NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
11月6日放送 第44回「築城」 演出:田中正


OPのいきさつを聞いてみた!


歴史が変わった瞬間のように、強烈なインパクトを残した44回。
オープニングがエンディングに大逆転する、この震える展開について詳しく聞きたくて、NHK の広報さんに問い合わせてみた。
すると、この流れは台本にあらかじめ書かれたものではなかったことが判明。思いつきの奇襲作戦だったのだ。
では、いったい、誰がいつ、このようにしたのか? そしてこの作戦がどんな効果を上げたのかここに記す。

11月5日(日)よる8時。いつもの勇ましいオープニングがなく、そのままストーリーがはじまってしまうが、勢いよく話が進んでいくので、それほど気にならず見続けてしまう。そして40分後、紆余曲折の末、ついに真田幸村考案(父・昌幸のアイデアのもと)出城が完成。
幸村たちは赤備えで決めている。
「城の名はなんとします?」(内記/中原丈雄)
「決まっているだろ、真田丸よ」(幸村/堺雅人)
じゃーん、かっけー幸村! この台詞のあとに、オープニングのストリングスが鳴って、真田丸を空から撮ったうーんと引いたカットで、バーン! とオープニングがはじまって、視聴者熱狂!
いつもの今日のハイライトのとこに次回予告が入って、風が吹き、馬もいななき、盛りに盛り上がって、
45回の大坂冬の陣へ!

「決まっているだろ、真田丸よ」でも十分、満足、次回の引きになったと思う。だが、台本が完成して撮影、仕上げが行われている間に、三谷幸喜がこの回はオープニングをエンディングにしたらどうかと思いつき、プロデューサーに提案。それは面白いと制作スタッフ陣が乗った。そう広報さんは教えてくれた。
お年寄りもたくさん見ている大河ドラマという保守的な枠ゆえ、定形を守らないといけないのではないかと気にする者はひとりもいず、ひたすらドラマを楽しく盛り上げることだけを主眼に、主に編集作業で、予告を入れようとかSEを足そうとか皆がアイデアを出し合って、オンエアの形が出来上がった。

真田丸、逆転の歴史


放送直後、SNS ではとあるアニメ作品にこういう手法があったと騒がれていたが、こういうことは民放の連ドラでも時々行われる。だが、「真田丸」はこのひっくり返しが単なる盛り上げではなく、物語に沿っていたからこそ効力は何倍にもなる。
言うまでもなく、「真田丸」はこれまでずっとひっくり返しのドラマだった。
1話は、真田幸村が大坂の陣で活躍するフラッシュフォワードからはじまって、5話:3分もなかった超高速本能寺の変、同じく5話:爆笑の伊賀超え、18話:かかとかさかさでまつ(木村佳乃)の記憶覚醒、26話:まさかの瓜売と、とり(草笛光子)の死のナレーションによるフェイント、27話:薫(高畑淳子)の出生の秘密、36話:超高速関ヶ原、39話:饒舌になる佐助(藤井隆)、40話:クジで決定幸村の名前、41話:服部半蔵(浜谷健司)の秘技・全力で押し通る、42回:違うんだ、信之(大泉洋)・・・などなど意外な展開にびっくりさせられることだらけだった。44回も、丹田でおなじみ出雲の阿国(シルヴィア・グラブ)の2代目が登場して驚かされた。
話がひっくり返って、そこから新展開というと、
11、12話 は、45分中の半分で話を反転させていたが、44回もこのメリハリを効かせるのが得意そうな演出家・田中正の担当回だった。


予想を覆す小気味良い展開は、「真田丸」で中心的な存在だった真田昌幸(草刈正雄)の性分と相まったナットクの展開。
面白いのは、ここへ来て、昌幸および、戦国武将たちの「裏切り人生」が、事態を面倒なことにしていることだ。
秀頼(中川大志)を擁立した豊臣幹部の中で、主に織田有楽斎(井上順)と大蔵卿局(峯村リエ)が、裏切りを心配して牢人たちの活躍を牽制する。なにしろ牢人たちのリーダー格の幸村は、裏切り続けて生き残ってきた昌幸だから。
茶々(竹内結子)は幸村のことだけは信頼しているが、基本的に裏切りにトラウマをもっている。
実際、後藤又兵衛(哀川翔)、毛利勝永(岡本健一)たちはいつでも徳川に寝返ってもいいような雰囲気だ。

だが、幸村は裏切らない。
彼以外信じないという茶々に「戦は味方同士が互いに信じなければとても勝てるものではありません」と言う。
せっかくの出城づくりを辞めさせようとする有楽斎たちにイライラしながら、ドラマが29分くらい経ったとき、「豊臣を見捨てぬというのは本当だな」と秀頼が幸村に念を押す。
幸村の真摯な眼差しに秀頼は「この出城仕上げよ」「私はそなたらを信じておる」と豊臣の未来を託すのだ。
生き馬の目を抜く戦国時代を経て、義理人情を大事にすること、仲間を信じることを大事にする生き方を、真田幸村は選ぶ。
裏切りの時代は終わった。時代が完全に変わった回で、オープニングをエンディングに切り替えるとは、じつにいいタイミングだ。
だが、家康軍のなかに、義理人情の大切さを幸村に示していた上杉景勝(遠藤憲一)がいるのが切ない。


【そして、もうひとつの反転


家康の老眼にも注目したい。
44回がはじまってすぐ、豊臣側は籠城するという〈覚〉を目から離して読んでいる家康。
その後、38分頃、豊臣の布陣を「細かくて読めん」と言う。やっぱり老眼なのだ。なにしろ71歳だ。
家康が近視だったかは知らないが、年取ると近いものが見えなくなって遠くのほうが見えるようになる。
これも逆転現象のひとつ。
ただ、家康が老いた体に鞭打って「仕寄せ」の作り方を自らやって見せるところは、面目躍如。
この場面もまた、旧来の戦のやり方が継承されてないという、時代の変化を感じさせる。そして、そんな家康の後を次ぐ秀忠役が、目下、「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)で大注目の星野源であることもひじょうに興味深い。


信之、ひとり語り


「思えばわしの人生はずっと耐える毎日だった」
「うれしいことはひとつもなかった」
「妻に内緒で九度山にたびたび仕送りを続けた・・・」
などとひとり語りをする信之(大泉洋)。
京都から江戸に呼び寄せたお通(八木亜希子)に「わしは決して人前でこのようなことは言わん。不思議じゃ、そなたといるとなんでも話しとうなる」と言う。
お通は静かに聞きながら筆を動かしていて、もしかして信之の回想を書き留めているのだろうか。 

二代目出雲阿国が出てきて役に立ったり、桶狭間の頃からいたらしい豊臣の台所頭・与左衛門(樋浦勉)が出てきたり・・・とまだまだ曲者がいっぱい。
NHKの広報さんに伺ったところ、44回ほどの大仕掛けではないものの、最終回までまだまだ仕掛けがあるとのこと。思わぬ伏兵は誰か。きりに六文銭賭けてもいい(安っ)。


(木俣冬)