モスバーガーの定番商品「モスバーガー」

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肉ブームでボリューミーなグルメバーガーが話題になる中、野菜重視でヘルシーなイメージが強いモスバーガー。業界2位の同社の商品戦略とは?

一般社団法人日本ハンバーグ・ハンバーガー協会の調べ(同協会加盟企業の集計値)では、2014年に生産量が突出して増えているものの、全体を見ると2008年から2015年にかけて下降している。特に2015年は、2013年の16万5412トンから15万5185トンへと、かなり減少している。店舗数も同様になだらかな下降を見せる。

そうした全体の傾向とは逆に、上昇のラインを辿っているのがモスフードサービスだ。全店売上高は微増しつつ、2014年に約979億円、2015年には約1043億円と伸びている。

同社は全国1358店舗のモスバーガー(モスカフェ、モスクラシック含む)を展開。そのうち1304店と、大部分がフランチャイズだ。1972年の設立当時に脱サラで店舗を始めた経営者たちは代替わり期を迎え、それに伴う課題も抱えている。一方で、紅茶専門店マザーリーフやパスタ専門店といった新業態の開発も進めているところだ。

■1.5倍量のハンバーグを挟んだ「とびきりハンバーグサンド」が好調

モスバーガーでキャッチーな商品として挙げられるのが、08年に誕生した「とびきりハンバーグサンド」。特徴は、同社の通常のパティの1.5倍量のハンバーグをサンドしたことだ。ハンバーグには、国産肉100%の豚・牛のあいびきを使用している。

「モスバーガーで通常パティに使用するお肉は牛100%なのですが、『とびきりハンバーグサンド』では、あえてあいびきにしています。ハンバーガーなら牛肉ですが、『ハンバーグ』を極める、ということになると、あいびきなんですよ」(モスフードサービス 太田恒有商品本部長)。

豚肉の脂肪は牛肉の脂肪より融点が低いため、口の中で溶けやすい。そのためよりさっぱり感じられると言える。パティの量を多くしても重くならず、女性の好みにも合う。

一番人気が定番商品の「モスバーガー」だが、「とびきり〜」はそれに次ぐ主力商品の位置にあり、発売以来、累計で約1億2600万食販売されている。シンプルなプレーンタイプでも410円と高めなのに、モスバーガー(370円)に次ぐ人気を得ているのは、かなりの健闘と言える。とびきりシリーズにはプレーンとチーズの2種類のほか、季節ごとに期間限定商品が発売される。この秋冬発売されるのは「国産ベーコン&チーズ」(540円、11月15日〜3月上旬まで)だ。実はベーコン系バーガーは昨年も、シリーズ最高重量・価格帯の「傑作ベーコン」「傑作ベーコンチーズ入り」(550円、580円)が発売されており、「食べごたえがあっておいしい」などと、SNS上でも話題となったようだ。外見にインパクトがあり、写真をSNS上にアップした際に見栄えがすることも、最近のヒット商品の特徴となっている。パティがバンズからはみ出している「とびきり〜」も、その点では条件にかなっている。

■20〜40代中心、女性が全体の6割

モスバーガーには、「ヘルシー」「野菜へのこだわり」「女性目線」というイメージが強い。実際、ISOに基づく独自の「モス食品安全基準」を定めて食材の管理徹底に力を入れるほか、手作りや国内産の新鮮な野菜にこだわった商品開発を行っている。

2014年夏から翌年初頭にかけて起こった日本マクドナルドの異物混入事件はチェーン全体、ひいてはハンバーガー業界全体の売上げに影響したと思われるが、モスフードサービスが逆に伸びているのは、そうした同社の姿勢が消費者の信頼を得た結果と見ることができる。

「モスバーガー」の主要購買層は20〜40代が中心で、女性が全体の6割を占めるという。さらにファミリーやシニア層にも目を向け、カロリー低減、減塩などの健康志向の商品の充実を図ってきている。

「創業者の櫻田慧が“医食同源”という考え方を大切にしていたことから始まり、安全はもちろん健康にも配慮した商品開発を進めています。健康への意識が高まるなか、今後もこの方針を積極的に進めていきます」(太田さん)。

