トランプの勝因は「比喩力」、忘れられない言葉が人を動かす

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米大統領選での勝利を受けて11月9日に勝利宣言したドナルド・トランプは、選挙戦の間に何度も繰り返していた「ヘドロをかき出す(Drain the Swamp)」という”マントラ”を使わなかった。トランプ勝利を助けるために、小さいながらも役割を果たしたのは、この「メタファー(隠喩)」かもしれない。

トランプがこのメタファーを使い始めたのは、10月17日。この日の発表文の中で、「首都ワシントンにたまったヘドロをかき出す」と明言した。これは、政治家たちが過去にも、「政府の汚職をなくすべきだ」との考えを示すために使ってきた例えだ。だが、この3つの単語からなるシンプルなフレーズは、既存の政治に裏切られたように感じ、不満を抱える何百万もの有権者たちにとってはスローガンになった。

トランプはまた、「選挙制度に不正がある」と訴えるためにメタファーを頻繁に使い、有権者に「国を取り戻そう」「さびを払い落とそう」などと呼びかけた。

ジョージタウン大学の言語学者、ジェニファー・スクラファーニは、「トランプは、まさにその発するメッセージーに対して魅力を感じた多くの人たちからの支持を得た」と指摘する。

「比喩を使って語ることで、有権者は、トランプが事前に用意した演説原稿を読んでいるのではなく、自分と親密な会話をしている、という印象を受ける。そして、リハーサルをしたわけではなく、即興で話しているような話し方は、トランプが自分の言葉で語っているとの印象も与える。それが、支持者たちの”本物”、”信頼できる”、”つながりを感じられる”というトランプに対しての評価につながっている」

言葉は両刃の剣

一方、この選挙戦の中では、中心的なトランプ支持者らを刺激したといえる、もう一つの別の例えがあった。

民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントンは9月、次のように述べた。

「…トランプ支持者らの半数は、嘆かわしい人たちだ」

その後、「後悔している」とすぐに謝罪したが、これはクリントンにとっては打撃となった。トランプはこの言葉を、自らの支持者が感じている怒りをさらにあおるために使ったのだ。

歴史を通じて、隠喩は政治的な表現における力強いツールとして使われてきた。トランプもクリントンも、そしてバラク・オバマ大統領も、演説では比喩表現を多用している。

勝利宣言の中でトランプは、「米国にとっては、分裂の傷を縫い合わせる時だ」と語った。国が負った傷を”縫い合わせる”ことはできない。だが、これは隠喩を使った表現を用いてのトランプの約束だ。そして、多くの有権者は分断した国を「癒す」ために、トランプがその約束を守ってくれることを願っている。

一方のクリントンは、敗北宣言の中で、次のように述べている。「私たちはまだ、最も高く、最も硬いガラスの天井を打ち破れずにいる。だが、いつか誰かがそれを実現してくれるだろう──私たちが今考えているよりも、早く実現することを願っている」

「ガラスの天井」は、職場における女性たちにとっての目に見えない障壁を表すものとして、非常によく使われる隠喩だ。

比喩は心に残る

メタファーは常に、政治的な修辞法(レトリック)において大きな役割を果たす。作家のジェームズ・ゲーリーは著書の中でメタファーについて、「一度私たちの心を捉えれば、その後も手放すことはない。私たちは決して、その言葉を忘れない」と述べている。

2016年の大統領選も、私たちが今後、決して忘れないものの一つとなった。