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●なぜ男性は妊活に協力できないのか
"妊活"という言葉が広く認知されてきた現代でも、「いつから」「どうやって」というところまで理解している人はまだ少ないのではないだろうか。そこで今回、自身も不妊治療を経験した産婦人科医の田口早桐先生に、妊活・不妊治療を始める前に知っておきたいことをうかがった。

○女性と男性は逆に向かってしまう

―実際に妊活・不妊治療をしている人々と接していて、「このことはちゃんと分かっていてほしいな」と思うようなことはありますか。

田口先生:妊活は子供をつくることが目的。男性と女性による生殖です。もちろん、カップルの合意があって行われるものですが、ふたりでぴったり呼吸を合わせて妊活を行うのは難しいことも多いです。

当たり前ではありますが、医療介入のない妊活だと性交渉しかありません。それも、排卵日に性交渉をするということです。ただ、このことが男性にとってはだんだんと苦痛になってくることが多いのも事実。男性は禁止されればされるほどしたくなるもの。そういう性(さが)なんです。ですが、妊活となると性交渉を"しなければ"いけなくなります。「義務になるとできなくなった」という話もよく聞きます。

そのため、妊活に関して言うと、女性と男性は逆に向かってしまいがちです。女性がやる気満々なのに男性がその気にならないなどです。「今日は排卵日で、せっかくのチャンスだったのにできなかった」と落ち込む女性もいますが、相手を責めても仕方がないです。

―では実際、どうしたらいいんでしょうか。

田口先生:女性も男性がそうした性であることを理解した上で、うまくコントロールすることが必要になります。また、排卵日と決めて構えるよりも、生理が終わった翌日からでも、できる日にできるだけ性交渉をもつことが大切です。ある意味、妊活は最初の数カ月が勝負だと思います。

―妊活をするにあたり、例えば基礎体温を毎日測るとか、食生活を改めるとか、不妊治療のクリニックを訪れる前に、自分で日常的にできることはありますでしょうか。

田口先生:まずは女性に関してですが、排卵日を把握することは大事です。基礎体温や排卵チェッカーなどを使って大体の目安をつけるといいでしょう。また、特定の食品を摂取したからといって、妊娠率が高まるということはないです。ごく常識的な生活をしてください。コーヒーを1日6杯以上飲むと妊孕性(にんようせい: 妊娠のしやすさ)に影響が出ると言われていますが、1日2〜3杯くらいでは問題ないです。お酒も適量を心がけてください。

○「喫煙・肥満・加齢」が3大リスク

田口先生:不規則な睡眠もリスクファクターのひとつと考えられていますが、はっきりとした数字は出ていません。例えば、日中が逆転していても睡眠時間を確保していればいいのか、ということに関しても分かっていません。ですが、マウスなどの実験では睡眠のトラブルで不妊になることがあるとされています。

睡眠をつかさどるホルモン「メラトニン」や、妊娠や出産に深く関係しているホルモン「プロラクチン」などは、脳の中で同じところに集まっています。プロラクチンが上がると排卵が止まることもあります。そのため、睡眠が不規則になるとホルモンの分泌に影響ができのではと考えられています。

ただ、喫煙は明確に影響があるとされています。肥満も、卵巣の機能が低下する、排卵が不規則になるという影響があります。基準になるのはBMIですが、BMIは18.5以上・25未満がベストで、低体重でも肥満でも影響します。最近では肥満よりも痩せ過ぎなことが、不妊に影響している人が多いように感じています。

喫煙・肥満以上に関係しているのは加齢です。加齢によって影響が出るのは卵子の問題で、子宮や羊水は年をとらないと考えてもいいでしょう。その境は30歳なのか35歳なのかは意見が分かれるかと思いますが、卵子の質は低下します。質の低下というのは、まず染色体異常が起こりやすくなることと、卵子の細胞質、特にミトコンドリアの機能が低下する、平たく言えば元気がなくなることです。

○加齢が影響するのは卵子のみ

―子宮や羊水には加齢の影響がないのであれば、生理が止まっていても妊娠できるのでしょうか。

田口先生:妊娠します。内膜がはがれるのが生理ですが、「エストロゲン」というホルモンの作用で内膜が厚くなり、「プロゲステロン」というホルモンで内膜を支えています。そうした作用を薬を飲んで実行すれば、子宮は妊娠できる環境となります。

