イノベーションに欠かせない「センスメイキング」とは

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いま経営学で注目される分野に「センスメイキング」があります。組織心理学者のカール・ワイクを中心に発展してきたこの理論は、日本語に訳すと「意味付け・納得」となります。

組織のメンバーやステークホルダーを納得させ、いま何が起きていて、自分たちが何者で、どこに向かっているかの「意味付け」を集約させることです。センスメイキングは、イノベーションを起こす上で欠かせない条件であり、変化が激しく不確実性の高い現代のリーダーシップに、とくに重要です。

センスメイキングを研究する経営学者によると、これが必要なのは、企業が3つの不透明な状況に直面するケースです。それは、市場の低迷や天変地異などの「危機的な状況」、自社の強みや進むべき方向を見失う「アイデンティティの喪失」、そして行ったことのない施策をとる「意図的な変化」です。イノベーションは、3つ目の「意図的な変化」にあたります。

たとえば、人工知能です。いま多くの企業が、人工知能の技術を取り入れようとしています。しかしある人は「人工知能と人間は共存可能」と言い、別の人は「人間の職を奪う」と言います。人工知能やIoTのような新しい技術が出てくると、そもそもそれがどんなもので、自分たちにどんなインパクトがあるのか、経営者自身にも判断できません。

このように「正しい答え」を求めても得られない状況下で、ものごとに「意味付け」を行い、周囲を納得させて行動するのがセンスメイキングです。

私は、日本でも優れた経営者はストーリーテリングに長けていると考えていますが、その背後にはセンスメイキングがあります。不確実なビジネス環境では、正確で詳細な分析に時間をかけるのではなく、「これはこういうものだ」と言い切って、魅力的で納得できるストーリーを語り、周りの人を巻き込んでいく必要があるのです。

実際、ストーリーテリングがうまい経営者ほど資金調達のプロセスにおいて成功するという統計分析の結果も出ています。

アルバータ大学のジェニファー・ジェニングスらが2007年に発表した研究では、IPOプロセスにある経営者の発言を分析し、自社事業をストーリーとしてうまく説明できている経営者ほど投資家を説得でき、獲得できる資金が多くなるという結果を得ました。有能な経営者は人々をわくわくさせる長期的な提案で投資家も巻き込む対話力を持っているのです。

イノベーションは、常に「既存知と既存知の組み合わせ」から生まれます。そのため、企業は常に「知の範囲」を広げることが望まれます。一方で、人間は認知に限界があり、結果として目の前のことだけを組み合わせがちです。したがって、やがて組み合わせが枯渇してくるのです。そこで重要になるのが経営学で「Exploration」と呼ばれる、「知の探索」を意図的に行うことです。

GEやIBM、デュポンのような欧米の歴史あるグローバル企業では、経営者がセンスメイキングに注力できている、というのが私の印象です。その背景にはこれらの企業では「知の探索」が仕組み化されていて、経営者の役割がビジョンを部下や経営幹部に語って足並みを揃える(センスメイキングする)役割に集中できるからです。

例えばデュポンは100年先の未来について考える委員会を経営層がつくり、長期ビジョンで社会をとらえる仕組みをつくっています。経営者はそこから出てきたビジョンを部下や従業員に語っていくのです。

他方、日本の大企業の多くは、そもそも長期ビジョンを描くのが得意ではありません。3年2期程度の短いスパンでトップが変わる典型的な日本の大企業が描くことができるのは、せいぜい3年単位の中期経営計画です。結果として知の探索が行われず、センスメイキングも進まず、イノベーションが停滞してしまうのです。