左から、香港「フェニックステレビ」李茵淵蝓Ε潺礇)氏、フランス「ル・モンド」紙フィリップ・メスメール氏、ソウル出身の国際法学者、金恵京(キム・ヘギョン)氏

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ドナルド・トランプ氏の大統領就任に反対するデモが全米各地で起こるなど、“トランプショック”はまだまだ尾を引きそうだ。

連載コラム「週プレ外国人記者クラブ」のジャーナリストたちは、このまさかの結果をどう受け止め、どう報じたか?  前編記事(「今のアメリカはローマ帝国衰退期の“パンとサーカス”状態」)に続き、後編では中国、フランス、韓国のジャーナリストたちに聞いた――。

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中国でトランプはどのように報じられていたのか? 香港に拠点を置く「フェニックステレビ」の東京支局長、李茵淵蝓Ε潺礇)氏はこう答える。

「世論調査の結果を見てもクリントン候補の当選予想が多かったので、まさにトランプ氏の当選には大変驚いています。今世紀最大の政治ショーとして、今回の大統領選は中国でも注目度が高く、弊社フェニックステレビでは10時間にわたる特番ライブで選挙結果を報道していました。日本のメディアより先にトランプ氏当選の速報が出されていたほどです。

トランプ氏の名前の中国語訳に『床破』という皮肉的な訳し方もあります。『ベッドが破れる』という意味です。彼の激しい発言は中国のネットでも多く報道され、一般大衆はエンターテインメントの心境でトランプ氏を捉(とら)えていたかもしれません。

対中強硬派と見られているクリントン氏より、トランプ氏はビジネスマンですから実利的な対中国対策を取るのではないか、という期待感があります。選挙中は政策論争が乏しかったため、対中政策や外交政策などは全く未知数だと思います。また日本に対する政策、特に駐日米軍基地経費負担論や日韓核武装論などが対日政策、日米同盟にどんな影響を及ぼすか、中国も注目しています」

続いて、フランス「ル・モンド」紙のフィリップ・メスメール氏は、来年行なわれる自国の大統領選への影響を危惧する。

「この結果にはもちろん私も驚きました。しかし、『それは本当に大きな驚きだったか?』と言われると、実はそうでもないと感じています。というのも、今回の選挙結果は今、ヨーロッパの先進国などを中心に世界中で広がりを見せている『反グローバリズム』や『保護主義』『既存の経済システムへの批判』といった大きな流れ、トレンドを反映したものだとも言えるからです。

おそらく、トランプ氏はそうしたトレンドを巧みに利用して、選挙での得票に結びつけようと考えたのでしょう。日々の生活や自分たちの収入、将来に危機感を抱いている人たちの感情に訴え、既存の政治家やエリート層への反感と結びつける形で、自分への支持を拡大するという戦略が見事に成功した。

すでにこれと非常に似たことがイギリスのEU離脱をめぐる国民投票でも起きていたわけですから『大きな驚き』とは言い難い。ただ、今回はEU離脱という個別の『政策』を決める国民投票ではなく『アメリカの大統領選挙』ですから、そのインパクトと影響は遥かに大きいと思います。

今回の選挙結果を特に深刻に受け止めているのが、来年春に自国の大統領選挙を控えているフランスです。近年、急速に支持を拡大しつつある極右政党『国民戦線』の代表、マリーヌ・ルペンや、同じく右寄りの姿勢を強めている共和党のニコラ・サルコジ元大統領は、来年の大統領選に向けて間違いなく『トランプのやりかた』を踏襲することでしょう。

ちなみに、前回のフランス総選挙では1回目の投票で極右の国民戦線が多くの得票を集めましたが、2回目の投票では大きく票を減らす結果となりました。これは、潜在的に国民戦線を支持する人たちは少なくないけれど、『現実として極右政党に政治を委ねる』ことに有権者が躊躇(ちゅうちょ)したのだという分析があります。

フランスではこのように『可能性はあるけれど、現実にはなかなか越えられない一線』のようなものを『透明に見えるけれど、実際にはそこに壁がある』という意味で『ガラスの天井』と呼ぶのですが、今回のアメリカ大統領選の結果が、フランスでもガラスの天井が壊れてしまうきっかけになるのではないか?と、警戒感を強めている人も少なくありません」

最後に、韓国・ソウル出身で、長くアメリカで生活した経験を持つ国際法学者、金恵京(キム・ヘギョン)氏に話を聞いた。

「私は2005年から8年間、ワシントンDCを中心にアメリカに住んでいましたが、当時からアメリカ社会の保守化あるいは排外的傾向を感じてきました。また、アメリカ政府の金融業界への優遇姿勢は民主党、共和党を問わず続いており、直接的恩恵を感じられない多くの市民は自らが政治に見捨てられているという感覚を持ち続けてきました。

そうした不満がある中で、クリントン氏はメールスキャンダルやクリントン財団の金銭に関わる疑惑も抱えていたのです。そのため、選挙直前のFBIの再調査のように、それが弾けた時、中間層に届かない人々の怒りや不満を背景にしたトランプ氏に票が流れ、当選に至るという現象は不思議なことではありませんでした。

何より、民主党支持者であれ、共和党支持者であれ、『既存の政治で社会は変わらない』『新しい風が吹いてほしい』という声がトランプ氏を選んだのだと思います。アメリカに住む私の知人も、トランプ氏の発言や政策は酷いと思うものの、仕方なく彼に投票したという人が何人もいました。彼が失敗しても元々上手くいっていないのだから仕方ない、運がよければ成功するという、まさにトランプのギャンブルです。

また、アメリカは9.11同時多発テロ以降、イラク戦争やテロ対策の財源確保のために、国民からなるべく税金をとろう、罰金をとろうと厳しい姿勢をとってきました。例えば、違反者を監視する取締装置や人員も大幅に増え、結果的に多くのアメリカ人が罰金を支払うケースが増えました。その上、雇用は減り、賃金も下がったことで、積もりに積もった政治への不満が限界を迎え、トランプ氏の当選という象徴的な行動に表れたのだと思います。

現在、韓国では朴槿恵大統領が親友の操り人形になっていたと報道されていますが、トランプ氏に投票した人は、彼が金融業界や軍事産業などの従来型の利権に操られることなく、自らの巨万の富を背景に、独善的ではあっても自分で判断する強いリーダー像を示すはずと期待しているのでしょう。

とはいえ、私個人としてはトランプ氏を支持しません。彼はメキシコとの国境に壁を作るなどの排他的発言をしていますが、海外からの労働力なくしてアメリカという国は成り立ちません。また、比較的リベラルといわれたオバマ政権でも市民への監視体制が強まったことを考えれば、今後のトランプ政権では国民ひとりひとり、特に外国人に対する監視の目はますます厳しくなることでしょう。

威勢のいい言葉で、アメリカという国が長年築いてきた様々な価値や国際的な評価を手放していいのだろうかと、現地で長く暮らしたひとりとして嘆息してしまいます」

(取材・文/川喜田 研、週プレNEWS編集部)