サウジ戦では幾度となく激しいアップダウンを繰り返した原口が、後半に待望の追加点をゲット。(C) SOCCER DIGEST

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 指揮官の志向を、明確に表現し切った一戦だった。
 
 選手たちは、前線から全力で疾走し、すべてのデュエルで身体を張って戦った。日本がボールを奪うとゴールへの最短ルートを探したのに対し、サウジアラビアは縦へのパスコースが見つけられず、最終ラインから大外ばかりをボールが廻る展開を模索するしかなかった。この間に日本はパスコースを限定し、インターセプトからカウンターに出るのだった。
 
「環境の差」が「準備の差」を凌駕した試合とも言えるかもしれない。ピッチに出た日本のフィールドプレイヤーは、森重真人以外誰もが欧州スタンダードを経験している。一方全員が国内でプレーするサウジは、代表として十分な活動期間を確保出来ているのが強みだった。結局日本の選手たちは、この夜のデュエルの烈しさを日常的な出来事として淡々と受け止めた。だが対照的にサウジ側は日常との落差に焦燥と苛立ちを隠せず、熱くなってカードを蓄積した。サウジのベルト・ファンマルバイク監督は「序盤のイエロー2枚が痛かった」と振り返ったが、この時点で異質のテンションに戸惑い、さらに主審のミスジャッジによるPK献上が拍車をかけた。
 
 もっともこうしたサウジの動揺を差し引いても、日本の危険地域への侵入を許さない集中した守備は冴え渡り、両CBはほとんど前を向いたまま対応出来ていた。90分以内で崩されかけたのは、25分右からSBのハッサン・ファラータがグラウンダーのクロスをファーサイドへと流し込み、ヤヒア・アルシェーリが走り込んだシーン1度だけ。後半はアディショナルタイムに入るまで、ペナルティエリア内に1度しか入らせていない。逆にサウジは、日本の攻撃の中核を担う清武弘嗣に自由な晴れ舞台を提供している状態で、守備組織の違いは歴然だった。日本代表は、オマーン戦を含めて1週間近い準備が出来たことでコンディションが整い、現状の順位や常連組がスタメンから外されるという緊迫感も、モチベーションと集中を高める一因になった。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、世界の中の立ち位置を意識したチーム作りをしている。ワールドカップに出場した場合に、強豪国を脅かすための方法論を探って来た。現実を見据えたという意味では、2010年南アフリカ・ワールドカップでの岡田武史采配に近い。一方で川崎の風間八宏監督や、アンダーカテゴリーで日本代表を指揮してきた吉武博文監督、さらには年代別カテゴリーも含めたなでしこジャパンなどが追求したのは、日本人の特性や可能性を引き出すことだった。どちらが正解という話でもないし、両者は水と油でもない。世界を渡り歩くハリルホジッチ監督が現実的な結果を最優先するのは当たり前だし、夢を追う後者もデュエルを軽視してきたわけではない。現実と夢をバランス良くブレンドすることも不可能ではないだろう。
 
 そしてだからこそ日本協会は、ぶれない指針を示す必要がある。南ア大会を終えた時に、当時の原博実技術委員長は「さらに上を目指すために」軌道修正を図ったのだ。その時点の判断と現状に齟齬はないのか。せめて監督任命者は、結末を見届け検証を終えてから去る流れを作らなければ、責任の所在が曖昧な都庁の体質を笑えない。
 
 サウジはプレッシングが効きやすい相手だった。反面日本は、アディショナルタイムに入り割り切ってゴールへと迫るプレーに直面すると、一転して混乱に陥った。シンプルな攻撃への対応と心身のスタミナに課題が見え、そこが後半戦に控える中東での3戦への不安を残す。
 
 例えば原口元気は、まるで5バックのように長友佑都の外堀を埋め、再び前線へとスプリントを繰り返した。後半には最後尾で守備をした原口がブーメランのように最前線へと走り出し、長谷部誠がスルーパスを出すシーンがあったが、さすがに力尽きていた。闘いの強調が落ち着いた支配を削ぐことになっては本末転倒だ。「もっと冷静に決めなければ」と、ハリルホジッチ監督は言った。だが特に中東では、決める体力を残す効率的な戦い方も検討材料になる。いずれにしても再開直後のUAEとのアウェーが、今後の命運を大きく左右するはずである。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)