【コラム】首位サウジとの埼スタ決戦…ハリルジャパンに求められる「勝利への5カ条」とは?

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 ハリルジャパンの命運を左右するといっても過言ではない大一番のキックオフが、いよいよ今晩に迫った。グループBの首位を走るサウジアラビア代表を埼玉スタジアム2002に迎える、2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選第5節。歓喜の雄叫びを日本中で共有するために――。ハリルジャパンに求められる「勝利への5カ条」を攻撃で2つ、守備、メンタル、そしてヴァイッド・ハリルホジッチ監督の采配からそれぞれ探った。

【その1・攻撃:距離感】

 数多くあるフォーメーションのなかで、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が昨年3月の就任時から[4−2−3−1]を基本に据えてきたのはなぜなのか。今回の招集メンバーの中では最多となる「105」のキャップを振り返りながら、FW岡崎慎司(レスター)はユニークな持論を展開してくれた。

「このチームには良い選手がトップ下のポジションにいて、そのトップ下の選手にボールが入ったときに、1トップが点を取るチャンスが生まれることが多い。その意味で、このチームの基本は“1トップにトップ下”だと思う」

 最終ラインを4バックにして、ボランチを2枚置いたうえでトップ下の選手を配置すると、おのずと[4−2−3−1]が最もバランスの取れたフォーメーションとなる。

 今回のメンバーでトップ下を務めることができるのはMF香川真司(ドルトムント)と、11日の「キリンチャレンジカップ 2016」オマーン代表戦で1ゴール2アシストをマークしたMF清武弘嗣(セビージャ)だ。そして、岡崎がプレーしてきた歴代の日本代表をおいても、岡田ジャパンでMF中村俊輔(現・横浜F・マリノス)、ザックジャパンではFW本田圭佑(ミラン)が「俺の庭」と公言してはばからないほど、強烈な存在感を放ってきた。

 秀逸なトップ下を輩出してきた歴史が、同時に1トップを導いてきた。ハリルホジッチ監督はオマーン代表戦の前に、1トップで先発させたFW大迫勇也(ケルン)の「なるべく近くにいるように」と、清武に対して指示を送っている。縦関係になる2人が間近でプレーすれば、正確かつ素早いコンビネーションを構築できるからだ。

 サウジアラビア代表戦で先発が予想される大迫は、前線のオールラウンダーとしての器用な一面を封印。「真ん中でボールをもらうことが一番の仕事」と点取り屋だけに徹し、再びトップ下を務めることが濃厚な清武との「距離感」をゴールへのキーワードにあげている。

【その2・攻撃:緩急】

 ハリルホジッチ監督は就任以来、「ボールを奪ったら縦に素早く攻める」ことを基本コンセプトに据えてきた。ポゼッションが重視されたザックジャパン時代からの急激な方針転換となるが、縦一辺倒の攻撃では相手に脅威を与えることはできない。さらに、強引な縦パスによる不用意なボールロストと、そこから発動されるカウンターで逆にピンチを招きかねない。

 求められるのは、日本が得意としてきた「細かいパスをつなぐ」スタイルとの融合だ。オマーン代表戦から一夜明けた12日、27歳の誕生日を迎えた清武は打倒・サウジアラビアへ向けてこんな青写真を思い描いていた。

「急ぎすぎることなく、もっとメリハリをもってやれればいいかなと。速攻と遅攻を考えながら、ですね。速攻からカウンターがハマる時はハマりますけど、試合の状況によって『もうちょっと遅らせよう』という時間帯もあると思うので」

 本田がオマーン代表戦を前にして「ちょっと試したいことがある」と公言していたのも、指揮官から口を酸っぱくして求められてきた「急」に、実際にピッチ上でプレーする選手たちが感性をシンクロさせて、ポジションを流動的に変更しながら「緩」を織り交ぜることだった。

 果たして、42分に生まれた大迫の2ゴール目は、右サイドに開いた清武がMF山口蛍(セレッソ大阪)と細かくパスを交換。山口が中に絞っていた本田へパスを預ける間に、清武が大きな弧を描きながら左方向へ本田を追い越してスライドし、タメを作った本田からのパスをワンタッチで前線の大迫へ供給したプレーから生まれている。

