大相撲九州場所が11月13日、福岡国際センターで初日を迎える。最大の焦点は言わずもがな、大関・豪栄道(境川部屋)の綱取りだ。カド番での秋場所を、15戦全勝で初優勝を成し遂げた勢いそのままに、初の横綱挑戦で一気に頂点を極めるのか。

  注目の昇進条件は、秋場所後の横綱審議委員会で「13勝以上の優勝」との見解が示されている。昇進をあずかる審判部の友綱審判部副部長(元関脇・魁輝)も「優勝が条件」と断言した。理由は、大関昇進後の成績の不安定さにある。秋場所前の名古屋場所を含めた4場所で負け越しており、さらに二けた以上の勝利となると、たった1場所(先場所を除く)しかない。この過去の成績が印象を悪くしていることは否めない。こうした影を払拭するためにも、2場所連続の優勝以外では横綱昇進は認めない姿勢だ。

 そんな厳しい条件にも緊張する様子はなく、10月31日の番付発表以降、九州で精力的に調整を続けている豪栄道。初の綱取りに向け、「自分の相撲を取ることに集中したい」と、いつもの場所前と同じように落ち着いたムードを醸し出している。秋場所の全勝優勝の原動力となった、「立ち合いの鋭い出足から一気に右を差し、左上手をとる」という「自分の型」に、確かな手ごたえがあるのだろう。

 だからこそ、綱取りに関しても「その日の一番に集中したい」と、先を見ず一日一日の積み重ねを強調した。この場所前の心境は、おそらく本音だ。自らの相撲を取り切れば、自ずと結果はついてくる――。そんな自信が今の大関にはある。

 審判長として、土俵下で豪栄道の相撲を目にしてきた友綱副部長も、先 場所の土俵上のたたずまいから精神的なゆとりを感じたという。

「これまでは、バタバタした相撲が多くて、簡単に言うと落ち着きがなかった。ところが、先場所はそうしたものが一切なく、非常に落ち着いていた。先場所に優勝できた最大の要因だと思う」

 豪栄道は、2014年秋の大関昇進後、度重なるケガで満足な状態で土俵に上がることができずにいた。その不調が不安を呼び、心を動揺させていたが、「(秋場所は)立ち合いの手つきも以前よりきちんとついていた。手首を痛めていたようだが、それも回復したのがよかったのでは」と友綱副部長。今まさに、審判部は立ち合いの正常化を目指して手つきの厳格化を力士に指導している真っ最中。立ち合いの手つきのスムーズさを好調のポイントにあげたのは、審判長ならではの視点といえる

 綱取りのポイントを、友綱副部長は「先場所の相撲を続けること」と語る。かつてない重圧がのしかかることが予想されるが、「豪栄道は気持ちが強いので、プレッシャーでつぶされることはないと思う」としたうえで、「大切なのは攻めること。『勝ちたい』と思うと相手の良さを消すことに躍起になり、守りに回ることが多くなる。それではいけない。攻めの姿勢を忘れなければ、自ずと結果は出るでしょう」と指摘した。

 相手のことを考えるあまり、守りに回ってしまうのは豪栄道の「悪癖」ともいえる。先場所の13日目、横綱・日馬富士戦がまさにそうだった。立ち合いで日馬富士の突進を受け止める形となり、一気に土俵際へ追い込まれた。最後は首投げで辛くも勝利を収めたが、元大関・霧島の陸奥親方はその内容に苦言を呈す。

「後手に回るとあのような相撲になってしまう。あの相撲を反省して攻めに徹する姿勢を見つめ直してほしい」

 友綱副部長と同じように、綱取りのポイントは、「攻め切れるかどうか」と強調。守りに入っては綱取りの道は厳しいと繰り返し述べた。また、陸奥親方は大関時代の1991年の初場所で優勝した自身の経験をふまえ、「優勝するときは、勢いが大切。そのためにもカギは序盤の3日間。ここをいい内容で勝っていけば、一気に勝ち切る可能性が高くなる」と、スタートダッシュの重要性を訴えた。

 当の豪栄道の仕上がりは順調そのもの。場所前の11月5日、福岡の田子ノ浦部屋で行なわれた二所ノ関一門との連合稽古に参加し、同じ大関の琴奨菊に6勝1敗、稀勢の里にも3勝1敗とライバルを圧倒した。稽古を見た元横綱・大乃国の芝田山親方も「動きはよかったし元気だった」と評価する。

 真っ向勝負を貫き、頂点を極めた芝田山親方。綱取りの大先輩が挙げるポイントも、やはり「攻めること」だった。先場所も苦しい内容の取組はあったが、「攻めていたからこそよく残ったし、それが勢いを生み、波に乗れた結果、全勝優勝につながった」と分析する。攻める姿勢に徹したことで「立ち合いも自分の呼吸で立てるようになる」と指摘。それが、勝敗の8割を決めるといわれる立ち合いを制することにつながるのだ。

 豪栄道にとって九州場所は、序盤から波に乗り、先場所よりも万全の態勢で終盤戦を迎える必要がある。綱取りの最大の壁となるだろう横綱・白鵬が復帰するからだ。右足親指の骨折で秋場所を全休した横綱は、秋巡業の途中から土俵に復帰。場所前も出稽古に参加し、日増しに調子を上げている。前出の友綱副部長は「だからこそ」と、前置きしたうえで「白鵬と当たるまでにできれば、全勝、悪くても1敗でいかないといけない。絶対に取りこぼしはできない」と力説した。

 今年を締めくくる九州場所。復活の白鵬、さらに綱取りが振り出しに戻った稀勢の里も、年間最多勝と初優勝をかけて満を持して臨んでくるはず。かつてない大混戦が予想される土俵で、豪栄道は角界の重鎮たちがそろって口にした「攻め」の姿勢に徹することができるのか。まずは序盤の内容に要注目だ。

松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji