今年のATPツアーファイナルズにおける錦織圭の立ち位置を象徴するかのような、1枚の写真がある。

 大会開幕に先駆けて行なわれたレセプションパーティで撮られたもの。年間レース上位8選手のみが立つ晴れの舞台に集った精鋭たちは、新調した仕立ての良い濃紺のスーツに身を包み、ランキング順に横一列に並んでいた。

 左に世界4位で身長196cmのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、そして右に立つ193cmで世界6位のガエル・モンフィス(フランス)に挟まれた世界5位の錦織は、そのとき、ふと「俺、小さいな〜」と、昨年と同じ思いに襲われたという。比較的小柄かと思っていたドミニク・ティエム(オーストリア/写真一番左)でさえ、横に立てば、やはり自分より確実に高い。

 8人が一堂に会すると、全員を見上げるような形になる。それが、嫌というわけではない。ただ単に、「改めて、こんなに差があるんだな......」と、彼は自分の置かれる状況を客観的に見つめていた。

 長身が必ずしも有利ではないと言われるテニスだが、トップ選手たちの体格を見れば、一定の上背がアドバンテージになることは疑いの余地がない。近年では、さらに若く大型な選手たちの台頭も目立ち、我れ先にと競い合うように上位の壁を突破しにかかっている。その若手の旗手たるティエムは、ランキングは9位ながらも、8位のラファエル・ナダル(スペイン)が欠場したために繰り上がりでツアーファイナルズへ。

「ロッカールームの豪華さや選手たちへの対応など、他の大会にはない素晴らしい雰囲気で......」

 今回が初出場の23歳は、喜びと戸惑いの色をも隠せぬ、幾分うわずった声で言った。

 錦織も昨年までは、このティエムと似たような立場であった。2年前の初出場時は、自分専用のロッカールームやスタッフから受けるVIP対応の数々に、純粋な喜びと驚きを募らせた。

 昨年は出場選手中、唯一の"非ヨーロッパ選手"であり、年齢的にも最年少。「決して、居心地がいいわけではないですね」と苦笑する面差しは、まだどこか新参者の匂いを残していた。

 その錦織が、3年連続出場となった今年は、「当たり前のように感じていますね、ここにいるのが」と、ことさら気負うふうもなく、さらりと言う。

「3年目ですし、今回は早めに出場が決まったのもありますし。毎年、ここに来るのが目標ではありますが、だんだん目標も上がっていく。1年目はわからないことだらけだし、ここにいること自体にすべての幸せを味わっていたけれど、今は、ここにいないといけない」

 これまでは、出場確定が直近の大会までもつれたが、今年は約1ヵ月前に決めていた。10月下旬には、過去2年は出場を見送ったバーゼル大会にも出場したことで、「2大会こなせたので、準備的にはしっかりできている」との自信と手応えも得ている。

 また、日ごろのツアー大会では直前まで対戦相手を確認しない錦織ではあるが、半ば強制的に先々の対戦相手がわかってしまうツアーファイナルズのグループ戦のフォーマットにも、「いろいろと考えながら練習できるので、早く対戦相手を知るのもいいかなと思います」と馴染んだようである。

 その初戦の相手は、今季の対戦成績で1勝1敗と星を分け合う世界3位のスタン・ワウリンカ(スイス)。「しなきゃいけないことは、しっかり頭に入っている。ラリーを組み立てながら、アグレッシブにプレーしたい」と、作戦や方向性は固まっているようだ。

 全米オープン王者のワウリンカ、2週間前のバーゼル大会を制した好調マリン・チリッチ(クロアチア/世界7位)、そして新生世界1位のアンディ・マリー(イギリス)からなる錦織のグループは、地元メディアも「恐怖のグループ」と呼ぶ強者の群れ。しかし当の錦織は、「どちらにしろ、タフかなという思いはあるので、そんなには気にしていないです」と、特に意に介する様子はない。それは、彼が目指す地点に上り詰めるには、いずれはすべての選手を倒さなくてはならないと悟っているからなのだろう。

 冒頭で触れた写真が象徴的なのは、体格のことだけではない。ランキング5位として8選手のほぼ中央に立つ錦織は、年齢では6番目ながら、「ツアーファイナルズ出場回数」では4番手だ。

 「(ランキングは)5位に入っているし、今回は新しい選手が何人か入ってきて、自分も中堅に入りつつあるなと感じます」

 この言葉が示すのは、移りゆく自身の立場と、頂上到達への覚悟と自覚。

「この8人のなかで、どうやって戦っていくかというのはチャレンジにはなりますが、上に行くために必要なこと。どこまで上に行くかが、大きな目標になってきます」

 身長では全選手を見上げる錦織が、テニスの格付けでは下からの突き上げを抑え込み、追い抜くべき上位勢を睨みつける。

 目のくらむような「大きな目標」に挑む決戦の火蓋は、11月14日に切られる。

内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki