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日本では野生鳥獣による農作物の被害が年間約200億円を超えるほどの影響が出ているのですが、狩猟したシカやイノシシは1人で食べきれる分量ではなく、処理に困ってしまうという問題があります。そんな問題を改善するべく、ハンターが捕獲した野生獣の肉を加工して飲食店に販売する「九州狩猟肉加工センター」が、2016年4月17日から大分・湯布院に設立されています。国内最大規模の「狩猟肉専門の加工製造ライン」を持つ施設となっており、なじみのないジビエ肉を食べやすいミートボールやソーセージなどに加工することで、ジビエ肉の安定供給と流通拡大を目指しているということで、一体どんな施設になっているのか現地を取材してきました。

九州狩猟肉加工センターの所在地は「大分県由布市湯布院町中川1141-2」のところで、「湯布院ワイナリー」のすぐ隣にあります。

九州狩猟肉加工センターに到着。運営しているのは株式会社椿説屋(ちんぜいや)で、創始者の高田氏はアナグマのすき焼き専門店「むじなや」のMakuakeプロジェクト立ち上げのきっかけとなったハンターでもあり、ただ捨てられていただけの「むじな(アナグマ)肉」を流通させることにも成功しています。



外観は大きな一軒家のようですが、入り口には「九州狩猟肉加工センター」の看板とシカの剥製が立てられていました。



加工ラインの中に入るため、ネットキャップやマスク、使い捨ての白衣を装着。



さっそく中を見せてもらうことに。



入り口には強風でホコリなどを吹き飛ばすエアシャワールームがあり、ここを通過してから中に入るというオペレーションになっています。



メインの加工ラインがある部屋はこんな感じ。



当日は鹿肉をミートボールに加工する作業が行われていました。



作業はほとんど終わっていたのですが、最終段階の丸めて成型するところを見せてもらいました。



1つ30gに取り分けて、手で丸く成型すると……



最終的にこんな感じでパック詰めされて飲食店などに出荷されていくわけです。加工食品のレシピはセンターで考えたものもあれば、付き合いのある飲食店から依頼されたレシピで作ることもあるとのこと。



ジビエ肉の加工のために導入された数々の調理器具を見せてもらいます。これは煮物用の大鍋で、カレーなどを大量に調理できます。



レバーを回すと鍋が傾くので、鍋を取り外さずに洗浄可能。



火元にはガスが通っています。



こっちは業務用のスチームコンベクション。



中にトレイを入れれば、一度に大量の食品を加工することができます。要するに家庭にあるスチームレンジを業務用にしたものだそうです。



食品の「芯温(中心温度)」も計測できるため、機械任せで温度や時間を完璧に管理されたローストビーフなどの低温調理ができるとのこと。



業務用のコンロも設置されています。



すでにいくつかの部品が洗浄に回されていますが、これは肉をのせるとミンチにできるミートチョッパー



完全品は以下のような感じで、上のトレイに肉をのせると下からミンチ肉が排出されます。小型ながら1時間に150kgの処理能力を備えています。



その隣にあったのはミートスライサー。



肉の塊をのせてレバーを引くと、鋭利なスライサーが肉をスパっと切り裂き、スーパーで販売されているような薄切り肉になっていきます。



これも洗浄中で部品が足りていませんが、「ロボクープ BLIXER-6」という業務用のミキサーもありました。



本来は以下のように、巨大なカッターを備えた容器に食品を入れることで、粉砕・撹拌・乳化などの手間がかかる作業を短時間に加工することが可能です。



隣には部品がほぼ取り外されて何の製品かまったくわからないものもありましたが……



OHMICHI DK-9」というソーセージを量産する「腸詰め機」でした。



食品加工製造器以外にも、マルゼンの包丁まな板殺菌庫「MCF-065B」や……



同じくマルゼンの電気式器具消毒保管庫「MKH-137NE」などが設置されており、しっかりとした衛生管理がなされています。





別の部屋に移動すると、業務用の燻製機を発見。





温度計とサーモスタットを搭載しており、庫内温度を管理しながら大量の食品を燻製可能。仕組みとしては小型のスモーカーと同じだそうです。



ソミュール液に浸け置きされていた「イノシシのベーコン」も見せてもらいました。一定期間つけ込んだらこの燻製機で加工されるわけです。



その隣に設置されているのは大型食品乾燥機。



これを使ってクラウドファンディング・Makuakeでも出資を募集していた「鹿節(しかぶし)」が開発されています。鹿節とは鹿肉ブロックの状態での焙燻工程を経て、本格的な鰹節と同様に菌をつけて乾燥させた鰹節のような食品のこと。触ってみるとクギを打てそうなほどカッチカチで、削り節にすると獣の旨みあふれるだしがとれるそうです。



さらに別の部屋へ移動すると、一見しただけでは用途がわからない機器を発見。



これは肉の中に銃弾などの異物が埋没していないかを調べられるアンリツの「金属検出器」とのこと。



Fe(鉄)球なら直径2mm〜2.5mm、SUS304(ステンレス鋼)球なら直径3mm〜3.5mmの精度で検出可能。ただし、九州狩猟肉加工センターでは野生獣の引き取りや解体を行っていないことや、銃弾で仕留めた野生獣を取り扱うことが少ないため、さほど頻繁には使用していないそうです。



その付近では、大型の急速冷凍機が作動しています。



中では当日に作っていた鹿肉のミートボールが冷凍されていました。大体30分ほどで芯までカチカチに凍らせることができるとのこと。



冷凍が済んだらTOSEIの真空包装機「トスパック」でパック詰めまで行われます。



パッキングされたサルシッチャ(生ソーセージ)も見せてもらいました。



最後は冷蔵室に巨大なタンクが置かれていたので、一体なんなのか聞いてみたところ、鹿節とともにMakuakeで出資を募っていた「猪肉醤」だとのこと。ペースト状にしたイノシシの肉と、ハツ・レバーなどの内蔵を塩と混ぜて発酵させる醤油のような調味料。



まだ完成はしておらず、塩だけで発酵させたものと……



麹を入れて発酵させているものや、シカの肉や内臓を使った「鹿醤」も試作中とのことです。てっきり強烈なニオイがすると思ったのですが、パイナップルのようなフルーティーな香りがしており、完成後は獣の旨みが味わえるクセのある調味料に仕上がる予定です。



九州狩猟肉加工センターでは、主に大分県の食肉処理場から仕入れた野生獣の肉が加工されており、地産地消を促進しながら、食べやすくしたジビエ肉によって、全国的なジビエの流通拡大を目指しています。厳選された食肉処理場とのみ取引を行っているため、天然の野生獣でも安全かつ均質化された肉質のジビエ肉の提供に取り組んでいるとのこと。地域ごとに狩猟メンバーのリーダーたちと相談して、仕留め方・内臓の取り出し方・血抜きの仕方などの手順化にも取り組んでおり、ジビエ需要の拡大に全力投球しているわけです。