■低カロリーで栄養価が高い商品が今後は求められる

その方針が強く表れている商品が、2008年より春夏の季節商品として発売された「モスの菜摘(なつみ)」である。バンズの代わりにレタスを使ったバーガーで、サラダ感覚のバーガーとして女性に人気だ。

炭水化物であるバンズを使わないという点で、最近の低糖質ダイエットを意識しているように思えるが、「糖質制限とは関係がない」(太田さん)という。

「生活習慣病の増加や超高齢化を背景に、今後求められるのは、低カロリーで栄養価が高い食べ物です。ファストフードでも対応していくことが必要となるでしょう」(太田さん)。「これまで2つハンバーガーを食べていたところを、1つを菜摘に置き換えるといった食べ方をしている方もいます」(広報担当 角田泰子さん)。

しかし女性客の比率が高いことからしても、実際には、ロカボダイエットのために利用しているという人も多いのではないだろうか。季節商品ということもあり「菜摘」の販売個数は明らかにされていないが、この11月15日から定番商品として通年メニューに組み込まれる。人気の高まりが背景にあることは間違いないだろう。

一方で、このところ例年起こっている、天候不順による野菜生産量の減少がレタスの仕入れに影響しており、「あまり大々的に宣伝できない。一部店舗のみになる可能性もある」(太田さん)とのことだ。

■野菜の安定供給、地産地消の取り組み

仕入れの面で言えば、モスバーガーでは野菜の安定供給を図るための取り組みも行っている。全国約3000軒の協力農家ネットワークに加え、各地にモスファームを設立している。モスファームは地域の企業や個人との共同出資方式による農業生産法人で、2006年の静岡県菊川市のケースを皮切りに、2015年までに6例ほど設立している。2015年4月に設立したのは、レタスの産地であるモスファーム信州(長野県小諸市)とモスファームマルミツ(熊本県)だ。

また一方で地産地消の取り組みも積極的に進めている。その一つが「モスの産直野菜フェスタ」だ。店長を始めとする、モス店舗の従業員が近隣の農家で野菜の収穫体験をし、その産地でとれた野菜を使用した期間限定商品を提供する。全国で年間20回前後行われており、客からは「新鮮な野菜が味わえる」「スタッフから勧めてもらうことで、より安心感がある」などと好評だという。

「食品の安全については、生産管理などによって企業で担保できる問題です。しかし“安心”はお客様自身に感じてもらうことなので、企業側でできることには限界があります。ですから、地域民でもあり、お客様と顔を合わせているスタッフ自身から体験に基づいて伝えることの重要性は非常に高いと考えています」(太田さん)。

地元の名物から地域ごとに新しいメニューを開発する取り組みも、2002年頃から行われている。2015年からは、各地域の名物や特産品をモチーフにアイデアを募集し、期間限定商品として全国展開しており、2商品で金額構成比10%程度を売り上げるほどのヒット商品となった。

■最大の課題は「フランチャイズ店舗の代替わりをどう乗り切るか」

フランチャイズでありながら、なぜこのような地域ごとの活動を組織的に企画できるのだろうか。実はモスバーガーの本社や店舗をまとめているのは「モスバーガー共栄会」である。チェーンの本部と店舗、店舗同士を結ぶコミュニケーション組織で、地域ごとに全国20の支部が存在する。このつながりは、産直フェスタやご当地メニュー開発などのほか、教育活動や情報交換などにも役立てられている。

「モスが全国に拡大する上で、ファストフードオペレーション、つまり最低限のマニュアルが果たす役割は大きかったでしょう。多様化が進み、外食産業も飽和状態にある今、同じフォーマットで続けていても生き残ることができません。選択肢があることが重要。そのために、地域に根ざしながら、食材、人材といった地域の財産を活用して全体で活性化を図って行きたいというのが今後の方針です」(太田さん)。

「安心・安全・健康」という地盤に根ざし、ブランド価値を形成していることや、地域の組織力を活用できる点など、堅実な企業体質が最近の業績にも表れてきているようだ。

「瞬発力がないのでブームには追いつけない」(太田さん)と自ら評価するように、メジャーさや派手さには欠けるが、底力のあるハンバーガーチェーンである。1972年創業のモスバーガーは、来年45周年を迎える。当面の大きな課題である「フランチャイズ店舗の代替わりをいかに乗り切るか」が、今後の成長の鍵を握る。

(文=圓岡志麻)