後半開始から出場した本田は、攻撃のリズムを明らかに変えた。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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[ロシアW杯アジア最終予選]日本 2-1 サウジアラビア/11月15日/埼玉

 アジア最終予選、ホームのサウジアラビア戦。日本代表がハイプレッシングとスピードあるカウンターで攻め立てる前半に、本田圭佑の居場所はなかった。
 
 素早くボールを奪い、縦へ、縦へ。アグレッシブに仕掛ける。ミスも多かったが、サウジアラビアの間延びしたディフェンスをひたすら崩して行く。

 この攻撃に「なぜ、下げるんだ!」「なぜ、打たないんだ!」というストレスは、ほとんど感じなかった。唯一、初招集で抜てきされた久保裕也には少し感じたが、この短い準備期間を考えれば、仕方がない。
 
 そして、1-0で日本代表がリードして迎えたハーフタイム。ハリルホジッチは久保に代えて、本田圭佑を投入した。
 
 コンディションの良い選手を集めたとはいえ、あのハイペースの前半が、90分も持つはずがない。後半は一転、ファーストディフェンスの位置を下げ、4-4-2でサウジアラビアを待ち構え、試合のペースを落としてコントロールする戦術に切り替えた。ゲームプランが明確なハリルホジッチらしい采配だ。
 
 さらに64分、清武弘嗣に代えて香川真司を投入。かつての中心メンバーが、逃げ切り要員として起用されていく。この試合、ハリルホジッチはふたつのチームを用意した。相手を激しく攻め立てる前半のチームと、試合を落ち着いてコントロールする後半のチーム。この2面性が、サウジアラビア戦では重要だった。
 
 象徴的なシーンは、80分に決まった原口元気のゴール。日本の2点目のシーンだ。
 
 中央でボールを持った本田に対し、山口蛍が勢い良く、裏のスペースへ駆け抜けた。オマーン戦でも見られた、長駆の飛び出しだ。
 
 しかし、本田はパスを出さない。なぜ、出さないんだ!と誰もが思っただろう。本田は足を止め、近くにいた原口にボールを渡して、左サイドへ。こうなると、いかに切り替えが遅いサウジアラビアでも、さすがに帰陣してくる。日本のカウンターチャンスは、潰えた。前半のハイリズムに慣れた観客からは「えぇー!」とも「あー…」とも聞こえる、ガッカリ感が伝わってきた。
 ところが、チャンスは終わっていない。原口からボールを受けた長友佑都が、本田とのパス交換から、裏のスペースへ飛び出す。本田のワンタッチパスを受けると、サイドを深く崩して中央へ折り返し、ニアサイドの香川を経由。最後は原口がシュートをねじ込んだ。
 
 後になって、このシーンを見返すと、最初の山口の長い飛び出しは、サウジアラビアのDFに対応されている。本田が無理にスルーパスを出しても、山口がそこを突破するのは難しかっただろう。カウンターをやめて、攻撃をスローダウンさせた判断は、実は正しい。
 
 付け加えるなら、後半のゲームプランは、試合をコントロールすること。むやみにボールを失ってはならない。このスルーパスをやめた判断には、本田の経験が生きている。
 
 そして、もうひとつ。
 
 駆け抜ける長友へ出したパスも、巧みな駆け引きがあった。本田は長友からのパスを足下に止めるふりをしたが、しかし、身体の正面では止めず、ボールを左半身へ流した。そして、左足を伸ばしてワンタッチパス。たった1歩分のスルーである。しかし、この小さなフェイントが、寄せてくるサウジアラビアのDFをずらし、縦のコースを作り出した。そこへワンタッチでスルーパスを通す。絶妙な駆け引きだった。
 
 速さと、質。速さはよく見えるが、質は見えにくい。
 
 たしかに、投入直後の本田のプレーは、危なっかしいものだった。前半のゲームプランに居場所がないのも明らかだ。しかし、後半のゲームプランについては、本田でなければならない“質”が生きたのも事実である。定位置はなくなったが、カメレオン采配の下、これからも本田の力は必要になるはず。
 
 新しい日本代表の時代が、確実に動き始めている。これでザックジャパン以降、どんな相手、どんな試合展開でも、必ず出場を続けているのは吉田麻也くらいだ。いつ、誰が出てもおかしくない。そんな雰囲気に包まれている。
 
 最終予選は来年3月に行われるアウェーのUAE戦まで、少し間が空く。このポジティブな競争ムードで、それぞれがクラブに戻れば、空白の4か月が中身の濃いものになるのは想像に難くない。
 
 実に得るものが多い、サウジアラビア戦だった。勝ったから、そんなことが言える。
 
文:清水英斗(サッカーライター)