写真提供:マイナビニュース

写真拡大

日本の実需筋には輸出企業と輸入企業があります。その時々で輸出主導あるいは輸入主導になりますが、今のマーケットに与える影響力については、輸出企業の動向が無視できません。

こんなエピソードがあります。

○米系ファンドのヘッドが語ったエピソード

ニューヨークにいた頃、結構有名な米系ファンドのヘッドと食事をする機会がありました。彼は、ジョン・レノンのような長髪、丸メガネの人でした。

食事中の話題は、もちろんディーリング一色で、洋の東西を問わず、ディーラー仲間の間の話は、自分の儲けた自慢話よりも、失敗談を話すのが恒例のようで、彼もそれに近い話を披露してくれました。

彼は、ドル/円は上がると確信し、作ろうとするドル買いポジションが大きいので、ドル/円のマーケットの厚い東京市場で、ポジションを作ろうとしたそうです。その額、なんと10億ドル(円換算約1,060億円)、マーケットの言い方をすれば、1,000本です。

彼も、事前に日本の輸出企業のオファー(offer、売りオーダー)が相当あると聞いていたそうですが、買っても買っても、オファーはビクともせず、結局、1,000本買い終わっても、1銭たりとも上がらなかったそうです。

百戦錬磨の彼も、さすがにこれにはたまげたと懐かしそうに話してくれました。

この話は、昔の話で、その後、日本の輸出企業も、製品を輸出するばかりではなく、部品を海外で生産して日本に輸入し、輸出と輸入を相殺するネッティングをするようになり、輸出額は以前に比べて減ったと言われますが、それでも、やはり大した影響力があります。

○アメリカ大統領選後の為替の動き

さて、今回、アメリカの大統領選では、開票中は、確かにトランプ氏優位となるとドル売りが強まりましたが、当選確実となると、トランプ氏の掲げていた積極財政政策などがにわかに好感され、ニューヨークダウや米国債10年物利回りが急騰したことから、ドル/円も相場もドル買いに転じ、ドルの上値を試す展開となりました・

しかし。日本の輸出企業は、想定レートを107円台に現在設定していること、そして、今年はこれまで、ドル安円高傾向で推移していたことから、ドルを売り遅れていたこともあって、既に106円台から結構売っていました。

107円台ともなれば更に売ってくるものと思われ、107円台を素直に上抜くのはかなり難しいものと思われます。

しかし、たかが輸出企業と思われるかもしれませんが、輸出企業という実需には、投機筋にはない特徴があり、そのことを忘れてはなりません。

輸出企業は、海外に製品輸出しますが、その代金をドルで受け取るのが、一般的です。ところが、ドルで受け取っても、国内で使えないため、円に交換します。これによって、ドル売り円買いの為替が発生します。しかし、投機筋と輸出企業が異なるのは、「売ってしまえば、為替取り引きは完結してしまう」という点です。

一方、投機筋は、輸出の売りを飲んで、上がろうとしますが、ドルを売って為替取引が完結してポジションがなくなる輸出企業と同時点で輸出のドル売りを買って初めてドルロングになる投機筋とでは、圧倒的に投機筋には不利になります。

つまり、輸出企業はスクエア(ノーポジション)になるのに対して、投機筋はその時点でロングを持つことになり、不利なロングを持つことになります。なおかつ、投機筋は、例えば、ドルを買ってロングにするということは、どこかの時点では、必ず利食いか損切りのために売らなくてはなりません。

したがって、投機筋は、確かに瞬発力があり、一気に買い上げるパワーはあります。しかし、上げ止まって時間がたてばたつほど、売り戻す必要性が増すわけです。

このとき、これはまずいと相場から急いで脱出しないと、ロングの投げに巻き込まれて痛い目に遭う可能性がありますので、この点については、十分な警戒が必要です。

○執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら。

(ストラテジスト 水上紀行)