拝啓、メディア様。Vol.010/ 「and recipe magazine」and recipe

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テレビ、ラジオ、Webに雑誌…旅ゴコロをいざなう番組の作り手に編集部が会いにいき、制作中のエピソードや思いをシェアするこの連載。今回は、ごはんと旅をテーマにしたWEBマガジン「and recipe(アンドレシピ)magazine」の仕掛人で料理家の山田英季さん、プロデューサーの小池花恵さんが登場します。





毎日更新の“あすのごはん”では、山田さんが毎日新しいレシピを公開中/プロデューサーの小池花恵さん(左)、料理家の山田英季さん(右)

◆おいしいごはんは、
人の心を開く世界共通の魔法

小池「“ごはんと、旅は、人をつなぐ”をコンセプトに、今年の3月25日に創刊したWEBマガジンです。私たちが誰かを訪ねる旅をする“andな旅”シリーズ、たっぷりのごはんとちょっぴりと人生の話を語ってもらう“ライスストーリー”などを3本立てで、月刊で更新しています。私は前職で10年ほど、糸井重里さん主宰のWEBサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』に携わっていたこともあり、リアルな場を提供することを考えていたのですが、WEBは山田がどうしてもやりたいと(笑)」

山田「and recipeの感性や直感でいいと思ったことやもの、そして体験を、感じたままの形で届けたくて、自分たちのメディアを持ちたかったんです」

小池「ふたりとも、もともと旅が好きなんですけど、私は特に、人に会いに行く旅が好きで。このマガジンを始める前の夏、友人の生まれ故郷のネパールにどうしても行きたくて、声をかけて手を挙げてくれたひとりが山田でした」

山田「その友人が建てた学校を訪れて、生徒たちにはカレーをふるまいました。受け入れてもらえるかは不安でしたけど、みんなおいしいって笑顔になってくれて。どの国でも共通して言えるのは、みんなおいしいものが好きなこと。旅にはおいしい食べ物がつきもので、両者の間にはいつも人がいる。旅においしいごはんがあれば、幸せで豊かな気持ちになれるし、人と人の距離も縮められると思うんです」



10月号の“andな旅”の旅先は、ネパール。WEBマガジン創刊前に、友人の生まれ故郷を訪れた



ネパールの学校では、山田さんが日本の給食を提供。おいしいと笑った子供たちの笑顔は忘れられない思い出に



「神様がいる」とふたりが感じたネパールの秘境地。チベット密教のお寺が掲げる旗と、広大な山々が神々しい

◆誰かに会いに行く記事“andな旅”で
人と人がどんどんつながっていく

山田「ほかのコンテンツはディレクションをしますが、この“andな旅”シリーズでは、あえて何もしないんです。僕らがするのは、誰に会うかを決めるくらい。記事を書く人、写真を撮る人に自由に書いたり、撮ったりしてもらっています。旅では、何かと心を動かされることが多い。それを記事にするなら、本人が感じたことをリアルに切り取ってもらうのが一番熱量が伝わると思うんです」

小池「これまでに人に会いに行く旅をする中で、現地のことを知っている人に案内してもらうと、ガイドブックにも載ってないところに連れて行ってもらえて、それがいちいち、おもしろいなぁって感じていて。それがきっかけかな」

山田「旅をおもしろくする方法は、行く先々で友達をつくること。仕事でロンドンにケータリングフードを作りに行ったときは、会場にたまたま知人の知人が来ていて。近所のおいしいサンドイッチとビールを買って、公園でのんびりするとか、現地の人のふだんの過ごし方なんかを教えてもらったんです。こうした偶然の体験にあり付けるのが、人に会いに行く旅の醍醐味でもありますね」

小池「友達の友達、またその友達といったように、人がどんどんつながっていけるから、旅はおもしろくてやめられないですね!
ネパールの旅では、友人のお母さんにもお会いして。訪問していた学校からお母さんの住む家までは徒歩で1時間半ほどかかる。そこは、すごく田舎なんですけど、宿泊していたところ帰ろうとしたら徒歩で1時間半もかかる。車も通れない、けっこうな山道(笑)。その友人いわく、そんな山道もお母さんが作ったお酒をのめば余裕で歩けると。で、そのお酒をいざ飲んでみたら、かなり強くてみんなベロベロ。私だけバイクの後ろに乗せてもらって帰ったんですけど、酔いと道の険しさで3回もバイクから落ちましたからね(笑)」



創刊号の“andな旅”は台湾へ。3日間の弾丸旅でも、市場や夜市を余念なく巡る



ネパールや韓国の市場で出会った調理道具たち。「世界中のキッチン道具に囲まれて料理するのが幸せ」と山田さん

◆旅は新しい出会いの連続。
世界のエッセンスが料理にも!

小池「山田が料理を始めて、来年で20年になるんです。and recipe magazine の『あすのごはん』では、毎日新しいレシピをひとつずつアップしています。
実は5年前の料理と、今の彼が作る料理が変わってきていると感じていて。世界中を旅してきたスパイスがいっぱい入っているなと。和食、イタリアン、フレンチをやってきた料理の基礎があるからこそ、旅のスパイスを自由に取り入れて自分の料理として完成させている。それをWEB上でも出せたらいいなって思ってます」

山田「レシピには、書いた日付がふってあるんですが、“この時にはまだあの国に行ってない”ってわかる。材料や組み合わせ、調理法など、年を重ねるごとに、旅で得たその国の要素が入ってきていますね」

小池「旅から帰ると、すぐに料理を作り出すよね」

山田「旅先でおいしいものと出会うと、早く作りたくて仕方なくなる。この味が体に残っている間に作りたいって。旅先では、まだ知らぬおいしいものと出会えるし、もっとこうしたらおいしくなるかもって考えちゃう」

小池「日常を過ごす上で、非日常が必要だと思っているんです。私たちが選んだのは旅ですが、その非日常は、読書だったり、スポーツだったり、本当はなんだっていい。日常から少し離れることで、普段の生活が素敵なものだったと気づくこともできるんじゃないかなって」

山田「だから僕たちもWEBとリアルを行ったり来たりさせなきゃ意味がないし、おもしろくないなって。今後はWEBから飛びぬけて、実際にトークショーやイベントを開催するのもいいし、そこにおいしいごはんがあったらなお素敵。旅の市場なんかで調達した調理道具を販売するのもいいのかなって。これからも、自分たちと“目が合った”ものやこと、人を紹介していけたらと思っています」



山田さんがネパールで購入した銅や真鍮の鍋。旅先では、必ず市場に立ち寄り、調理道具を調達するそう



2016年3月に創刊したWEBマガジン。テーマは、美味しいものと旅で世界中の人をつないでいくこと。毎日更新する“あすのごはん”では、各国のエッセンスが加わった料理家の山田英季さんによるレシピの公開も。

TEXT/MAKI FUNABASHI