日立の樹(「Wikipedia」より)

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 10月5日の東京株式市場。日立製作所株は502.4円と前日終値比6.4%上昇。その後も値上がりが続き、11月7日には一時550.7円と4月28日以来の水準まで買われた。日立工機株も4日の終値の739円から11月7日には921円の年初来の高値まで上げた。日立国際電気株も11月7日に一時、2190円となり10年来の高値を記録した。

 日立製作所が日立工機と日立国際電気の半導体製造装置事業を売却すると伝わり、3社の株価が揃って上昇したことになる。

 巨艦・日立の選択と集中の姿勢が明確になり、自己資本利益率(ROE)や総資産利益率(ROA)を押し上げる効果を期待した買い物が入った。

●時価総額は日立工機が1000億円、日立国際電気が2000億円

 日立製作所は社会インフラやIT(情報技術)関連に経営資源を集中する。相乗効果が薄いと判断した事業を連結決算から切り離す。事業の選択と集中を進め収益力を高めるのが狙いだ。

 売却を検討しているのは工具事業を手がける日立工機と、日立国際電気の半導体製造装置事業。いずれも東証一部上場企業で日立製作所の連結子会社だ。

 日立工機は建設現場などで使う電動工具が主力で、2016年3月期の連結売上高は1415億円、純利益は10億円。今年3月にドイツの大手工具メーカー、メタボ社を買収し、海外展開を加速している。

 日立製作所が発行済み株式の33.1%を握る。日立工機が持つ自社株が17.6%、日立アーバンインベストメントが8.9%。グループ全体で59.6%を保有する。入札方式で17年前半までに売却を目指す。売却報道後、日立工機の株価は上昇。時価総額は1000億円を上回った。売却額は600億円に達する見込みだ。米投資ファンドのカーライル・グループなどが取得に意欲を示していると報じられている。

 日立国際電気はシリコンウェハー(半導体素子製造の材料のひとつ)の表面に膜を形成する装置に強く、放送・通信設備や産業用カメラも手がける。16年3月期の連結売上高は1807億円、純利益は129億円。日立製作所が発行済み株式の50.4%を保有している。

 市場に流通する残りの全株をTOB(株式公開買い付け)で日立製作所がいったん取得した上で、半導体製造装置部門を売却する案があると報じられた。TOB期待で株価は上昇し、時価総額は2000億円を超えた。日立が保有株の一部を、半導体製造装置事業を買収する事業会社に売却する案も検討されている。
 
●物流はSGHDに、金融はMUFGに売却

 日立製作所は、今期に入って事業の選択と集中を加速させた。

 物流分野で佐川急便を傘下に持つSGホールディングス(HD)と資本・業務提携した。今年5月、SGHDに、日立製作所が保有する物流子会社、日立物流の株式のうちの半分近くを売却した。日立物流の16年3月期の売上高は6803億円、純利益は140億円。3PL(物流の一括請負)では国内首位。SGHDとの提携で3PLと宅配のシナジー効果を期待しており、近い将来、日立物流と佐川急便の統合もあり得るとしている。

 日立物流の株式の売却額は875億円。日立物流に対する日立の議決権比率は59%から30%に下がり、連結子会社から持ち分法適用会社となった。日立は第1四半期(4〜6月)決算に売却益860億円を特別利益として計上した。

 金融分野では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と資本・業務提携。MUFGに保有している日立キャピタル株式の約半分を売却した。日立キャピタルは日立グループの金融の中核会社だ。16年3月期の営業収益は3653億円、純利益は326億円。中国・アジアなどの海外事業拡大に積極的だ。

 日立製作所は、議決権ベースで60.6%保有する日立キャピタル株のうち23.0%をMUFGに、4.2%を三菱UFJリースにそれぞれ売却した。日立製作所が持つ議決権比率は33.4%となり、連結子会社から持ち分法適用会社に変わった。

 10月3日に売却手続きは完了した。売却額は1081億円。売却益987億円を特別利益として日立は計上する。将来的には、日立キャピタルと三菱UFJリースが経営統合に進むことになる。

●新中期経営計画は純利益4000億円超

 日立製作所は国内重電のなかで「勝ち組」とされるが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスなど欧米のライバルと比べると収益力はまだまだ低い。

 16年3月期は中期経営計画(13年4月〜16年3月)の最終年度だったが、計画は未達に終わった。達成したのは売上高10兆円(16年3月期10兆343億円)のみ。7%超を掲げた営業利益率は6.3%止まりで、3500億円超を目指した純利益は1721億円と半分以下だった。

 17年3月期から19年3月期までの新しい中期経営計画の売上高は、再び10兆円。営業利益率は8%超、純利益は4000億円超という目標を設定した。

 日立物流と日立キャピタルが持ち分法適用会社になるため、売上高は1兆円減少する。日立工機と日立国際電気を連結決算から切り離すと、さらに3000億円超の売り上げが目減りする。

 M&A(合併・買収)と事業拡大で10兆円を維持する考えだ。営業利益率は欧州の鉄道事業や昇降機事業の伸びを見込んでいる。

 営業利益率を引き上げ、世界市場で戦える収益基盤を確立する。そのカギを握る指標がROAの向上。16年3月期の2.6%から5%超を目指す。

 東原敏昭社長は、東芝、三菱重工業と調整している原子力発電の燃料事業の統合に関連し「(原発事業)全体を考えなければならない時期が来る」と述べ、将来的に原発事業自体を統合する可能性を示唆した。「ビジネスをしている以上、いつまでも不採算な状況というのは成り立たない」と踏み込んだ。

 日立製作所の選択と集中が成果を上げれば、15年1月の高値922.9円の奪還が視野に入ってくる。4ケタ(1000円台)に乗せることもあり得る。
(文=編集部)