「正直、日本代表はボールを持てる選手も、ゲームを作れる選手もたくさんいるので。そういう選手たちがゲームを読む力を、もっと試合の中で出していけばいいのかなと。本当に試合が始まってから終わるまで、僕たちが主導権を握れる試合がしたいと思っています」

“究極の試合運び”を実現させるための第一歩が、選手たちの判断のもとで攻撃に緩急をつけていく作業になる。

【その3・守備:融合】

 万が一の事態を想定して、ポジションを取っておく。特に守備陣に対して求められる「リスクマネジメント」の考え方のベースにあるものを、DF吉田麻也(サウサンプトン)は「日本人は『こうじゃなかった場合にどうしよう』と必ず考える」と説明する。

 一方で、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴヴィナで生まれ育ち、現役時代を含めてフランスでの生活が長いハリルホジッチ監督は、吉田によれば「まず“こうしなきゃいけない”と考える。そこが日本人とヨーロッパの人の考え方で非常に異なるところですね」という。

 守備において指揮官がまず求めるのが、フランス語で「決闘」を意味する『デュエル』となる。例えば日本の前線の選手がボールを失った時、2列目の選手やボランチがすぐに『デュエル』を発動させて、ボールを奪い返せばピンチを未然に封じ込めるどころか、速攻を仕掛けるチャンスが生まれる。

 もしファウルを取られても、試合の流れを一時的に止めることができる点で、日本にとって好ましい展開となる。これが「一の矢」となるプレスをかわされた時に、その事態を想定していなかったらどうなるか。思い起こされるのは日本がまさかの苦杯をなめ、最終予選で出遅れるきっかけとなった9月1日のUAE(アラブ首長国連邦)代表との初戦。不用意なボールロストからカウンターを食らい、最後はゴール前で吉田がファウルで止めたシーンだ。

 吉田がイエローカードを提示されたこのプレーで与えた直接FKを決められて同点とされると、流れは一気にUAE代表へと傾いた。胸中に募らせた悔しさを糧にしながら、吉田は指揮官から求められる「無駄なファウルを与えない守備」への第一歩を、日本人とヨーロッパ人の意識の「融合」に求めている。

「チームとしてまず目標にしなきゃいけないのが、デュエルに負けないこと。監督が言っていることはもちろん理解できるし、そのうえでディフェンス陣は『こうじゃなかった場合』へのリスクヘッジもしっかり整えておく。最初の守備がうまくハマらず、戻りながら守備をしなきゃいけない状況でファウルをすれば苦しい状況になるし、カードを出される可能性も高くなる。後ろの選手は“最後のところの尻拭いをするだけ”という状況が理想なんですけど」

【その4・メンタル:飢餓感】

 体調を崩した関係でオマーン戦のベンチ入りメンバーから外れ、茨城県鹿嶋市内のホテルでテレビ観戦をしていたDF長友佑都(インテル)は「嬉しい気持ちになった」と笑顔で振り返る。

 4‐0の快勝劇だけが、30歳のベテランを喜ばせたわけではない。茨城県立カシマサッカースタジアムのピッチ上では大迫、FW齋藤学(横浜F・マリノス)、国際AマッチデビューのMF永木亮太(鹿島アントラーズ)、同初先発のDF丸山祐市(FC東京)らが躍動。途中交代組でもMF小林祐希(ヘーレンフェーン)が初ゴールを決め、リオデジャネイロ・オリンピック世代のFW久保裕也(ヤングボーイズ)を含めて、これまでの代表戦になかなか絡めなかった選手たちが飢餓感をむき出しにしていたからだ。

「僕たちが初めて代表に入ってきた時のような、生き生きした、ギラギラした気持ちが何人かの選手に見られたことが嬉しかった」

「僕たち」とは、本田や岡崎をはじめとする2008年の北京オリンピック世代に他ならない。彼らは北京五輪の前後に揃ってA代表デビュー。当時の胸中を「(本田)圭佑もオカ(岡崎)も、同世代の選手は『自分が上り詰めるんだ』というギラギラした思いが常にあったから」と笑顔で振り返る長友は、後に続く世代に一抹の物足りなさを感じずにはいられなかった。

