センターバックとしてサウジアラビア戦で先発出場した吉田麻也【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

サウジを翻弄したパススピード。CB陣からの縦パスが攻撃の起点に

 最終予選の山場となるサウジアラビア戦で2-1の勝利を収めた日本代表。原口元気や清武弘嗣ら攻撃陣が躍動した一戦だったが、センターバック陣が縦パスの意識を強め、ハイスピードのパスを供給していたことが勝因のひとつであった。センターバックが攻撃の起点となったことで攻撃の連続性が生まれるなど、日本代表は進化の兆しを見せていた。(取材・文:河治良幸)

----------

 サウジアラビアに2-1で勝利した日本代表は勝ち点を10とし、グループの2位で最終予選の前半戦を折り返すこととなった。

 UAEとの開幕戦に敗れ、10月のイラク戦では後半アディショナルタイムのゴールで薄氷の勝利を得るなど、ホームでも厳しい戦いを強いられてきたが、首位のサウジアラビア戦を「雰囲気を何とか変えたい」(原口元気)という思い通りの流れを手繰り寄せる結果となった。

 この試合の勝因をあげればヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「躊躇無く良い選手を選んでプレーさせた」と語る通り、実績にとらわれず思いきった選手起用を行ったこと、アウェイで堅実に戦ったオーストラリア戦とは一変し、高い位置からプレッシャーをかけてアグレッシブに攻撃人数をかけた戦い方など、いくつかの要因が挙げれる。

 そうした1つ1つの要素が噛み合う形で、いわゆるハイインテンシティな試合運びを実現した形だが、目を見張ったのはサウジアラビアのプレッシャーをも翻弄するパススピードと、それらを引き出す受け手の素早い動き出しだ。現在の目標はアジア最終予選を突破することであり、指揮官も最近はあまり口に出さなくなっているが、最終目標はその先にある。

「高いインテンシティでプレーするっていうのが監督の目標でもあるので、それに沿ったテンポでやらないといけない」

 そう語る吉田麻也は“イングランドで通用するようなボール”を心がけることでパススピードを上げ、それがチームにも影響するように意識しながらプレーしているようだ。そのスタンスでサイドチェンジやショートパスもそうだが、縦に付ける速いパスを織り交ぜることで、攻撃の流れを作ろうとしていた。

森重「トップ下にボールを入れることがプラスになる」

 その吉田とセンターバックでコンビを組む森重真人もハイテンポな流れの中でボールを動かしながら、機を見て縦に速いパスを通すことで高い位置に攻撃の起点を作ることを意識していた。

 この試合では1トップにキープ力の高い大迫勇也が起用されたことで、その手前にスペースが生じやすかったこともあるが、2列目の選手へのグラウンダーの速い縦パス、特にボランチを通り越してトップ下の清武弘嗣に付けるパスが効果的で、そこから原口や久保裕也の前向きな仕掛けも生まれた。

「あそこのポジションにうまくボールを入れることが自分たちのチームにとってプラスになると思います。(香川)真司だったりキヨ(清武)だったりが常にあそこで顔を出してくれるので、練習中からそういうのは狙っていっていましたし、常にキヨを見ながら今日は後ろでボールを回していました」

 そう振り返る森重は開始1分に鋭いグラウンダーのパスを大迫に付け、彼を追い越してボールを受けた清武のミドルシュートが生まれたが、そのシーンも大迫の手前にあったスペースに清武が顔を出し、彼のすぐ横を通ったボールが大迫につながったことで、素早く連動性のある仕掛けに結び付いた。

 そうした両センターバックの意識をサポートしたのが左右サイドバックの酒井宏樹と長友佑都、そして“もう1つのパスコース”を提供し、リズムを落とさないリターンパスをつなげたGKの西川周作だった。闇雲に縦パスを狙うのではなく、左右と後ろにボールを動かし、プレッシャーを分散させてから縦にズバッとボールを入れていく。

 これまでそうした緩急や幅を作り出すのはプレーメーカーと言われる中盤の役割だったが、ハリルホジッチ監督のチームでは主にDFラインがそれを担いながら効果的な縦パスを繰り出すことで、中盤から前の選手たちに加速力を生み出していく。

進化の兆しを見せたハリルジャパン。来年3月から最終予選の後半戦へ

 そうした方向性はこのチームの立ち上げ時から練習では見られ、しばしばハリルホジッチ監督もその手応えを語ってはいたが、ようやく試合のパフォーマンスに表れてきたことは、勝利に加えてポジティブに評価できる。

 高い位置でボールを奪い、そこからショートカウンターにつなげられれば高確率でチャンスにつながるが、それだけに頼るだけでなく、自分たちからチャンスを作り出していく。後方からの速いグラウンダーパスはそのベースになるものだ。

「あとはもっと高いインテンシティの中でミスを減らすこと。僕もミドルレンジからロングレンジのパスをうまく通せなかったですし、そういうところの確率をもっと上げていければ、もっといいサッカーできると思います」

 吉田は「目の前の敵を1つ1つつぶしていくことが一番大事」と強調しながらも、その先にある世界にもつながるチームの道筋をイメージしている様だ。そのパススピードに加え、攻守の切り替えや“デュエル”といったチームのスタンダードを徐々に引き上げながら、対戦相手に応じた戦い方で勝機を見出していくのがハリルホジッチ監督のスタイルだ。

「フットボールに関してはなかなかすぐには発展しないということです。多くの人はなかなか待てない。特にサポーターとメディアは早く結果がほしいと。何日かで色んなことがすぐに変わると思ってしまう人もいます。それもおそらく、期待に応えなければいけないとは思っています」

 昨年9月にテヘランで行われた二次予選のアフガニスタン戦を前に、アルジェリア代表で厳しい批判にさらされながらブラジルW杯でベスト16に勝ち上がり、世界王者となるドイツを最後まで苦しめた経験について質問した時にハリルホジッチ監督はそう回答していた。そして一度、樋渡通訳の言葉が終わるのを待って付け加えた。

「色んなところで批判が起きるのはノーマルだと思っています。全世界の代表監督というものはいつも批判されています。ただ、私はするべきことを分かっていますし、おそらく1年後、2年後、3年後にはまた別の話になっているのではと思います」

 その光りが少し射し込んできたが、まだまだ道半ばにある。来年3月に再開される最終予選の後半戦でどういったパフォーマンスを見せ、世界への扉に辿り着けるのか。まずは4ヶ月間、選手個々のクラブでの奮闘にかかっている。

(取材・文:河治良幸)

text by 河治良幸