金正恩氏

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北朝鮮が最近、秘密警察の国家安全保衛部(以下、保衛部)傘下に「620常務」なるタスクフォースを組織して、海外の映画や韓流ドラマなど「不法映像物」の取締りを大々的に実施。検挙された住民が300人を超えると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

反抗の動きに「血の粛清」

保衛部が、海外映画などの取締りを行うのは、今に始まったことではない。北朝鮮当局は、海外から流入した映像の流布を薬物犯罪と並ぶ重犯罪とみなしており、公開処刑や政治犯収容所送りなどの厳罰で臨んでいる。

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それにしても、今回の取締りの様相は従来と異なる。北朝鮮当局も「史上最大」と認める大水害の被災地、咸鏡北道(ハムギョンブクト)一帯をねらって行われているのだ。

RFAの取材に答えた現地消息筋によれば、「620常務は、保衛部が金正恩に建議書を上げて、今年の6月20日に認可を得た不法映像物取締り組織」であるという。

そして、「620常務は、9月上旬に豆満江流域の水害で多くの住宅が倒壊すると、住人が近づけないように封鎖した上で捜索を繰り広げ、不法映像物と違法携帯電話が見つかった家の住人を直ちに逮捕した」と述べた。

また、「逮捕された住人と縁故のある人々を連鎖的に捕まえている」とし、その作戦範囲は咸鏡北道全般に拡大されているとしている。

この話を聞いて疑わざるを得ないのが、保衛部はもしかしたら、大水害を「金儲けのチャンス」と捉えたのではないかということだ。公開処刑や政治犯収容所の運営を担い、金正恩体制の恐怖の象徴である保衛部には、誰も逆らうことができない。彼らはその立場を利用し、無実の人々までを「スパイ容疑」で逮捕し、親類縁者から多額の身代金をせしめている。

そして、保衛部がどうしてそんなことをするかと言えば、一義的には金正恩氏への上納金を稼ぐためである。それを納めてこそ、彼らの権力も保たれ、恐喝ビジネスで私腹を肥やすこともできるからだ。

つまり金正恩氏は、水害の被災者を助けるどころか、搾取の対象にしているということだ。

ちなみに、RFAの他の情報源によると、保衛部は今月2日、韓国の歌を聞いた疑いで大学生5人を逮捕した。彼らが聞いていたのは、韓国の学生運動家たちが好んで聞く歌だった。この手の歌は、裁判抜きで処罰されるほどの危険歌謡とみなされているという。

ということは、正恩氏も実のところ、北朝鮮の大衆が「反権力」に目覚める日を恐れているのだろう。北朝鮮の体制はこれまで、あらゆる反抗の動きに「血の粛清」で応じてきた。

しかしそれで、庶民の心の中の自由の灯まで消せるわけではない。それを知っているからこそ、正恩氏は国民に「自由」を教える映像作品や歌を、これほどまでに恐れているのだ。