『この世界の片隅に』 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

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…中編「タンポポも摘んで料理に〜」より続く

【ついついママ目線】
『この世界の片隅に』後編
しなやかでしたたかな強さをもつ子どもに…

こうの史代原作の同名漫画を、『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督が劇場アニメ化した『この世界の片隅に』。戦争を題材にしているが、悲愴感ばかりが漂うわけじゃなく、ほっこりと優しい気持ちにしてくれるヒューマンドラマだ。

困ったことがあっても気の抜けた声で「ありゃ〜」と言って柔軟に受け流していく、とぼけたような主人公のすずには勇気付けられる。お互いよく知らないまま一緒になった周作とゆっくりと夫婦愛を育んでいくようすも胸を温かくする。もちろん波風なく順調にいくわけはなく、すずの幼馴染への想いや、簡単に子宝に恵まれない人間ドラマも描かれる。

遊女のリンが原作のように夫婦に絡んで深く描かれないのは残念な気もするが、年齢制限を考慮してかもしれない。それでも、映画版も意外と艶っぽい一面があり、やはりここでも作品の持つ、生活している生身の人間の匂いを感じさせてくれる。

そして、物語が進むにつれ、戦争の影は色濃くなっていき、悲劇が起きる。あんなにほんわかと緩衝材のように衝撃を受け止めていたすずも、やがて感情を爆発させる時がくる。居場所を見失って逃げ出そうともする。一生懸命踏ん張るばかりじゃなく、弱音を吐いて。

その弱さのなかに、さらにすずのしなやかな強さを見た。希望を持って前を向いて、どんな運命の逆風にも抗おうとガチガチになって頑張れば、ボッキリと折れてしまうこともあるだろう。でも、運命をのほほんと交わし、耐え難いときには身を任せて萎れてしまえば折れてしまうことはない。

泣いてばかりもいられない、とすずは言う。物の無い時代、塩分がもったいないから。日々の生活を大切にして生きていけば、人生なんとかなるものだ。

これから、自分よりも長く生きるであろう子どもの人生に戦争など絶対に起きて欲しくない。でも、自分の力だけでは避けようがない、どうしようもないことが起きるかもしれない。何が起きても、どんな時代が来ても、子どもにはしなやかでしたたかに生きていって欲しい、そしてそんな強さが具わるように育ててあげたい。(文:入江奈々/ライター)

『この世界の片隅に』は11月12日より全国公開される。

入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。