―卵子の状態を維持できるなら、何歳になっても妊娠できると言えるのでしょうか。

田口先生:卵子凍結や体外受精という手段を使えばでき、48歳でも49歳でも妊娠する人はいます。ただ、妊娠すると循環血液量が1.5倍になり、身体全体への大きな負担になります。そもそも、加齢によって高血圧などのリスクが高まるため、妊娠継続に支障をきたす場合もありえます。そうしたことを考えると、妊娠は50歳くらいまでがひとつの限度になるのではないでしょうか。

―女性の場合、「喫煙・肥満・加齢」が妊孕性に影響するとのことですが、男性の場合も同じなんでしょうか。

●自然に妊娠できる年齢と不妊治療で妊娠できる年齢
○男性は努力しようがない

田口先生:男性も基本的に同じく喫煙・肥満・加齢で影響が出ますが、女性よりも直接的な影響は少ないです。逆に言うと、男性は努力しようがない、とも言えるでしょう。ただ、妊活という意味では性交渉をしなければいけないので、性交渉ができるかという問題はありますが。

田口先生:加齢に関しても、女性ほど如実な影響はなく、女性のように何歳からというような具体的な年齢もありません。ただ、精子も年齢ともに少しずつ質は低下します。精子は頭部には遺伝子が詰まっていますが、加齢とともにDNAフラグメンテーション(DNA断片化)が起こり、精子の異常が増えます。

一般的に、精子の数が少ないと質も低いケースが多いです。精子は検査をすることはできますが、一般的な検査では数と運動率(動いている精子)しかでませんので、質まで知りたい場合はもう少し特殊な検査になります。ちなみにですが、精子はつくられるのに何カ月もかかるので、精子の状態を反映しているのは2〜3カ月前の自分の体調です。検査結果を知って、「昨日深酒をしたから」という人もいますが、それは関係ありません。

―先ほど、医療介入すれば妊娠可能な年齢を延長することができるという話がありましたが、妊活そのものは何歳くらいから始めればいいんでしょうか。

田口先生:逆算しながら数値化してみるといいでしょう。例えばですが、東大に行きたいと思った場合、いつから勉強を始めるのかということを考えてみましょう。本当に東大に行きたかったら、中1,2くらいから意識して取り組む必要があるのではないですか。妊活で言うと、例えば子どもが3人ほしいと思った場合、何歳から妊活が必要になるかということを考えるといいと思います。授乳期間なども考えると、やっぱり20代の内から行動する必要があります。

○20代は18%、35歳は9%、40歳は5%

―実際、自然に妊娠できる年齢は何歳くらいなんでしょうか。

田口先生:正確な年齢は分かりませんが、文化や宗教的な理由で避妊をしない人々が最後に妊娠する年齢は41歳ぐらいとされています。もちろん、41歳を過ぎたら妊娠できないわけではなく、あくまでも平均です。

20代で排卵日に性交渉をもった場合、妊娠する確率は20%と言われています。年齢を重ねれば重ねるほど、確率はもっと低くなります。マウスの場合は100%妊娠することを考えると、人間はもともと不妊の生きものだと思った方がいいです。1個排卵した卵子が赤ちゃんになる確率で言うと、20代の場合は18%くらい、35歳の場合は9%くらい、40歳の場合は5%と考えられています。

―このタイミングだったら不妊治療のクリニックに行った方がいい、というタイミングはありますか。

田口先生:先ほど述べた9%や5%にかけるのか、という話になると思うのですが、医療的な介入が必要になるのは35歳を過ぎたあたりだと思っています。ですが、特に年齢によらず、「子どもが欲しいな」と思ったり「妊活しよう」と思ったりした時に、まず一度行けばいいと思います。結婚してすぐでもいいです。「結婚してこれから子どもをつくろうと思っているんだけど、何か問題はありますか」という、婦人科的な一般的な検査を受けてみればいいと思います。大きい筋腫があるとか、卵巣腫瘍があるとかという大まかなことですね。

そもそも、不妊"治療"という言葉がよくないですよね。「病気だから治療」と思わない方がいいです。「あなた、不妊治療が必要ですよ」とは誰も言ってくれません。自分で行くしかないんです。不妊治療は妊娠するための"手段"だと思ってください。治療と考えるとハードルが高くなると思いますが、まずは排卵検査薬を買いに行く感覚でクリニックを訪れたらいいと思います。

