トランプ氏のマスクを製造する埼玉の業者(写真:AP/アフロ)

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 トランプ米大統領の登場には、できるだけ正しく身構えたいものだ。そのためには、まず、トランプ氏に投票した支持層をよく理解したい。次に、ビジネス界出身というイメージに過度に影響を受けないように気をつけたい。

●アメリカの田舎のトランプ支持層を理解

 トランプ氏本人に対する個人的趣味嗜好よりも、投票者の47%のトランプ支持者を正しく理解することのほうが重要だ。なんといっても、アメリカを動かしているのは、アメリカの世論だからだ。そしてほとんどの日本人は、そのアメリカの世論の動きをよく理解していなかったことが、この選挙結果でよくわかった。

 トランプへの投票が多かった選挙区をみてみよう。下図は、州ごとに共和党が勝った「レッド州」と、民主党の勝った「ブルー州」とに分けた、よく目にする図とは少し違う。州よりもっと狭い郡(カウンティ―)ごとに分け、共和党(レッド)と民主党(ブルー)のどちらが得票数が多かったかで塗り分けている。

 この図をみると歴然としているように、田舎でトランプ、都市でクリントンが得票している。この傾向は、その州全体でトランプが勝った「レッド州」か、クリントンが勝った「ブルー州」かにかかわらずみてとれる。つまり、トランプ支持層は「田舎の人たち」なのである。

 今回の大統領選前後に日本のメディアに登場する評論家で、赤く色づけされたトランプ支持の田舎の郡に住んだことのある人は、どれだけいるのだろうか。もう少し基準を緩めて、アメリカ中西部・南部の共和党支持基盤(レッド州)の都会に住んだことのある人も少ないだろう。まさにトランプが攻撃しているシリコンバレー、ニューヨーク、ワシントンのアメリカ人しか知らない人がほとんどだ。だから、数人の例外を除いて評論家の語るトランプ支持層の像は、いかにもアメリカのエリート新聞の受け売りで、自分の実体験の裏付けのない薄っぺらなものに聞こえた。

 私は1990年代初めにテキサスの田舎に9カ月住んでいたことがある。ビルの4階に上がると、地平線がみえるような田舎だ。キツツキのような古びたオイルリグが、荒野に点々と地平線の彼方まで続く。道路サイドのハンバーガーショップでコーラを飲んでいると、子供が珍しい東洋人の私の顔を覗き込みに来る。

 私は、地元の言葉もよく理解できず、溶け込むことはできなかったし、今回のトランプ支持層にも直接会ってみたわけではない。しかし、トランプ支持の人たち(念のために繰り返すが、トランプ本人ではない)、即ちアメリカの田舎の人たちについて、少なくとも次のようなことだけは言えるように思う。

・メディアで批判的に報道されているほど、「愚か」ではない。アメリカの投票者の47%が「愚か」というのはあり得ない。
・トランプのメディアでのイメージと正反対で、「いい人」たちである。
・トランプの説明と同様に、「シンプルに判断」する。

 日本人でトランプ支持の郡に住んだことがあるのは、自動車などの工場の進出に伴い駐在したことのある技術者などの会社員だろう。ぜひ、こういう人たちが現地の雰囲気を伝えてくれたらと思う。

 いずれにしても、トランプに投票した人を非難してもなんのメリットもない。そういう人を理解することが、最初にするべきことだろう。

●ビジネスマンとしてのイメージに引きずられない
 
 トランプ報道で気になるのは、メディアの論客の多くが「トランプさんはビジネスマンだから、大統領に就任すれば選挙戦で言っていたことを変えるに違いない」と説明していることだ。それはトランプがメディアの人だからで、ビジネスマンゆえではないだろう。ビジネスマンがバカにされているようで、どうもひっかかる。

 ビジネスパーソンは信用が第一、約束を違えてはいけない。ビジネスの交渉でも、一貫性があって軸がぶれないと「凄み」が出て強い。同じ条件下なのにころころと言うことを変える輩は、相手にされない。よいビジネスパーソンが素早く対応を変えるのは、状況が変わった時だ。

「大統領になったら」という条件が同じなのに、「これをする」という行動が、以前に約束していたことと違うというのでは、よいビジネスパーソンのやり方とはいえない。確かに、トランプ氏は言っていた通りには実行しないとは、私も予想する。それは、一流のメディアの利用者であり、もはや政治家になったという証であって、決してビジネスパーソンゆえではない。

 その意味で、トランプ氏の行動をやみくもに「ビジネスパーソンだから」と根拠づけようとすると、間違いをおかすだろう。
(文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者)