こり得ることを、日本政府が理解していないわけがない。安倍首相は憲法改正について国会で追及されるたびに「憲法審査会で議論すべき」とかわしてきたが、肝心の憲法審査会は参院が昨日、衆院はきょうになってようやく開かれた。なぜ、あれだけ「憲法審査会で」と何度も口にしていたにもかかわらず、なかなか再開されなかったのか。じつは、その裏には今回の駆けつけ警護の問題が絡んでいるのだという。

 憲法審査会は参院が今年2月から、衆院は昨年6月に参考人全員から「安保法制は違憲」という見解が示されて以降ストップした状態にあったが、「週刊新潮」(新潮社)11月3日号の記事によれば、再開にあたって野党は「中断した議論から始めよう」と主張。これに対し、与党筆頭幹事の中谷元前防衛相は一度は合意したというが、その後、与党が反故にした。そこには〈官邸の意向も働いていた〉という。記事中では政治部デスクがこんなコメントをしている。

「稲田防衛相は先だって南スーダンを視察しましたが、新安保法に基づく"駆けつけ警護"の任務を自衛隊に付与するかどうかを検討しています。仮に、審査会で安保法の議論となってしまい、同時に南スーダンで大きな武力衝突でも起きれば、また批判の嵐となる。そこで、官邸側も先手を打ったというわけです」

 批判の嵐どころか、実際には憲法違反の可能性が高まっている。だからこそ官邸は問題追及から逃れるために、憲法審査会の再開を駆けつけ警護の閣議決定後に設定した。そうとしか考えられない。

 15日の衆院安全保障委では、野党の要求で開示された南スーダンの治安状況にかんする「現地状況報告」が、項目欄以外はすべて黒塗りという"のり弁"状態だったことが判明した。「状況は落ち着いている」というのなら堂々と示せばいいだけなのに、それをしないのは「危なくて見せられない」という意味ではないのか。

 駆けつけ警護という危険な新任務を担わされて、いよいよ自衛隊員は戦闘状態の地域に向かう。以前にも指摘したが、この先に待ち受けている現実は、自衛隊員の"戦死"、そして外国の政府軍と日本の自衛隊が殺しあう戦後初の"戦闘"である。「もう決まったことだから」と諦めるのではなく、新安保関連法という異常な法律は必ず廃止にもち込まなくてはならない。
(編集部)