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◆下町のナポレオン、いいちこは大分の方言で「いいですよ」だった

 三和酒類は、1958年設立の「下町のナポレオン」こと大分麦焼酎『いいちこ』で知られる会社です。現在も『いいちこ』の他にも清酒、ワイン、リキュール等も生産しているのですが、元々は日本酒酒造メーカーで、酒類の生産および消費はともに冬に集中しており、逆に言えば三和酒類も多忙なのは生産期のみであったところ、昭和40年代に入って大手日本酒酒造メーカーが九州に進出すると日本酒の価格競争が激化してきたため、その苦境から脱するために焼酎製造に参入しました。

 参入当時の焼酎のイメージは「安かろう悪かろう」「日本酒は贈答用になるが、焼酎はならない」。当初は苦戦したものの、やがて香りがきつく濁りのあった従来の麦焼酎の難点を解消した、大麦と麦麹を使った華やかな香りで軽い口当たりの「新本格焼酎」の開発に成功します。そして、地元紙の公募で大分県の方言で「いいですよ」を意味する『いいちこ』と名付けられた新商品は、今でも流通量の8割以上を扱う大手酒類卸の日本酒類販売が潜在能力を早期に見抜いて協力営業体制を引いたことや、大分県のバックアップもあって、ローカルヒット商品から一気に全国区のヒット商品となり、1980年代の焼酎ブームを牽引します。

◆流れると不思議な空気で茶の間を包むCMの背景とは

 こうして、『いいちこ』発売前は売上3億、従業員8名だった三和酒類は売上600億、利益100億、従業員300名の一大メーカーへと躍進したのですが、そんな『いいちこ』を語る上で、開発や営業と並んで欠かせないのが、CMやポスター等の広告展開ですね。実は三和酒類には、宣伝部やマーケティング部、商品企画部などは存在せず、一連の商品企画や広告戦略は全て、アートディレクターの河北秀也氏が一手に取り仕切っており、CMの企画、演出、編集、そしてナレーションまでも同氏によるものであり、同氏は「『いいちこ』は広告をしてきたのではない。デザインをしてきたからここまできたのだ」と語っています。ちなみに、河北氏は我々が今も当然のように目にしている、地下鉄路線図も74年にデザインした一流のクリエイターです。

 ポスターは、本格焼酎の古いイメージを払拭する爽やかさを出すものとして、広告イメージの中心にいいちこのボトルが置かれ、ロゴもローマ字をベースにした物を採用され、現在に至るまでイメージが定着しています。TVCMは1986年から年一回ずつ制作され、CMソングは1987年の『時は今、君の中』以降ビリーバンバン(1992年までは菅原進単独)が歌う曲が一貫して使われてきており、外国の大自然や田園などの静かな風景とビリーバンバンの歌が独特のイメージを確立し、これまた印象に残るCMとなっていますね。

 ちなみに、彼らを起用した理由にも深い意図があったのかと思ったのですが、こちらは当時の社長がビリーバンバンのファンだったためだという、割とほんわかしたものでした。また、2009年からは新たに発売された『いいちこ日田全麹』のCMが登場、従来の『いいちこ』のCMと並行して2種類が流れており、『日田全麹』のCM映像は『いいちこ』とはいわば正反対に、和を思わせる空間に的場浩司演じる武士風の人物が登場するシリーズとなっています。なお『日田全麹』のCMソングで『いいちこ』で使われたビリーバンバンの『また君に恋してる』を演歌歌手の坂本冬美がカバーしたものが使用され、最近の演歌としては記録的なヒットを飛ばしています。なお、かの王国の田村ゆかりが同社に勤めていたとの情報もあったのですが、こちらを見る限りOL時代の取引先が取り扱っていただけみたいですね。