―不妊治療のクリニックでは、婦人科で行っているような一般的な検査にも対応しているんですね。では、実際に不妊治療となるとどんなことをするのでしょうか。

●不妊治療は3つしかない--ひとつは自分でできること
○不妊治療は3ステップ

田口先生:不妊治療は3つしかないです。「タイミング法」「人工授精」「体外受精」です。タイミング法は排卵日に性交渉をもちましょう、というだけなので自分ででもできます。そのため、ハードルとしてはそれほど高くないと思います。それでも妊娠できなかったらステップアップするか、という選択になります。最近では、ひとり目は自然に妊娠したけれど、なかなかふたり目ができないということで、不妊治療をされる方もいます。

田口先生:人工授精は子宮の中に精子を入れるだけで、その先は何が起こっているかは分かりません。体外受精は受精して分割が進んだ段階で子宮に着床させるので、妊娠率が全然違ってきます。もちろん、体外受精になればかなり高額にはなりますが、年齢とともに妊娠率が確実に低下することを考えると、早めにステップアップした方がいいことも多いです。検査で異常なく、自然にできる可能性があるとなると先延ばしになりやすいですが、そこは割り切ることが必要でしょう。

―不妊治療のクリニックを訪れる人は女性だけ、パートナーと一緒、男性だけ、どのケースが多いでしょうか。

田口先生:基本的に女性だけということが多いですが、精子検査の場合は、男性に訪問をうながすことになりますね。ただし、その検査を拒否する男性は多いです。「もし精子がなかったら」と考えると、アイデンティティーが脅かされると感じる方も少なくないです。現代では、スマホのアプリで精子検査をすることもできるようなので、まずはそれを試してみるのもいいでしょうね。

―不妊治療のクリニックでも、婦人科で行っているような一般的な検査にも対応してとのことですが、例えば子宮筋腫があると言われた場合、筋腫を摘出すると妊孕性にも影響するんでしょうか。

田口先生:子宮筋腫がある人は筋腫の芽になるものをもっているので、単発でできることは少なく、複数あることが多いです。筋腫がある場所と大きさによっては妊娠しにくい人もいますので摘出することが必要になりますが、だからと言って妊娠ができないというわけではないです。

子宮筋腫にしろ子宮内膜症にしろ、何かしら婦人科的な疾患があった場合、婦人科では妊孕性までサポートしてくれないこともあると思います。婦人科の先生と不妊治療の先生では考え方が違うことも多いです。病気を治し再発を食い止めるのことが婦人科の役割ですが、再発してもできるだけ妊孕性を残すことが不妊治療の役割です。婦人科に行く時は、妊娠を希望していることを伝えるようにしましょう。

○平均初産が30歳を超えている今、考えるべきこと

―いろいろなライフスタイルがある現代社会において、「いつかは妊娠したいけれど今はその時ではないのでは」と悩んでいる人も多いと思います。そうした人々に何かアドバイスをするとしたらどんなことでしょうか。

田口先生:現代では、妊娠がなかなかできない年齢で結婚する人も少なくないですよね。先ほど、1個排卵した卵子が赤ちゃんになる確率を、20代の場合は18%くらい、35歳の場合は9%くらい、40歳の場合は5%と言いましたが、平均初産年齢が30歳を超えている現状は、そうした人間のつくりにあっていません。なら、10代〜20代前半で子どもをうむ、ということができるかというと、それも難しいのが現状です。

例えばですが、これだけ医療が発達している時代ですので、受精卵を凍結させておいてから自然での妊娠を考える、結婚をしていない人でも卵子凍結をする、という"保険"もひとつの考えだと思います。妊活は気合いだけでできることではないですし、パートナーとうまくコミュニケーションをしていくことが欠かせません。自分が今後、どのような人生を歩んで生きたいのかをよく考え、いろんな方法を考えてみるといいと思います。

※写真はイメージで本文とは関係ありません

○プロフィール: 田口早桐

産婦人科医。生殖医療専門医。1965年大阪市生まれ。1990年川崎医科大学卒業後、兵庫医科大学大学院にて、抗精子抗体による不妊症について研究。兵庫医科大学病院、府中病院を経て、大阪・東京で展開する「医療法人オーク会」にて、不妊治療を専門に診療にあたっている。国際学術誌への投稿、国内外学会での研究発表を数多く行う。近著に『ポジティブ妊活7つのルール』(主婦の友社)あり。

(新田みつる)