「遅かれ早かれ、世代交代の時は来る。若い選手が出てくることによって、僕らも刺激を受けて頑張ることができる。僕らがポジションを奪ってきたように、若い選手が僕らからポジションを奪っていかないといけない。30歳を超えた選手が何人も、何年も出ている時点で、世代交代や底上げがうまくいっていない証拠。日本サッカー界にとっても良くないことだし、僕らを押しのける選手がどんどん出てこないと、世界で勝つためには厳しくなってくるので」

 もちろん簡単には居場所を明け渡さない。チーム内に芽生える、ポジティブな意味でのライバル関係が日本代表を力強く前進させてきた。その予兆がひしひしと感じられたオマーン代表戦から、真剣勝負となるサウジアラビア代表戦へ。長友は先発で出場する準備を整えながら、ようやく奏でられ始めた鼓動がさらに力強くなる光景を期待している。

【その5・采配:周到な準備】

 サウジアラビア代表戦を翌日に控えた14日の公式会見で、ハリルホジッチ監督は「この試合に関して、それほど多くの考え方は必要ない。簡単な仕事ではないことは分かっているが、それでも勝つために全て(のこと)をやる」と必勝を誓った。

 キックオフ前の時点で、サウジアラビア代表は3勝1分けの勝ち点10でグループBの首位を走り、日本は勝ち点3差の3位で追走している。勝てば勝ち点で並び、2位のオーストラリア代表を含めた大混戦状態のまま、来年3月に再開される後半戦の5試合に突入することができる。

 翻って、もし負けるようなことがあれば、ロシア行きの切符を自動的に得られる2位以内との距離が遠くなるばかりか、勝ち点1差で追ってくるUAE代表にも抜かれて4位に転落しかねない。オーストラリア代表は今節、第4節を終えて未勝利のタイ代表と対戦。UAE代表は最終予選1勝のイラク代表と対戦する。オーストリア代表とUAE代表は揃って勝利を飾る可能性が極めて高いだろう。

 最終予選の4試合を終えた段階で、サウジアラビア代表の総得点8はグループBで最多。そして総失点3はオーストラリア代表と並んで最少だ。オランダ代表監督として2010年の南アフリカ・ワールドカップで準優勝を果たしたベルト・ファン・マルヴァイク監督の下、急成長を遂げてきた中東の雄は、決して一筋縄ではいかない難敵だ。

 もしもリードを許したまま終盤に入れば、あるいは勝ち越しのゴールが必要な状況になれば、相手ゴールを強引にでもこじ開けるためのオプションが必要となる。10月のイラク戦では身長189センチメートルの吉田を前線に上げるパワープレーが奏功して、山口の劇的なゴールを生み出す直接FKを獲得した。

 代表メンバーが発表された4日。岡崎や1年5カ月ぶりに復帰させた大迫、4年9カ月ぶりとなる久保とセンターFWタイプを3人招集したハリルホジッチ監督は、こんな言葉を残している。

「ひとつのオーガナイズがうまくいかなかった時、もしかしたら4トップになるかもしれない。2人をサイドに置き、真ん中にも2人のFWを置く形だ。点を取りに行く場面や(同点に)追いつかなければいけない場面における、ソリューション(解決策)のひとつだ」

 要は2トップを組むことを示唆したわけだが、ハリルジャパンでは2015年11月に行われたW杯アジア2次予選のシンガポール代表戦で、岡崎とFW金崎夢生(鹿島アントラーズ)が組んだくらいだ。基本的に1トップで戦ってきたチームは、うまく機能するのか。岡崎は「みんな、所属クラブで2トップを経験しているので」と問題がないことを強調する。

「もちろん(練習で)合わせなくても、おそらく感覚的にやれると思う。世界やアジアの中でも強い相手となった時に、1トップでやっていくのはなかなか難しいと思うんですね。だから1トップとトップ下が良い距離感でプレーするのがヒントになっているし、その中で2トップはより攻撃に力を入れるオプションになる。自分は1トップでもできるし、その周囲で衛星的に動くこともできるので」

 オマーン代表戦では後半途中から岡崎と久保、さらに岡崎とFW浅野拓磨(シュトゥットガルト)が縦関係の2トップを組んだ。例えば大迫と岡崎など、その他の組み合わせを含めて周到な準備ができているのかどうかが、日本代表が苦境に陥った時に問われることになる。

文=藤江直人